第161話 冒険者ギルドに行きたい
「何かお願いごとでもあるのかな?お姫様」
恭しくマリアローゼの足元に跪いて、小さな手の甲に口づけを落としてシルヴァインは微笑んだ。
マリアローゼはそんなシルヴァインの王子様ムーブをジト目で見る。
「何か悪いものでもお召し上がりになったのですか?」
「酷いなぁ。君の言うとおり、女性の扱い方を学んでいるんだよ」
首を傾げて爽やかに微笑む姿は確かに凄くかっこいい。
篭絡の仕方を学ばなくても十分笑顔でお釣がくるのでは?
とマリアローゼは遠い目をした。
以前兄に注進したのは、どちらかというと逃げる方なのだが…
「まあ、いいですわ。実践で頑張ってくださいませ。
公爵邸に持っていってほしい荷物をお父様に預けるついでに、外出の許可を頂きたいのです」
「んん?外出どころか部屋を出るのも禁じられているから、俺に頼んでるんじゃないのか?」
意地悪く笑うシルヴァインに、マリアローゼは大きく溜息を吐いた。
「そうですわ。この町にある冒険者ギルドは大きいと聞いております。
折角ですから薬の宣伝もかねて、怪我の治療に参りたいと思いますの。
更についでに市場調査もしたいのですわ、大体幾らなら手に取りやすいのか、
元冒険者のカンナさんなら、色々な冒険者の方とお話出来ますでしょうし」
後半はちらり、とカンナを見上げ、そんなマリアローゼにカンナはにこやかに頷いた。
「そうですねえ。大体の相場は予想がつきますけど、実際に話を聞いた方がより確実だと思います。
私はご協力しますよ」
「うーーーん。言ってみるだけは言ってみるけど、父上が許すかは分からない。
ギルドとの往復だけだったら問題ないとは思うが、まあ、鋭意努力するとしよう」
マリアローゼの荷物を受け取って、シルヴァインはスッと立ち上がる。
扉を出て行きかけて、足を止めてマリアローゼを振り返った。
「ああ、そうだ。行くとしても時間はそんなに取れないと思うよ。
今日は騎士達を労う日だからね」
「はい、お兄様」
素直に頷くマリアローゼに、もう一度微笑んでからシルヴァインは颯爽と扉から出て行った。
シルヴァインが立ち去って、すぐにマリアローゼはすっくと立ち上がった。
「さ、今の内にオリーヴェにお手紙を渡しに行きましょう」
「でも、ジェラルド様にお部屋を出るのを禁じられておいでです」
困った様にルーナが言うが、マリアローゼはフフン、と胸を反らした。
「抜かりはありませんわ!お兄様が戻るまで時間がありますもの。
ささっと行ってささっと戻ってくれば問題ありませんわ」
「では、急ぎましょう」
きちんと帯剣した姿のカンナが立ち上がると、ルーナも諦めたように、先導して扉を開いた。
外の扉でもノクスが何か言おうとしたが、ルーナが首を振ったのを見て、そのまま三人を見逃すと、
一路オリーヴェとユリアの部屋へ向かった。
こっそりと訪れた三人に躊躇した騎士達はマリアローゼに可愛くお願いされて、
部屋の中だしいいか、とあっけなく通してしまった。
無事部屋に入り込んだマリアローゼがオリーヴェに手提げ袋とロバの置物を手渡す。
「ご機嫌よう、オリーヴェ。貴女に良い物を持ってきました」
「おはようございます、マリアローゼ様。…これは?」
渡されたのは、貧相な顔をしたロバの置物だった。
その辺の露店で売っていそうな……公爵令嬢が手に入れそうな物でもないそれに、
オリーヴェは首を傾げた。
「可愛いでしょう。ロバの置物ですわ。わたくしのお気に入りですの」
「……そう言われてみれば、何処か愛嬌がありますね」
にっこりと微笑むオリーヴェに、満足げにマリアローゼは頷いた。
「お守りですのよ」
「ありがとうございます。大事にします」
オリーヴェは嬉しそうに両手で包んで、大事そうに胸の前に掲げた。
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