第146話 ツインテールは恥ずかしい

それならまあいいか、とマリアローゼは首を飾る宝石を決定して、服の横に並べて置いた。

次はティアラも一応選んでおく。

ダイヤモンドらしき透明なキラキラした宝石と、赤い宝石が散りばめられた物を選び、指輪も赤い宝石の物を選ぶ。


そこへ、ルーナとユリアが連れ立って戻ってきた。


「まずはお着替えを致しましょう」


ルーナが、着替えのドレスを持ち、促されるままマリアローゼは着せられていく。

アクセサリーも付け終えて、鏡台の前に座ると、ルーナが髪を梳かして結い上げていく。


「あら……こ…これは……」


ツインテール。

前世では全くもって馴染みの無かった髪型である。

ちょっと恥ずかしい部類の髪型に、マリアローゼの中では分類されていた。

だが、鏡の中の幼女に似合わないということはない。

恥ずかしさは残るが、口を噤む。


高く結い上げた髪に、ドレスと同じ色の細いリボンと大き目のリボンを飾りつけ、

最後にティアラを頭にはめ込む。


「少し派手ではないかしら……」


「いいえ、とても、とても!可愛らしいです」


ユリアがすかさず大声で擁護してきた。

ルーナを見れば、笑顔で頷いている。


「そ、そう。ならいいのだけれど」


チョーカーだけでは胸元が寂しいかと思ったが、ドレスも胸の辺りにリボンがあるので、バランスは悪く無さそうだった。

戦闘準備は整ったので、マリアローゼは最後の仕込みに入った。

ベッドに戻り、他の人々から見えないようにロサを手に取り、見詰め合う。

ロサに目があるのかどうかは分からないが。



「あれ?」


隣の部屋に行くマリアローゼが通り過ぎる時に、ユリアがマリアローゼを見咎めて呟いた。


「どうかしました?」


横から騎士服を身につけたカンナが聞いてくるので、ユリアは首を傾げつつ答える。


「お化粧してるようには見えなかったんですけど、マリアローゼ様の唇がいつもよりぷるぷるだったような…?」

「……細かいところまで見てますね」

「そりゃあ…マリアローゼ様は私の命なので!」


重い事をさらりと言い放ち、隣の部屋についていくユリアを、カンナも追いかけた。

ユリアの観察眼には恐れ入るが、確かに言われてから見るとぷるぷるのツヤツヤだ。

といって油っぽい訳ではない。

瑞々しい美しさで、いつもより豪奢な装いもまた美しい。

その可愛らしさにカンナの頬も緩んだ。

シルヴァインも手放しで褒めちぎっている。


「は~~~何着ても可愛い」


ユリアは壊れた玩具の様に何度も呟いている。

カンナは苦笑しながらそんなユリアと、美しい兄妹を見守った。


大勢の騎士達と神官に囲まれて、マリアローゼは城内を移動していた。

大名行列である。

先導する従僕の後ろについて歩いていくマリアローゼ一行を見て、

使用人も貴族も道を譲って、お辞儀をしたり会釈をしていく。

話しかけてくる者はいない。


元々同じ祖をもつルクスリア神聖国とアウァリティア王国では、身分の差が未だに残っている。

王国の、一公爵が領地と共に独立した経緯があるので、国土自体小さい。

宗教国家としての覇権はあるが、身分制度では今でも王族というより公爵として扱われているのだ。

王国だけではなく、帝国でも同じだった。

公爵より上、されど王族よりは下、という位置として見られている。

それ故に神聖国の公爵は、他国の侯爵伯爵と同程度に扱われていた。

そして公式な場や往来で身分の低い者から声をかけるのは、どの国でも礼儀に反する。

王の地位に次ぐといわれる、王国の筆頭公爵家の人間に声をかけられるのは、

この国では王族くらいしかいないのだ。

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