第125話 強制力と世界律
我侭で短絡的な性格をしている上に、多分秘密を明かしても信じないだろう。
その上、切り札となる秘密を吹聴されては、国家間の問題にもなってしまう。
審議の場で言ったように、「聖女で力があるならきちんと使え」という問題提起をしたので、すぐに実用に回される事もないと思いたい。
延命措置でしかないのだが。
それにしても、評判が悪いと他国まで伝わっていて、避けられているのは意外だった。
勿論貴族や市井ではなく、聖職者の間での伝聞なのだが、余程態度が宜しくないのだろう。
マリアローゼも記憶の中の私も「運命の強制力」を信じていない。
ヒロインに出会うと一目で恋に落ちてしまったりするアレだ。
糞くだらないシステムだと思うのだが、そんな強制力があるならそもそも主人公も悪役もどこから来たのか分からない魂と入れ替わったり、記憶が蘇る事も有り得ないだろう。
そんな物は運命でも何でもない。
ただのご都合主義である。
ゲームでも好感度を下げる、又は上げないことが出来るように、現実でも酷い態度を取れば嫌われるのが普通。
人の反応を見て、それでも理解出来ないならただの馬鹿である。
ただし「世界律」は逆にあると思っている。
その世界の大まかな原則を決めている、理というものだ。
人間の意志の介在しない部分で、例えるなら「スタンピード」という現象。
スタンピードは言わば、魔物達の暴走だ。
原因は様々あるが、基本的には魔物の数が増えすぎたり、瘴気やダンジョン核の異常が有力である。
理由や規模は全く同じではないにしろ、人が手を加えなければ大体同じ時期に起きるだろうと思われる現象である。
魔法があるファンタジーの世界でありながら、獣人やエルフといった亜人が存在していない事もそうだ。
もしかしたら、まだ未踏の地域にいるのかもしれないが、人の歴史が始まって以来、見つかったという話は無い。
モンスターだって、まだ見つかっていない種類もあるかもしれないし、
上手く飼育すれば、魔石の養殖も可能なのではないだろうか。
「あ、あああーーーーー」
すっかり脱線してつらつらと考えている内に、とんでもない考えに至った。
けれども、よく考えてみれば、誰かが既に思いついてやっていそうなことである。
飛び起きたものの、すぐにしゅん、と下を向いたローゼを近くでルーナが見守っていた。
大声に驚いて、シルヴァインが駆けつけてくる。
「どうしたローゼ」
「何でもありませんの……良い事を思いついたと思ったのですけれど…
魔獣を飼育して増やして、魔石の養殖は出来ないものかと」
何かあったのか、と駆けつけたシルヴァインは、胸に手を当ててほっとした素振りを見せた。
「ああ、びっくりした。……それは俺も昔考えた事があるから調べてみたんだが、
人の影響下にある魔獣は交配をしないらしい」
「野生を失うのでしょうか?」
「そうかもな。従魔師の従魔が、契約の後に身篭っていた子供を生んだ話ならあったけれど、従魔師を介さないで閉じ込めた場合、多くの場合は争いあって自滅してしまう。
穏やかな種類を選んで飼育したとしても、段々普通の動物に近づいていくみたいだ」
ふむふむ、とマリアローゼは頷いた。
「足りないのは野性じゃなくて、魔素かもしれませんわ」
「魔素?」
「んんと……これは仮定の話なのですけれど、普通の山に突然魔獣は生まれないですよね」
「ああ、多くは東の魔の山嶺か西の大樹海から来る」
「ということは、その二つとあと海、迷宮のある所に生まれるのですわ。
そしてその地域から離れた場所に連れて行って育てても、劣化してしまうのでしょう。
多分、空気と同じでそのあたりに濃度の高い魔力みたいなものがあるのではないかと思うのです」
「ふむ、確かそういう研究をしている者達もいたような」
兄妹の遣り取りを聞いていたカンナが、こっそりと手を挙げた。
「心当たりがあります」
「研究している方達の?」
「はい。グーラ商業国の錬金術ギルドの方々が、樹海へ行くのを護衛した事がありまして。
長旅でしたので色々話をしたんですが…確か、長く迷宮にいたら人の身体にも影響が出るのかとか…そういう事も調べてましたね」
「確かに。気になりますわ……!」
「ローゼは気になる事が多すぎるから、もう少し落ち着いてくれ」
そうは言ってもまだ5歳の好奇心旺盛な心は止められない。
不満げに唇を尖らせるマリアローゼを見て、ユリアが「うぐふぉっ」と妙な音を立てて崩れ落ちた。
「だ、大丈夫ですの?ユリアさん」
「大丈夫どころではありません。ありがとうございます!寿命が3年くらい延びたと思います!」
くず折れた姿勢のまま、ぺこぺことユリアが頭を下げる。
可愛い容姿が残念な、とても残念な女子である。
「女性じゃなければ部屋を叩き出しているとこですよ?」
とカンナが窘めれば、ユリアは満面の笑みで返した。
「女に生まれて良かったです。神に感謝を捧げなければ」
すすっと姿勢を正して、ぶつぶつと祈り始めるユリアを見て、シルヴァインは肩を竦めた。
マリアローゼは、そんな事で感謝されても神は喜ばないのでは?と思いつつも
言葉に出すのは止めて、見た目的には敬虔な神の僕っぽいユリアの姿を眺めていたのだった。
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