第126話 聖女と公子とお茶会

いよいよお茶会の時間が近づいてきていた。

どれだけ詰め込んできたのか…と呆然とするほど、見たことのないドレスが並んでいる。


すぐ着られなくなるのに勿体無い…


と思ってしまうのは、前世で庶民だった記憶があるからだろうか、とマリアローゼは考えた。


夜は白いドレスを着ようと決めていたので、それ以外の色から選ぶ。

あまり華美なものではなく、色も落ち着いたものがいいと見ていたら、

深い青のドレスが目に入った。

裾は半円形に更に半円の縁取りが付いた可愛いレースで、白と銀の小花の刺繍が入っている。


「お母様、このドレスに致しますわ」

「可愛らしいけど、地味ではないかしら?」


袖ぐりにも裾と同じレースがフリルのように柔らかく重なっていて可愛らしい。


「地味な位が宜しいのです。聖女様たちと争う訳ではないですし。

 それに青はお父様の色という気がして心強いです。

 お母様の色は紫ですので、これをつけてゆきます」


裾のレースに散らされた小花のような、可愛らしい紫の石のイヤリングとペンダントのセットを見せると、母は嬉しそうに微笑んだ。


「シルヴァインを迎えにやりますけど、もし嫌な事があったらすぐに戻ってきていいのですよ」

「そういう訳には参りません。お父様とお母様の娘ですもの。きちんと対処してみせます。

でも…そんな風に甘やかして頂けるのはうれしい」


最後の言葉は、ミルリーリウムの腕の中に飛び込み抱きついて言う。

そんな愛娘の言葉に、ミルリーリウムは嬉し涙を目に浮かべた。

ただでさえ、大変な旅だったし辛い目にも沢山あったはずなのに、と心も痛む。


「帰ってきたらお話を聞かせてね」

「はい、お母様」


母の胸から顔を上げると、素早く近づいてきたエイラとルーナによる着替えが始まった。

手早くドレスを着せられた後に、ルーナがアクセサリーを付け、エイラは髪を結う。

同系色の青い細リボンを編みこんで、小さな花のレースを飾りつける。


「まあ…まああ…何て可愛らしいのかしら。地味なドレスかと思ったけれど、

 ローゼが着ると全然違うのね」

「仰るとおりです!!」


ミルリーリウムの絶賛に、異端な審問官のユリアが大きく同意の声を上げる。

カンナに続いてマリアローゼの絶賛メンバー入りしているユリアもまた、父と母に気に入られていた。

客観的に捉えれば美男美女の父母から生まれてきた美幼女である。

褒める気持ちも分かるのだが、自分が褒めちぎられると言う体験は中々に恥ずかしい。

庭園で顔を真っ赤にしていた兄ノアークを思い出して、しみじみと申し訳ない気持でいっぱいになるマリアローゼなのであった。


お茶会は庭園ではなく、王宮の中にある三階の渡り廊下の屋外部分が一部テラスになっているので、そこで行うとの事で、小間使いが迎えに来た。

ユリアとカンナがマリアローゼの前と後ろについて、更にその後ろにエイラとルーナが続く。

給仕は王宮の小間使いや従僕がするのだが、念の為控えの間でエイラとルーナは待機する。

カンナはテラスの入口で警備に当たり、ユリアは聖女候補とも旧知なので、席近くでの警備を許可された。

白い王宮の白いテラス、まるで高級なホテルのようにピカピカに磨き上げられている。

テラスからは美しい庭園も望めた。


「フィロソフィ嬢、ようこそ御出で下さいました」


席を立ち、優雅に礼儀正しくお辞儀をしたのは、この国の公子と言われる王子、ヘンリクスである。

淡い色の金糸の髪に、寒々とした夜空の青の瞳、涼しげな美少年だ。


「お初におめもじ致します。ヘンリクス殿下」


スカートを摘んでお辞儀をすると、ヘンリクスはマリアローゼの為の椅子を指し示し、従僕がその椅子を引いたので、椅子の近くに移動して、座ったままの二人の少女を見詰めた。

普通は立って挨拶を交わすものだが、ヘンリクスを見ると、とても冷たい視線を二人に向けている。

どうやらこの国の常識でもそれは同じらしい。

こちらも礼を失するわけにはいかず、座る前に椅子の横でマリアローゼは二人に対してもお辞儀をした。


「アウァリティア王国から参りました、フィロソフィ公爵家の末娘、マリアローゼと申します」

「私はテレーゼ、こっちはリトリー。よろしくね」


座ったまま、指を指して紹介され、紹介されたリトリーも座ったままぺこりと会釈をした。

一応の挨拶は済んだので、マリアローゼはヘンリクスと視線を交わして椅子へと腰掛ける。

早速、ユリアが難有りと評した聖女候補の二人の洗礼を受けたのであった。

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