第145話 魔法少女にはなりたくない
その夜、晩餐に父が持ち帰った知らせは良い物とは言えなかった。
「あら…お茶会を…?」
「嫌なら勿論、断っても構わない」
シルヴァインは完全に醒めた顔で父を見ている。
それは聖女候補二人の養父である、ダドニー男爵とクレイトン伯爵によるお茶会の申し出であった。
名目は、数々の非礼への謝罪、である。
「いえ…謝罪したいというのであれば、お受けしないと狭量だと思われますし、
今回だけは、わたくしの苦言の通りに父君を通されての申し出ですので、お受け致しますわ」
行動を訂正してくるのはマリアローゼには予想外だった。
もっと長い時間がかかると思っていたのだ。
もしかしたら別の思惑があるのかもしれないが、受けないという選択はしない。
デザートを口へ運びつつ、マリアローゼは少し考える。
「俺も一緒に行きましょう」
「駄目ですわ」
シルヴァインが不承不承言い出したが、マリアローゼは即座に首を横に振った。
「シルヴァインも誘われてはいるんだよ」
困ったようにジェラルドが言うが、断固としてマリアローゼは首を横にふるふると振る。
「わたくしからの唯一の条件として、申し出を受ける際にお伝え下さいませ。
殿方の同席はご遠慮頂きたいですと」
「ふむ、分かった。伝えておこう」
父は何か考えながらも、深く頷いた。
了承した父を見て、シルヴァインもそれ以上の追究はせずに、押し黙る。
沈黙したものの、疑念をこめた目線で訴えかけるシルヴァインにマリアローゼは答えた。
「問題ございませんわ。ユリアさんとカンナお姉様がついてらっしゃいますもの。
それに、お兄様がいては、彼女たちの気も散るでしょうし」
恨むならご自分の顔面偏差値を恨んでください、と心の中で付け足す。
シルヴァインは肩を竦めて、大袈裟に溜息をついて見せた。
「大丈夫です。万全の準備を致しますので」
「分かった。では控室で大人しく待っているよ」
部屋で待てばいいのだが、譲った結果が控室なのだろうから、マリアローゼもそれには頷く。
場所はこの前とは違う、賓客用の客間で行われるらしい。
この国で最後の仕事となるので、護衛騎士も全員強制参加になるようだ。
「予定通り出発は明後日だ。……何事もなければな」
意味深なその言葉が、不吉な予言となって的中する事になるのだが、
それはその場にいる全員が危惧していたことではあった。
翌朝、父母は最後の社交に出かけていく。
残されたマリアローゼはお茶会用のドレスを選び始めた。
「青、緑、と着たので、最後は赤にしようかしら……」
顎に手の甲を当てて考え込む姿に、ユリアはまたも部屋の隅で悶絶している。
「そうですわね。最後ですし、分かって頂く為にも華美に装いましょう」
あまり華美なのは好きではない。
似合いはするのだが、見た目ではなく心理的な意味で下品な気がしてしまうからだ。
勿論、社交と言う事柄上、豪奢な装いは不可欠なのは分かっている。
着飾り、財力を見せる事は貴族としての義務でもあるのだ。
今回は特に、公爵家の財力と権威を見せる必要がありそうだった。
「それなら良い考えがありますよ!!」
置物が喋った。
マリアローゼは思わず笑い声を立てる。
「何ですの?」
「髪型を、今、考えてました!ちょっとルーナさんに説明してきますね!!」
るうなさあんっ、というユリアの呼び声の余韻を聞きながら、
準備されていた宝石箱を開けていく。
赤い色の宝石はルビーだろうか、ガーネットだろうか…
見た目で違いは分からないが、ドレスの色に合いそうなチョーカーがある。
子供の身体には普通のチョーカーは緩いので、ビロードのリボンに宝石が付けられていた。
将来的にはチョーカーやペンダントトップとして作り直すことが出来そうだ。
問題はカットなのだが…ハートの形の、ハートシェイプカットになった赤い宝石。
何かの魔法少女みたい…
綺麗なのだが、少し子供っぽく見えてしまう。
あ、まだわたくし子供だったわ…
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