第150話 王との交渉

「無事か?ローゼ!」


思ったよりも父の帰りは早かった。

というよりも、出かけたから城から離れたのだと思い込んでいたのだが、城内にはいたらしい。

一緒にモルガナ公爵も開け放った扉から入ってきて、マリアローゼの様子を見た。


「大丈夫ですわ。きちんと対策はしておりましたもの。それよりもお願いがございます」

「言ってみなさい」


ほっとしたように、ジェラルドはモルガナ公爵にも椅子を薦め、マリアローゼの座る長椅子の前に腰掛けた。


「今回ヘンリクス様も急遽お茶会に参加する予定だったのですが、 始める前にわたくしからお断りして、帰って頂きました。

リトリー様が使用人から貰った毒入りの茶葉をいれ、テレーゼ様が死亡しました。

此の度の謀略の狙いはわたくしと聖女二人と王子を狙ったものと思われます。

表向きには」


そこで、マリアローゼは一旦区切って、ジェラルドとモルガナ公爵を見た。

今の見解を公式として欲しいという事だ。

王子まで狙われたとあれば、例え聖女候補だとしても厳しい対処をしなくてはならない。

また、再三に渡り狙われ続けたマリアローゼに対しても、申し訳が立たないのだ。

まずは弱味を突き付ける必要がある。


「テレーゼ様の遺体と、リトリー様の身柄の引渡しを要求して頂きたいのです。

条件を飲むのなら内々に収めて下さいませ。

聖女は病死として折を見て発表して頂くだけで良いです。

リトリー様は王国の修道院へ監視付きで入れると伝えてください」


「何故だい?ローゼ」


「リトリー様も聖女で無いならこのまま処刑されるでしょう。でしたら試したいことがあるのです。

それに、処刑の沙汰が下る前に、内々に自害させられる事のないようこちらの者も見張りにつけて下さいませ。

大事な事なので、今すぐにお願い致します。

テレーゼ様のご遺体も防腐したいので、氷で覆ってくださいませ」


「問題ない。王との交渉は私が任されよう」


モルガナ公爵が早速立ち上がって、侍従に何事かを命じると、父の肩に手を置いた。

父も侍従を伴って、モルガナ公爵の後に続く。


「危険な目に遭わされたのだ。お前の希望は全て通そう。だが、部屋から出ることは禁ずる」


父は振り向いて、それだけ言うと踵を返して部屋を後にした。

シルヴァインは控えの間から戻っていない。

マリアローゼの無事を聞いて、他の用事を優先したのだろう。

ルーナはマリアローゼの世話を甲斐甲斐しく焼き、アクセサリーを外してはきちんと元の箱に戻す作業をしている。

ユリアはまだ戻っていない。


「あの…ローゼ様、どうして大丈夫だったのですか?」


心配そうに、ルーナがマリアローゼの髪を下ろして梳かしながら聞いてきた。

考え事をしていたマリアローゼは鏡越しにルーナを見詰めて、それからにこりと微笑んだ。


「驚かないでね?」


と一言注意して、マリアローゼは口から何かを掌に吐き出した。


「……あっ」


ピンクのぷよぷよした物体は、マリアローゼの従魔、ロサである。

正直、モザイクをかけないといけない場面である。


「毒は全てロサが防いでくれましたわ……クッキーもあげましたけれど」

「お嬢様、凄いです」


今はまだ追及してくるシルヴァインがいないが、戻ってきたら文字通り全て吐かされるだろう。

でも一番良い防御方法だと思えたので、後悔はしていない。


などとルーナと遣り取りをしていると、扉がノックされた。

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