第200話 奇跡じゃないアピール


教会に着くと司祭が入口で待ち構えていて、マリアローゼと一緒に来ていた神殿騎士のカレンドゥラやユーグと

挨拶を交わし、聖堂へと通された。

そこには思ったよりも大勢の人達が待っており、マリアローゼは目をぱちくりとさせた。


「お薬、足りますでしょうか……」


心配そうな声を聞いた修道女が、控えめに微笑みかける。


「半分は、お礼を言いに訪れた方と、奇跡を見に来られた方なのです」


奇跡ではないと言っていますのに……!


これはまた念押しに演説する必要があるようだ。

治った人々と会えるのは嬉しいのだが、奇跡だと思われると困ってしまうマリアローゼは、壇上で可愛らしく丁寧なお辞儀をして、優しく話し始めた。


「フィロソフィ公爵家のマリアローゼと申します。

これから治療させて頂きますけれど、これは奇跡などではありません。

こちらのお薬の効果です。

皆さんにも購入頂ける様に、販売する予定なので、どうかお待ち頂きます様お願い致します」


ぱちぱちと拍手とお礼の言葉が飛び交い、マリアローゼは微笑んで壇上を降りると、怪我人や病気の人々を看始めた。

と言っても、半分は助手のルーナの仕事である。

マリクから教わった通りに、患者の症状に合わせて薬を渡していく。

マリアローゼは、傷口に薬を塗る係でしかない。

はっとしたマリアローゼは手を止めた。


これ、わたくしがする必要ないのでは……。

寧ろ、わたくしがする事で余計な噂にさらに尾鰭がついたり、背鰭がついたり、

終いには鶏冠までついているような?


そこでマリアローゼは一計を案じた。

患者自身の手に薬を分けて、自分で塗って、傷が治る体験をしてもらうのだ。


「さ、ご自分で塗ってみてくださいませ」


恐る恐るではあるが、患部に塗りつけると、傷が癒えていく。

周囲の人も、おお…、と感嘆の声をあげた。


よっしゃあ!

成功ですわ!!


その後に続く人も、同じ様に薬を適量手に置いてあげて、自分で塗ってもらう。

マリアローゼが塗らなくても、薬で治ると見ている皆も納得するはずだ。

冒険者ギルドからも、怪我人が訪れていて、やはり同じように薬の効果を堪能してもらった。


「ふう、それでは、わたくしはお暇致します。

皆様のご健康をお祈り申し上げますわ」


全ての人を看終えたところで、マリアローゼが立ち上がって挨拶のお辞儀をして、

隣でルーナもペコリとお辞儀をする。


今迄見守っていた村人達が、手に手に色々な物を抱えて近づいてくる。


「これ、こんな粗末な物で悪いけど、お嬢様に…」

「こちらも貰ってくだせえ」


野菜やら卵やら、わざわざお礼の品を持って訪れたらしい人々に、マリアローゼは驚いた。

目をぱちくりさせ、マリアローゼは小さな手を口に当てる。


「そんな、皆様のお気持だけで十分ですのに」


「いらないかもしれませんが、どうか」

「お嬢様のお陰でまた働けるようになったんです」


その気持は嬉しい。

元気になってくれた事も嬉しい。

勿論、どんな品でも嬉しく思うのだが…


精一杯の品物を、持ち寄ってくれたのは分かるし、感謝の気持ちが詰まっているのも分かる。

人々の懇願をマリアローゼは無視できなかった。


「では、半分だけ頂戴致します。半分はこの教会で保護されている孤児院の子供達に食べて頂きましょう。

わたくしは皆様が元気になって下さっただけで嬉しいです。

だから、わたくしに返したいと思ってくださるそのお気持を、恵まれない子供たちへも分けてあげて下さいませ。

どうか、心より、お願い致しますわ」


マリアローゼは心を込めて、周囲の人々を見渡す。

あちこちで、何とお優しい、という声があがり、涙する人々も出てきた。


また、やっちまったのかしら……


胸の前で手を組んだ体勢のまま、マリアローゼは固まった。

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