第175話 面倒くさいお馬さん

「ああ、系統は同じかもしれない。君と同じかそれ以上に厄介な叔父なんだよ」

「え……うっざ…!」


思わずユリアの口から零れた言葉に、マリアローゼはおま言う?と突っ込みたくなったが、両方共略語なので、こちらの言語で適した言葉が無い。

言ってしまえば転生者だとモロバレしてしまうのである。

伝わらない事に気がついたユリアが言い直す。


「とても、鬱陶しい方ですね?」

「貴女が言ってしまいますか?それを」


言いたかった言葉をカンナが正しく言ってくれたので、マリアローゼは思わずふふっと笑った。


「楽しい御方のようですね」


「……まあ、俺は楽しくないけどね。父上も。…ああでも双子には懐かれてたなぁ」


遠い目をしたシルヴァインが、窓の外に視線を向ける。

どんよりと生暖かい雰囲気で、何やら重苦しい。


「一緒にやらかして、父上に物凄く怒られてたっけ…」


「まあ…それはお気の毒に…お父様……」


想像がつくような、つかないような…面倒くさい人であることは確かなようだ。

けれど、尻尾を起点としても、何故か思い出せずに、マリアローゼは首をこてん、と傾げた。


「うーん……何故だか思い出せませんわ。後頭部しか……」

「……ああ、君は起きてる間、抱っこされるか背中に乗っていたからね」


ん?背中?


マリアローゼは眉を顰めて兄を見上げた。


「……尻尾を掴んで、お馬さんにしてたんだよ」


おんぎゃああああああ!


叫びだしそうになって、マリアローゼはほっぺではなく今度は両手で口を塞いだ。


「そ、そんな羨ましい事を!?!?!」


別の意味で興奮したユリアが立ち上がる。


「座ってください、馬として定評もあるユリアさん」


ぐいっとカンナに手を引かれて、ユリアが座席にぽすりと座った。


「ひどいですカンナさん、売り込みの台詞をとらないでくださいよぉぉ」


マリアローゼは暗い、くらーい顔をして力なくシルヴァインに凭れかかった。

口から降ろした手も膝の上に力なく投げ出されている。

生気を失くしたマリアローゼを見て、慌ててルーナがその手を両手で挟み込んだ。


「今はルーナがお側にいます。安心なさってください」

「そ、そうですわ。それにもうわたくし立派な淑女ですので!お馬さんは卒業ですの」


生き返ったマリアローゼは、ルーナと視線を交わして、二人でこくりと頷いた。

微笑ましい二人の誓いに、カンナとユリアもにこにこと和んでいるが、

シルヴァインだけは浮かない顔をしている。


「……そうかぁ…5年も領地に…叔父上の側で暮らさなきゃいけないのか……」


不吉なシルヴァインの呟きに、マリアローゼは一瞬固まったが、ルーナに手をぎゅっと握られて、頷く。


「大丈夫です。ルーナがいますもの」

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