第171話 女子だけの宴
「まぁぁ……何てこと……」
食事の最中に、様子を見に来た母のミルリーリウムが、部屋の中の光景を見て、口を押さえて絶句した。
ルーナが慌てて立ち上がって、ぺこりと深く頭を下げた。
「申し訳ありません、分を弁えず…」
「違いますわルーナ。何て可愛らしいのかしら」
マリアローゼが見守る中、ミルリーリウムが優しくルーナを抱きしめた。
そして、優しい笑顔をマリアローゼにも向ける。
「ルーナ、貴女は侍女だけれど、マリアローゼの大事な友人でもあるのよ?
怒ったりしませんわ、それより、ノクス、イルストを至急呼んで頂戴」
女主人の顔でキビキビと命じた言葉に、マリアローゼは笑顔のまま固まった。
今まさにミルリーリウムが呼びつけたイルストは、旅にも同行していた画家だ。
ずっと、特にポーズを取らされるでもなく、普通に過ごしていたマリアローゼを、
いつの間にか肖像画にしている天才的な画家なのだ。
マリアローゼからは誰がイルストなのかは分からず、正体不明である。
パタパタと走る音がして、青年が画材を抱えて部屋に辿り着いたようだ。
一呼吸置いて、
「失礼致します」
挨拶と共に、入ってきたのは直毛の金髪で目の辺りが隠れた青年だった。
背はひょろ高く、手足が痩せていて、骨ばっている。
入ってきた姿を見ても、マリアローゼの記憶には浮かんでこない人相である。
ミルリーリウムは満足げに頷いて、マリアローゼの手を引き椅子から立たせると、
ルーナの隣に並ばせた。
「この二人をこの衣装で描き上げてくださるかしら?」
「承知致しました。二枚で宜しいですか?」
「ええ、何時も通りに」
二枚?
もう一枚は何処へ行くのだろう…
いつもどおりとは…
マリアローゼの頭の中で疑問が渦巻くが、それをぶち壊すかのようにユリアの声が響いた。
「はい!三枚目をお願いします!等身大の!幾らでも出します!!家宝にするので!」
その勢いに、ミルリーリウムがふふっと楽しそうに笑った。
そしてしなやかな動作で、手をぱしりと合わせて、イルストを見詰める。
「折角だから、わたくしと、こちらの二人も一緒に5人の絵も一枚追加してくださる?」
予定外の追加に、イルストは口をぱくぱくとしたが、暫くミルリーリウム、カンナ、ユリアの順に視線を移し
ふう、と溜息をつくと、ミルリーリウムに再度向き直った。
「承知致しました。では作業に取り掛からせて頂きますので、失礼致します」
来た時と同じく、忙しそうにぱたぱたという足音が遠ざかっていく。
あの短時間で全て覚えたのだろうか?
と、マリアローゼはその背中を無言で見送った。
挨拶をする隙すら与えてもらえなかったのである。
「写真記憶でも持っているんですかね……」
というユリアの独り言のような呟きで、同じ事を考えていたと知る。
「うらやまけしからん……」
続いた言葉は同じで無かった事に、マリアローゼは安心を覚えた。
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