第147話 怪しいお茶会

今回のお茶会は、茶会とはいえ厳重な警備を許可されているので、

選抜した数名の騎士と、ユリア、カンナ、カレンドゥラが部屋に入る。

本日もマグノリアは捜査協力の為に不在だった。

やはり嘘を見抜ける力と言うのは悪を罰するにあたって、得がたいものなのだ。


そういえば、明日出発だけれど、マグノリア様もご一緒に帰れるのかしら


とマリアローゼは思い浮かべた。

兄が刑は決まったが、捜査は続くと言っていたのを思い出す。

それは襲撃事件だけに留まらず、反乱分子の炙り出しでもあるのは分かっていた。

その調査にこそ、マグノリアの力が必要に思えたからだ。


部屋に入ると、茶会用のテーブルに既に二人は座っていて、更にヘンリクスもいる。


殿方は参加不要と伝えたのにいるという事は、殿方ではないのかしら?


と、冷たい目線を二人に送りながらマリアローゼは口を開いた。


「本日は殿方の参加をお断りするという約束で参りましたの。

 守られないならば今すぐ帰りますわ」


「そっ、それはっ…」


リトリーが慌てて立ち上がりかけ、それより早くヘンリクスが立ち上がった。


「失礼しました。昨日は公務が遅くまであり、どうやら連絡を聞き逃したようです。

 貴女に最後にもう一度お会いしたかった気持ちを、どうか許してください」


連絡を聞き逃すという事はないだろう。

王子とだけでも縁を繋ぎたいどちらかの養父が手を回したのかもしれない。

参加してしまえばこちらも断る事はないだろう、と踏んでの事だろう。


王子を釣る餌にされたのか、それとも王子と縁を繋ぎたいのはこちらもだろうと見られたのか。

どちらにしても甘くみられたものだ。

自分、というより公爵家が甘く見られたことに、マリアローゼは怒りを禁じ得なかった。

ギロリと再度冷たい目で二人を見て、それから一旦息を吐いた。


マリアローゼは心を鎮めて、にっこりとヘンリクスに微笑みかけた。

自国の貴族と聖女候補の不備を庇った王子は公正で、寛容だ。


「許すだなんて、とんでもございませんわ。お会い出来ました事、嬉しゅうございます。

では、お見送りさせて頂きますわね」


でも参加は拒否する。

見送ると言えば、はよ帰れという婉曲的な意味として、彼になら伝わる筈だ。

聖女候補の二人と違って。


帰る直前に差し込まれた今日のお茶会はとても怪しい。

何らかの思惑があった場合、ヘンリクスにとっても危険なのだ。

聖女候補二人が奇跡を行えなかった場合でも、マリアローゼは自身の力を奮う事は出来ない。

じっと視線を合わせて、ヘンリクスはにこりと微笑み返した。


扉から出るまで共に歩き、短い言葉をヘンリクスに伝える。


「殿下、これから何が起こるかわかりませんの。

 どうか無礼をお許しになってくださいませ」

「貴女は危険ではないのですか?」


無礼を働かれた事より、心配をされて、改めてマリアローゼは微笑を返した。


「わたくしは対処できますわ。心配でしたら控室に我が兄もおります」


気になるのなら、そちらで待機して欲しいという意味で、マリアローゼは口にした。

勿論、自室に引き揚げてくれるのが一番望ましいが、彼には彼の責務もある。

何か起きた場合、この場を離れた事に、責任を感じてしまうかもしれない。


「……分かりました」


可憐な微笑を浮かべたままマリアローゼはお辞儀をすると、美しい髪を揺らして部屋の中に戻っていく。

ヘンリクスはそれを見送りながら、何も出来ない不甲斐なさに拳を握り締める。

そして、マリアローゼの示唆した通りに、彼女の兄のいる控室へゆっくりと歩を進めた。

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