第172話 百合畑でつかまえて

ミルリーリウムは扉の方に行きかけて、くるりと身を翻して、並んで立ったままのルーナとマリアローゼを両腕に抱えるようにして抱きしめた。


「さ、続きを楽しんで。今度はお母様も混ぜて頂戴ね」


「はい、お母様」

「はい、奥様」


名残惜しそうに手を離すと、優しい微笑を残してミルリーリウムは部屋を立ち去った。


心配性の家族を持つと、嬉しい反面焦る場面も出てくるものだ。

親フラである。


マリアローゼはルーナの手を引いて、一緒に椅子に座ると食事を再開した。


「お兄様とお父様も早目に戻られるかもしれませんし、デザートはあちらの部屋で頂きましょう。

今日は4人で、紅茶とお菓子も楽しみましょうね」


「パジャマパーティーってやつですね!」


ふんすふんすと興奮しながら、ユリアが言うと、カンナが首を傾げた。


「何ですか?ぱじゃまぱーてぃって?」


「ああー…こちらの言葉に直すと…寝間着宴?寝間着でお茶やお菓子を頂く、無礼講?的な?」


ふふっとマリアローゼも笑って頷く。


「少しお行儀は悪いですけれど、偶には羽目をはずさないと…」


色々羽目は外しているんじゃないか?と突っ込むシルヴァインはここにはいなかった。

ルーナも心なしか楽しそうに、頬を染めている。


「おわ、お、お、終ったら、み、皆で雑魚寝…あ、いや、一緒にお寝んねしま…」

「私とユリアさんは備え付けの何時ものベッドで大丈夫です」

「ええぇ…カンナさんの裏切り者ぉぉ」


二人がじゃれているのを見ながら、マリアローゼはこっそりルーナに囁いた。


「今日は一緒に寝ましょうね、ルーナ」

「お嬢様のお望みのままに…」


幼女二人の遣り取りに、耳をダンボにしつつユリアは、頷いた。

もし、百合畑の人間であったならば、きっと今死んでいただろう、と。



マリアローゼが朝目覚めた時には、既に父と王宮騎士達は旅立った後であった。

隣で一緒に眠りに着いたルーナも、既にお仕着せを着て、マリアローゼの朝の支度の用意をする為に働いている。


「お目覚めですね、お嬢様。今お茶をご用意致します」

「おはよう、ルーナ、ありがとう」


ぽうっとまどろみながら起き上がり、何となく夢現の中聞いた悲しい声を思い出す。

何だか申し訳ないような気分になり、少し俯いているマリアローゼに、ユリアの明るい声が届いた。



「いやぁ、マリアローゼ様は流石ですね」


「え?何がです?」


突然褒められて、マリアローゼはこてん、と首を傾げた。

ユリアは、ベッドの傍らの椅子に座りながら、にこにこと屈託の無い笑顔を浮かべる。


「昨日、ルーナさんとお嬢様は早目に寝ちゃったじゃないですかー。

でも公爵様もお嬢様の仰った通り、急いで切り上げて帰ってきてはいたんですよ。

リリィ様からお二人のドレス姿の話を聞いて、急いで」


何だか嫌な予感がした。


「お二人はもう寝てる時間だったので、勿論ドレス姿に間に合わずに、公爵様泣いてました。

氷の公爵とか、ぷふっ…嘘ですよね、あれ。

シルヴァイン様とダンスした後に断られた公爵様もかわいそうだったけど、それ以上でしたね!」


あの、悲しい声は父の叫びだったのか。

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