第148話 仲直り…仲直り?

マリアローゼは部屋に戻って、自分の座るべき席へと歩いた。

ノクスが椅子を引き、そこへと腰掛ける。


「謝罪の場を設けたいというお申し出だった筈なのですが、わたくしの勘違いでしたかしら?」


「私は知らなかったんです。リトリーが…」


と言いかけた所で、リトリーがぴょこんと頭を下げた。


「ごめんなさいっ。父が殿下がいた方が良いだろうって……」


「まあ…お父様は気の利く御方ですのね」


勿論、余計な事しやがってという嫌味だが、二人には伝わらないだろう。

いつものように穏やかな笑みは浮かべたりせずに、マリアローゼは冷たい眼差しで二人を見据えた。

断って帰したのを見れば、王子がいて嬉しいといった態度ではないのは一目瞭然である。

この二人は穏やかに接すると、許されたと勘違いするだろう、と判断しての対応だった。


冷たい目線に、明らかに二人は挙動不審になっている。


「あの…ええと…ごめんなさい。……色々と」


何を謝ったらいいのか、多すぎて分からないのだろうか。

テレーゼは困ったように、色々とひっくるめてふわっと謝罪を口にした。

謝ろうとする気持ちになったのは進歩だが、それでは何とも言えない。

マリアローゼは黙ったまま、続きを待った。


「……私とリトリーには、この世界とは別の世界の記憶があって、その通りに行動すればいいと思って…全部は同じじゃないんだけど

…だけど、間違いだったみたい…」


「仮定の話ですけれど、この世界の話を別の世界で周囲の人にしたら、どう思われますの?

 親しくも無い殿方を追い掛け回したと知られたら、受け入れて貰えるのかしら?」


「それは………」


絶句して二人は顔を見合わせて、暗い雰囲気に染まった。


「変人だと、思われると…思います」

「良かったですわ。ここでも同じですの。貴女方は既に変人として周囲に周知されておりますわ」


リトリーは俯いて、テレーゼは両手で顔を覆った。

漸く、現実への認識が追付いてきたらしい。

マリアローゼは大きく溜息を吐いた。

これで漸く、第一歩。

前進したのである。


手元に置いてある紅茶を一口飲んで、この前と同じような残念な菓子をみつつ、手を引っ込める。


あまり美味しくないし…


と思ったが、思い直してクッキーを一枚口に入れる。

そして沈み込んで吸収されるのを待った。


テレーゼが顔を覆ったまま、しくしくと泣いている。


「どうじだらいいんでずがぁ~~」


一応は、敬語である。

マリアローゼはふむ、と唸ってから自分の考えを口にする。


「真面目に、生きる事です。学ぶべきを学び、人に対しても礼儀正しく。

 少なくともきちんとした淑女になれば、国主様も素晴らしいお相手を見つけて下さいますわ」


「でも、推しにあえないんでしょう~~」


まだ言うか。

少し呆れはするが、情熱を認めて真面目に答えを返す。


「楽をしたくて、間違った道を選んでしまったのだから仕方ありませんわ。

どちらにしても淑女として、知識と知恵を身につけない限りは何事も無理です。本当に無理です」


取りあえず無理を強調しておく。

今は平均以下の知識と常識しか持ち合わせていないのは確かだ。

何処にも行けずに、神聖国で飼い殺しにされる他無い。

そこから脱する事が出来るのか、脱しないまでも望んだ人生に近いものを得るか、それは運次第だ。

そしてその運は、努力して平均以上にならないと、意味がないものなのだ。

0にどんな数字をかけても0にしかならないのと同じである。


「…わかりましたっ…私っがんばりますっ」

「私も…やってみる…」


とりあえずは収まるところに収まっただろうか。

マリアローゼはほっと息を吐いた。

大変に、疲れた。

早く部屋に帰りたいし、家にも帰りたい。


「仲直りという事で、よろしいですかっ?」


笑顔でリトリーが訊いてきた。


仲直りと言われると、こちらも悪かったようなイメージがあるし、

こちらが仲良くしたいと思ってると言うような口ぶりでは…?


和解はしてもいいが、仲良くはしたくはないのである。

微妙な言葉だが、面倒なのでマリアローゼは頷いて、微笑を返した。

出来れば二度と神聖国には来たくは無いので、関わる事も今後はもう無いだろう。

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