第135話 ファーストダンス
賓客専用の控えの間に通されて、夜会の準備が整うのを待つ。
フィロソフィ公爵家の面々と、現モルガナ公爵であるマリウスがその場で寛いでいた。
「いやあ残念だなぁ。私も息子を同伴したかった」
暗めの金色の髪が波打つ長髪を後ろで束ね、緋色の瞳に笑みを浮かべて、マリアローゼをじっと見ている。
それを耳にしたジェラルドは仏頂面で、マリウスを見やった。
「残念だったな」
「君が急かすから取るものも取りあえず家を出るしかなかったんだよ」
「急かして正解だったな」
などと軽口を叩き合っていて、仲は良さそうだなとマリアローゼは二度三度頷いた。
シルヴァインはマリアローゼの隣に座り、提供されている酒を少し飲んでいる。
泣き止んでしゃっきりしたユリアは、カンナと共に壁際に立って、マリアローゼを見守りつつ談笑していた。
控えの間は会場の大きな階段の上に有り、向いが王族用の控えの間となっている。
二つの部屋の間の通路を通って進むと、下へと降りる大階段があり、そこを下ればパーティ会場だ。
階段の上に到着した所で、名前を呼ばれて下に下りていく。
ルクスリア神聖国では到着順ではなく、下級貴族がまず会場に下り、次に王族が正面の壇上へ座る。
それから国内の上級貴族が会場に下りて、王族に挨拶を終えて会場に散らばり、
最後に外国からの賓客が通されるのだ。
貴族達の入場が終わり、ヘンリクスが来た事が伝えられた。
「フィロソフィ嬢、お迎えに上がりました」
白の燕尾服に銀糸の縫い取りの、マリアローゼと対になっているかのような出で立ちでぺこりと挨拶をする。
胸に飾られている宝石は、マリアローゼの瞳を模したような色合いで、
目にしたジェラルドとシルヴァインが一瞬固まった。
のをマリアローゼは見逃さなかった。
いつの間に用意なさったのかしら…
「ヘンリクス殿下、本日は宜しくお願い致します」
スカートをふわりと持ち上げてお辞儀をするマリアローゼに、ヘンリクスは腕を差し出した。
小さな腕を絡ませて、二人で並んで立つ姿は中々絵になっている。
「まだ早い……!」
「手を繋ぐだけでいいんじゃないか?」
父と兄が色めき立つが、マリウスがまあまあ、どうどう、と宥めている。
「さあ、参りますわよ」
まだ文句を言っている夫の腕に手を伸ばしたミルリーリウムが、ジェラルドを連れ出し、
モルガナ公爵も誰か分からない女性をいつの間にか連れている。
仕方なくシルヴァインもカンナをエスコートしつつ、その後に続いた。
最後にマリアローゼとヘンリクスが階段を下りていく。
白いドレスを選んだのはマリアローゼだが、名を呼ばれて階段を二人で下りていくと
「まあ、小さな花婿と花嫁みたいですわね」
「お似合いですこと」
などと囁きが聞こえて、父と兄は怒っているだろう事は目を向けなくても伝わってきていた。
気遣いながら歩幅を合わせて歩くヘンリクスは紳士だ。
最後に国主と国妃に挨拶をする。
「此の度は長きに渡る危険な旅、ご足労頂き感謝する」
「勿体無いお言葉です」
ヘンリクスの腕から手を離し、スカートをふわりと持ち上げてお辞儀をしたマリアローゼの横で
ヘンリクスが恭しくお辞儀をしてから国主の前で聞いた。
「この機会に、フィロソフィ嬢にファーストダンスを申し込んでも宜しいでしょうか?」
「不慣れですが、それでも構いませんなら」
本当はお断り申し上げたい。
でもこの場でお断りしては両国の平和の為という建前が消失してしまう。
予想していたのか、父と兄は苦虫を噛み潰したような顔をしている。
100匹くらい噛み潰してそうな顔だ。
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