第138話 陰謀と処刑
夜会も無事終った翌日、昨夜ダンスを断ったせいで父はしょんぼりと出かけていった。
母はそんな父に苦笑しながら、招待されたお茶会にこちらも出かけていく。
二人とも外交で忙しいのだ。
シルヴァインも午後のお茶会まで出かける用事があるのだが、
朝食後、父母が出かけた時間帯にマリアローゼの昨日の質問の答えを聞かせてくれた。
「グランスの妹のアニスについてだが、どうやら大分前に亡くなっていたらしい」
「それでは…手紙は誰かが偽わったものですの?」
グランスは半年に一回程度の遣り取りを交わしていたという話をしていた。
シルヴァインは苦々しげに頷き、ため息をつく。
「アニスの死んだ時期と、墓の所在。金を受け取り、偽の手紙を出した人物を捜索している。
この件はハセベー殿にも話をして、ヨハン枢機卿の財産から慰謝料を支払わせるし、加担した人物も罰する予定だ」
と言いつつもシルヴァインの顔は浮かない。
いや、晴れ晴れした顔で話されても困る内容ではあるが、他に何か問題もありそうな。
「何か気にかかる事がお有りですの?」
「うむ。昨日捕まった枢機卿含めて全員が、昨日の内に極刑を言い渡されている」
それは早すぎる決断では?
マリアローゼも眉を顰めた。
「早目に処断したいお気持は分かりますけれど、調べ終わらない内にもう決めておいでなのですか…」
「対外的にというか、父の手前そうしたのか、それともモルガナ公爵が特別な手を打ったのならいいんだが
まあ……我々が口を挟む問題ではないし、捜査も打ち切った訳ではないからね」
「ふむぅ…」
気にはなるけれど、これ以上望むべくもない結果でもある。
謹慎や減俸、追放…などでは父やモルガナ公爵も納得しないだろうけれど、
首謀者二人が極刑になるなら分かるが、それ以外も一斉に処刑されるとなると、
もうこれは粛清である。
宗教国家であるがゆえの厳しさを示したいのだろうか。
「もしかしたら、神聖教を狙う組織の排除についてもお父様とモルガナ公爵が進言されたせいで、芽を摘むほうを優先されたのかもしれません」
「多少きな臭いが、追及できない決定ではあるな。
じゃあ俺は少し出かけてくるから、ローゼは大人しく茶会まで部屋でのんびりしていて」
シルヴァインが立ち上がりながら、何度目かの確認をする。
見送る為に一緒に立ち上がったマリアローゼは大きな溜息をついた。
「お行儀よく大人しくお待ち申し上げております」
スカートを持ち上げて、お見送りの挨拶をしたマリアローゼを振り返って、
シルヴァインは爽やかに満足げな笑みを返した。
さて。
と、マリアローゼは部屋を見回した。
ここは家族に貸し出された部屋の応接間で、今はマリアローゼとルーナしかいない。
正確にはカンナは昼には戻ってくるし、扉を隔てた廊下にも、部屋の窓の外にも警備の騎士達がいる。
侵入しようがないし、出ることも出来ない安心安全な空間である。
そして部屋の隅にはユリアという置物もしっかり立っていた。
侍女のエイラは今日は母のミルリーリウムの侍女として、茶会へと同行している。
邪魔者はいない。
マリアローゼはルーナにこそこそと内緒話をして、ルーナは頷くと廊下に続く扉をノックしてノクスを呼ぶ。
今度はルーナがノクスに内緒話をして、ノクスが頷いた。
ノクスは一度扉の外に出たが、暫くすると応接間へ入ってくる。
そこでルーナとマリアローゼは、マリアローゼ用の部屋へと移動した。
その扉の前にノクスが立つ。
ユリア(置物)が後を追おうとして、ノクスが間に入った。
「あの…通して下さいノクス君。もう時間がないんです。私にはもう時間が…っ」
「お嬢様は少しお休みになるので、ご遠慮下さい」
ルーナとよく似た美少年のノクスに、改めてちょっと心を奪われかけたユリアだが、ぶんぶんと首を横に振って縋った。
「静かにしてますから、寝顔をねっ?見せて欲しいなって…」
きゃるん、と首を傾けて甘えるようにお願いをしてみるが、涼しい顔でノクスに首を振られた。
「いいなーノクス君は、ずっとお嬢様のそばにいられてー。私だってお嬢様のおそばにいたいよー」
えーん、と言って大げさに泣き真似をしてみると、今度は冷たい目で見られてしまった。
手ごわい…と冷たい目に少し後ずさったユリアだが、諦めずにあの手この手で何とか突破しようとしていた。
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