第218話 青い薔薇

マリアローゼがルーナを伴なって、キースの部屋に行くと、扉の前にキースの侍従のロストルムが立っている。

二人が近づくのを見て、扉を開けて中に言葉をかけた。

扉を押さえるロストルムの前を通り抜けて部屋へと入ると、シルヴァインとキースが向かい合わせに長椅子に腰掛けていた。


「お待たせを致しました」


マリアローゼがお辞儀をして顔を上げると、二人そろって怪訝な顔をする。


「何かあったのですか?」

「泣いたのかい?」


異口同音に鋭い二人に言われて、マリアローゼは目を逸らした。


「感極まって少々涙が出ただけで、何もございませんわ、ええ、何も」


慌てて視線を戻して言い繕うと、シルヴァインは肩を竦めた。

ルーナが傍にいて口出ししないのを見て、問題ないと判断したのだろう。


「じゃあ、話し合いをしようか、というよりもうほぼ決まっているんだが」

「そうですね。マリアローゼには問題ないか聞いてもらいたいのですよ」


マリアローゼは二人の間に据えられている一人用の椅子に、ぽふん、と座った。

目の前の机には書類らしきものが山積みになっている。


これに全て目を通すとしたら、数日はかかりそう……。


なのである。

でも、キースは聞いて欲しいと言っていたので、大人しくキースを見詰めた。


「まず、商会については既にギルドにも登録して、承認されています。僕達の希望と、マローヴァの意見を合わせて

名前はブルーローズ商会に決まりました」


青い薔薇。

という事は、兄達はマリアローゼの名前の一部を推したのかもしれない。

それは恥ずかしいが、商会の名前としてはインパクトもあって、美しい。


「まあ、素敵ですわ!この世に無い物を売るお店という意味かしら」


にこにことマリアローゼが言うと、シルヴァインとキースが短い言葉を交わした。


「ほらな」

「ですね」


え?なになに?なんですの?


二人は何となく、呆れたような、諦観に満ちたような顔をしている。


「な、何ですの?何かわたくし、変なことを申し上げまして?」


二人はちらと視線を交わして、キースが口を開いた。


「この名を決めたマローヴァが、最初にこの名付けの理由を尋ねた時にこう言ったんだ。

 「きっとお嬢様なら正解を知っているはずです」と」


「それは買いかぶりですわ。お兄様達だってお分かりになるでしょう」


シルヴァインはふう、と溜息を吐く。


「確かに予想はつくけれど、5歳の時だったら分からなかったかもしれないな」

「僕もその自信はありません」


二人は特に悲しそうではないが、マローヴァが見越していたのが嫌なのだろうか?

マリアローゼはむう、と口を尖らせた。


「いいえ、お兄様達はローゼより優秀なのですもの。きっと分かったに違いありませんわ。

それに、何れは青い薔薇でも、何でも作りだせるようになります。わたくし達は1人ではないのですもの!」


ふんすふんすと勢い込んで言うと、二人はやっと破顔した。

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