第162話 二人への贈り物

マリアローゼはもう一つの荷物を手で指し示すと、説明を付け加える。


「こちらの袋には同じ物と、リトリーに宛てた手紙が入ってますの。

 起きたら渡してあげてくださいませね」

「はい。渡しておきます」


オリーヴェは袋の中を確認して、こくんと頷いた。


「リトリーの事も貴女の事もきちんと条件を出して、お父様によくお願いしておきましたから、心配はなさらないでね」

「はい……マリアローゼ様がお戻りになるまで、少しでも色々学んでおきます」

「それは、心強いですわ。では、わたくし内緒で来たので、もう行きますわね」


ルーナが横で、そろそろ、と口にした途端にマリアローゼはハッとして別れの挨拶を口にした。

こそこそと、慌てたように3人が扉へと歩いて行く。

部屋に取り残されたオリーヴェは、手の中の小さなロバを見て、嬉しそうにくすりと笑った。


走りはしないが早足で、部屋に戻ると、マリアローゼはぶみっと変な感触に足元を覗き込んだ。

ユリアが倒れている。


「あ…、ユリアさん大丈夫ですか?」

「大丈夫じゃないです……いきなり、皆いなくなるから、ううっ」


やれやれといった風情で苦笑しつつ、カンナがユリアを助け起こして椅子へと座らせた。


「すぐ帰って来たでしょう。あんまり面倒を言って嫌われてもしらないですよ」

「ユリア!元気です!お帰りをお待ちしていました!」


突然元気になったユリアに、ルーナは小さな溜息を落とし、マリアローゼは若干後ずさった。


「先程、少し踏んでしまいましたけど、痛くはないですか?大丈夫でして?」


あの足裏の妙な感触を思い出して、ハッとマリアローゼが心配そうにユリアに聞くと、ユリアはにんまりと笑った。


「いいえ、大丈夫です!我々の業界ではご褒美です!!」


我々の業界と言われてしまうと、真っ先に異端審問官が浮かんでしまい、

ユウトや長谷部が風評被害に見舞われてしまった。

マリアローゼは、とりあえずユリアの向かいの椅子に座り、元気そうなユリアに微笑みかける。


「大丈夫なら、良かったです。お兄様が戻られまして、外出の許可が頂けたらお出かけしたいと思いますの」

「何処に行かれるんですか?」


にこにことしつつ護衛モードのスイッチが入ったのか、ユリアが質問してくるのに、カンナが簡潔に答えた。


「冒険者ギルドに馬車で行くだけですよ。マリアローゼ様が怪我の治療に行くのです。私が冒険者達に話を聞いている間、護衛は任せますね」

「はい、喜んで!」


嬉しそうに返事をしたものの、ユリアがうーんと悩み始める。


「完璧に、守るには、膝に乗って頂くのが……」


等と言い出して、紅茶を運んできたルーナにすぐさま却下された。


「駄目です」

「やっぱり駄目かぁ~」


冷たい目を向けられて、冷たく言われたのに、ユリアは全く意に介していないようにのんびりと言った。


「これでも私、椅子としても定評がありますよ。ルーナさん、どうです?試しに…」

「嫌です」


拒否された。

秒で拒否されたが、ユリアは立ち上がった。

何をするのか見守っていると、壁に背を向けて寄りかかり、段々腰を落としていく。


空気椅子だ、懐かしい。


と懐かしさに思わずマリアローゼは頷いた。

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