第149話 誰が聖女を殺したか?
「珍しいお茶を手に入れたので、一緒にのみましょうっ」
先に言ってあったのか、お湯の入っているだろうティーポットが運ばれてくる。
その中に、リトリーが丸められた茶葉を、ぽちゃん、と落とした。
後は従僕が、ティーストレーナーで漉しながらカップに注ぎ入れて行く。
「何処で手に入れましたの?」
あからさまに怪しいので、入手ルートは聞いておく。
「メイドのエマが紅茶の生産地の出身で、ひとつだけ高級な茶葉を用意してもらえたのですっ」
「……そう」
怪しんではいたが、一番最初にリトリーが紅茶に口を付けたので、
心配は杞憂かと思い、マリアローゼも紅茶を口に運ぶ。
続いてテレーゼも紅茶を口にした。
だが、おかしい。
マリアローゼは口からカップを放すと、中の紅茶を見つめた。
「……えっ…あ……」
テレーゼがふるふると身体を震わせ、マリアローゼの手の中からカップが飛ばされた。
いつの間にか側に寄ったユリアが、マリアローゼの手からカップを払いのけたのだ。
「う、…嘘っ…な、何でっ……」
見ればリトリーも顔を真っ青にしている。
心配していた毒だ。
「毒を抜いて!治癒の魔法が使えるなら出来るでしょうっ」
「か…がは……っ」
血を吐き始めたテレーゼに言うが、掌に零れ落ちた血に驚いて、嫌々と首を振る。
「で、できな…っ…ぐ…ごほっ……」
身体が崩れ落ちて、椅子の傍らに倒れこみ横たわる。
その手をマリアローゼは握った。
「落ち着いて、毒を抜くのです。聖女候補ならば、出来る筈です」
「ごめ…なさい……ごめ……」
涙目で謝罪を繰り返すテレーゼに、もうマリアローゼの言葉は届いていなかった。
段々と、目から光が消えていく。
手からも力が抜けて行った。
顔を上げると、リトリーは何とか持ち直したようだ。
血は吐いていないものの、顔色は悪い。
「…私は、悪くない…だってエマが言ったもの、お腹が痛くなるだけだって……」
「拘束してください。牢へ連行して見張りをつけて!
使用人エマも拘束!居場所が分かる者は案内を!」
側で見守っていたユリアが指示を飛ばす。
「カンナ、公爵達に毒殺事件を伝えて!」
言い置いて、案内をする使用人と共に部屋を駆け出した。
「お嬢様、お部屋に今すぐお戻りを」
返事を聞く前に、ウルススがマリアローゼを抱えあげて、部屋へと走り出した。
走りながらマリアローゼに問いかける。
「お身体は大丈夫ですか?治癒師は?」
「必要ありませんわ…大丈夫です。
どうか、父上をすぐ呼び戻して下さい」
ウルススに掴まりながら、マリアローゼは考え始めた。
テレーゼの手を取ったあの時、救おうと思えば、多分救えた。
だがそれは、同時に自分の未来を捧げる行為に他ならない。
悪人だと謗られようとも、マリアローゼはそうする気は無かったのだ、最初から。
もしその力を使うのならば、命を賭して人々の為に戦っていた冒険者を癒しただろう。
あの時に既に覚悟は決まっていた。
それは、見捨てるという覚悟だ。
出来る限りは助けるが、家族との人生がマリアローゼにとって一番大事なものだ。
優先順位を変える気はない。
それならば、あの時自分の精一杯の力で冒険者を助けたように、今回も出来る事はまだあるかもしれない。
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