第202話 絶滅の危機
「そ、そんなぁあぁぁ」
露店が開かれている広場で、悲しげな幼女の声が響き渡った。
質素な服に身を包んで、布の帽子で髪の毛ごと包んで被っているマリアローゼ5歳である。
繊細な淑女だったら倒れていたかもしれない衝撃に、
マリアローゼは地面にくずおれていた。
「いや、でも7匹いるじゃないか」
そう。
行きに買った置物のロバのお店である。
色々な人にお土産やお守りとして配ったので、絶滅の危機にあるのだ。
だから、ありったけを買おう、とマリアローゼは勢い込んでいた。
「30くらいは欲しいですわね」
などと、宿を出る時はご機嫌に言っていたのだが、
いざ店についてみると、大分少ない数がしょんぼりと並んでいたのだ。
「ごめんよ、お嬢ちゃん。仕事の合間に作っているからねぇ。
1日に1匹出来るかどうかなんだよ」
精巧とは言い難いが、それでもマリアローゼが作れといわれれば最低3日はかかりそうな代物だ。
後ろからシルヴァインに助け起こされて、暗い顔のマリアローゼは、店に並んでいるロバを見詰めた。
「…では、こちら全部売ってくださいますか?」
「うんうん、ありがとうねえ」
あまりの落胆振りに、シルヴァインがマリアローゼの頭をぽんぽんと撫でた。
「注文して行けばいいんだよ、ローゼ」
「……注文?」
「手間賃と材料費と送料を先払いして、送ってもらえばいい」
シルヴァインの提案に、涙ぐんでいたマリアローゼはぱああっと笑顔を浮かべた。
「お兄様、ありがとう存じます」
「よし、それじゃあ何個注文しようか?」
マリアローゼはその質問に、迷うことなく答えた。
「50匹」
「え?桁間違ってないかな?ローゼ」
「え?500匹ですの?」
「そっちじゃない」
諦めたように肩を竦めたシルヴァインは、ギラッファから筆記用具を受け取って、簡単な注文書をその場で作る。
さらさらと男らしくも綺麗な筆致で、住所も書き入れて、老婆に渡した。
後ろにいて、筆記用具を受け取って、仕舞い込んだギラッファが、書面どおりのお金を老婆に支払う。
「こんなにいいのかい?」
「大変な手間だろう。急がなくていいから、半分くらい出来たら一度送ってもらえるだろうか?」
「はい。感謝します、おぼっちゃん」
傍らのマリアローゼはぷっくり膨らんだほっぺを紅潮させ、にこにこと満面の笑顔である。
その笑顔に、シルヴァインもにこやかに微笑を返した。
……あら?いつも煩いレイ様が静かですわね?
気付いたマリアローゼが後ろを振り返ると、綺麗に直立した姿勢でめちゃくちゃガン見していたのである。
困ったようにユリアを見ると、ユリアも溜息を吐いた。
「静かなのはいいですけど、目付きがヤバいんですよね。ストーカーの目ですよ、あれ」
「ストーカーとは失礼な。僕はただ、色んなマリアローゼの表情を目に焼き付けているんだよ」
「視線でマリアローゼ様が穢れるので止めて下さい」
「いや、僕は清らかな気持で見ているよ」
途端に騒がしくなったので、マリアローゼは傍らのシルヴァインの指を握って引っ張った。
「お兄様、わたくしリボンもまた買いに行きたいですわ」
「家に来る仕立て屋からも買えるよ?」
「乙女心が分かっておりませんのね。沢山の中から自分で選んで買うのが良いのですわ」
唇をつん、と尖らせて頬を膨らませてから、くるりと向きを変えてルーナと手を繋ぐと、
マリアローゼは以前に行った事のある路地の方へてくてくと向かった。
「ぐふっ」
「ぐふぉ」
同じような音を立てた不審者1と不審者2をその場に置いて。
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