第127話 マウント聖女は物語を始められない

テレーゼは金の髪に緑の瞳の可愛らしい少女だったし、

リトリーはヒロインにありがちなストロベリーブロンドに、水色の瞳のこちらも愛らしい見た目をしている。


「ねえ、貴女聖女の審議に落ちたんですって?残念だったわね」


いきなりのマウントにマリアローゼは紅茶のカップをうっかり落としそうになった。

にこり、と微笑を浮かべて、首をふるふると横に振る。


「いえ、わたくしは聖女ではないとお伝えしておりましたので、残念というわけではありませんの」

「え?じゃあ何できたの?」


きょとんと驚いたような顔をするテレーゼに、逆にマリアローゼが驚いてヘンリクスを見た。

ヘンリクスも困ったような顔をして見守っているので、マリアローゼは理由を伝える事にした。


「聖女かどうかは、ルクスリア神聖国で判断するものなので、聖女ではないとしても推薦を受け、招聘がかかればこちらへ参らねばならないのです」


「へえ。でも何で貴女悪役令嬢なのに聖女の推薦とかされるわけ?しかもこんな早くに。おかしくない?」


ううん?

この子はこんな話の通じそうにない事を普通に話して来ると言う…所謂空気が読めない子なのかしら?


マリアローゼは何度か瞬きをしてから、静かに返答した。


「聖女の推薦は罪を犯した神父の苦し紛れの嘘だと思いますわ。悪役令嬢とは何でしょう?何かの舞台の役柄か何かでしょうか?」


問いかけてみると、そこで初めてテレーゼはあれ?という顔をしてリトリーと顔を見合わせた。


「悪役令嬢ってー、私達みたいなヒロインの邪魔をする女の子の事」


やはり正ヒロインだったのか。

でも自分でヒロインと名乗るのは恥ずかしくないのだろうか?


ヘンリクスに視線を向けると、困ったように溜息混じりに言葉を放った。


「このお二人は変わっているのです」

「……そのようですわね。誰もが皆、自分の人生の中では自分が主人公、と申しますけれど……何かの物語と混同されていらっしゃるのでしょうか?」


不思議そうな視線を二人に向けると、揃ってムッとしたような顔をする。


「は?別に間違ってないし、変な事も言ってない。聖女になれないあんたなんてライバルにもならないし」

「わたくしは聖女になりたくないので良かったですわ。お二人とも大変ですのに…尊敬致します」


「これから色々と大変だと思うけど、頑張りますっ」


可愛らしい声で、リトリーが健気な笑顔を見せると、テレーゼは鼻白んだ。


「てか、何であんたは聖女になりたくないわけ?なりたくてもなれないだろうけど」


嫌な笑顔を浮かべながらテレーゼが嘲笑交じりに言う。


何だかこれは……

好きじゃない相手に好みじゃないとか言われて、何だか無性に腹が立つみたいな構図だ…


とマリアローゼはぼんやり思い浮かべた。


「ええと…まず、家族と離れたくないのです。それに、色々な国や地域を旅して知見を広げたいので、神聖国から出られないのは論外ですの。

あとは…そうそうすぐ近くにあるのに、学園にも通うことが出来ないとか…不便ですわね」


「えっ?」

「はっ?」


マリアローゼが笑顔で語った言葉に、リトリーとテレーゼが即座に反応を返した。

二人の表情は驚きに固まっている。


「意味分かんないんだけど、再来年には通う歳だし」


「いえ、年齢とかではなく…そう決まっているのだと耳にしましたけど」


こてんと首を傾げて不思議そうに言うマリアローゼから視線を外して、テレーゼはリトリーを見た。


「そんな設定ゲームで出てきた?」

「分かんない。だってゲームは学園からスタートだし…」

「え?もしかして先に聖女になるとバグるってこと???」

「分かんない、分かんない、どうしよう…」


ぷちパニックである。

やっぱりお目当ては学園での恋愛か何かだろうか?

もしかして推しとかいたりするのだろうか?

目の前の王子の取り合いをしていたりはしなかったんだろうか?

まるっと無視されているヘンドリクスは穏やかに紅茶を飲み、マリアローゼと目が合うとにこりと微笑んだ。

マリアローゼもそれに対して微笑を返す。

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