第163話 人間椅子

「ほら、ルーナさん、ほら!」

「その体勢に何か意味、あるんですか?」


とても醒めた目で、疑問を投げかけられ、ユリアはその体勢のまま腕を組んでうーん、と考え始めた。


「あ、そうだ。例えば野外で、マリアローゼ様が疲れて座りたいなって思ったとき、木とかあれば、余裕で座って頂けますよ、ユリア椅子」

「わたくし、地面でかまいませんわ」


安定するとかしないとか以前に、絵面が奇妙すぎて……


マリアローゼは取りあえず、野外では地面でも大丈夫と伝えるが、ユリアは納得しない。


「そんな、大事なお嬢様を地面なんかに座らせてなるものですか!」

「それは……そうかもしれません」


地面に座らせたくない、という主旨でいくと、ルーナは少し心が傾いてしまったようだ。

マリアローゼは、その様子にちょっと困って、回避方法を考える。


「そんなっ地面の癖に、うらやまけしからん!」

「座らせたくない理由がおかしい」


カンナが突っ込みを入れるが、考え込んでいたルーナが顔を上げる。


「お嬢様がお疲れになったら、私がおんぶして運ぶので大丈夫です」


キリッと宣言したルーナに、マリアローゼも頷きながら言う。


「わたくし、ちゃんと体力作りも頑張りますし…疲れたらルーナに手を引いてもらいますわ」

「はい、お嬢様」


立ち上がったマリアローゼの両手を両手で握りながら

ルーナが嬉しそうに、にっこり笑う。


腕組みと空気椅子をしたままのユリアは、そんな二人をにこにこと見詰める。


「お話は分かりました。それでは、手を繋ぐ、おんぶする、それが出来ない場合の予備としてユリア椅子。その時は座って貰いますからね?」


もはや脅迫では?


ぽかんと口を開けるマリアローゼに、ルーナは力強く言った。


「そんな事にはさせませんので、ご安心ください」


「そんな事って何か扱いが酷いですね?良い感じです」

「良いんですか…」


全くめげないユリアに、カンナが少し残念なものを見るような視線を送る。

その時、扉が開いてシルヴァインが戻って来た。

マリアローゼとルーナが両手を繋いで立っているのを見て、カンナが椅子に座っているのを見て、

最後に椅子になっているユリアを見た。


「あ、どうも、椅子のユリアです」

「椅子なんだ。じゃあ」


スッとシルヴァインがまさかのユリア椅子に座った。


「えっ…うっそ、重っっ……え、シルヴァイン様、ほんとに11歳??」


マリアローゼとしては、そんなシルヴァインに座られて体勢を保っているユリアに驚愕を覚えた。


割と筋肉が発達してるのかしら……?

脱いだらマッチョなのですか……?


疑問を思い浮かべるが、今質問したいことはそれではない。


「お兄様、お許しは頂けましたの?」

「早目に戻ってくればいいと言われたよ。護衛もフェレスやウルススが元冒険者だし、丁度いいだろうって」


体重をかけるように、シルヴァインは足を組んで、その上に肘をつき、手の甲に顎を乗せる。

ポーズは美しいが、背景がユリア椅子なのは残念でしかない。


「やばやば…重すぎる……筋肉?筋肉つきすぎじゃないですか?話と違うんですけど……っ」


確かに、原作ではもっと貴公子然としていて、脱いだら凄いんですみたいな感じだが、現状は、脱がなくても分かるくらいに筋肉がみっちりしている。

マリアローゼの好みだが、一般女性に受けがいいかどうかは分からない。


「お兄様、いくらなんでも女性に座るのはどうかしら……?」

「女性じゃないよ、椅子だから物だよ」


苦言を呈してみるも、あっさりと否定されてマリアローゼは眉を下げた。


「えっ??初耳……早く人間になりたいぃぃぃ」


何処かの妖怪だか怪人だかのような叫びを聞いて、漸くシルヴァインはユリア椅子から立ち上がった。

そして優雅に一礼をする。


「さあ、お望みの場所へ行こうか、お姫様」

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