第124話 狙われた神聖教
帝国の司祭二人と家族で談笑している内に、捜査の第一幕は終ったらしい。
ユリアから伝え聞いたことによると、長谷部が名を呼んだ12名の内2名は場に当てられて恐慌をきたしただけで、残りの10名がミズーリ枢機卿、ヨハン枢機卿の陰謀に何かしら加担してたと言う始末だった。
マグノリアは加護の力を期待され、未だ尋問に立ち会っているという。
「お父様、あの、わたくしちょっと不安な事があるのですけれど」
一瞬父と兄は瞳を交わした。
色々な情報の遣り取りをしていた父と兄なので、多分漏れは無いと思うし、マリアローゼが、自分自身よりも遥かに賢く、頼れる存在だと思っているので駄目押しの確認だった。
「何者かが、神聖教を狙っているのではないかと思うのです」
マリアローゼの言葉を聞いて、ルーセンとナハトも顔を見合わせた。
ジェラルドは、顎に手を当てて、ふむ、とひとつ頷く。
「私もそう思うが、ローゼの話を聞かせてくれるかい?」
「はい。まずは、王都の教会で人身売買が行われていた件で、一人だけ正体不明の方がおりましたよね?
教会関係者でも騎士や兵士でもない方が、教会について調べていたというのが不思議で」
謎の人物が一人いた。
結局その後も、その人物が何者か分からず仕舞いだったのである。
公爵家が関わったのはこの件以降だ。
「結局正体は不明だったし、行方も掴めなかった」
シルヴァインも、マリアローゼの言葉に頷きながら言う。
神聖国の使者がいなくなった件については、任務かもしれないので判断がつかないので除外する。
「あとは襲撃犯の一味の中にいた、アートという騎士さまの存在が異質でした」
「彼が本物のアートなら、10年以上ルクスリア神聖国で騎士として仕えていた事になる。途中で入れ替わった可能性もあるが、長い時間をかけた可能性もある。
経歴に不審な点はなかったと聞いたが…」
「もしそのように10年も時間を費やして、神聖教に根を下ろす組織があるならば、今回の一連の事件の煽動もしたかもしれません。不祥事が起き過ぎている気が致します。
帝国のお二人に協力して頂いたり、事前に水晶の準備が出来ていたから良かったですけれど、それがなかったらわたくしは悪魔として弾劾されていたかもしれません」
「そうなっていたら起こっていたのは王国との不和か」
「そうですね。それに加えて、今回治療した人々や冒険者ギルドとも衝突していた可能性も有り得ます」
ナハトの言葉に、シルヴァインが付け加えて頷く。
「ですので、確実なお話ではないですけれど、神聖国にもお伝えしておいた方が宜しいのではないかと。
争いが起きたら苦しむのは民ですし、神聖教を失えば多くの人々が迷います」
そんな事になってしまったら、家族旅行も出来ないし、美食を追求する事も出来ない。
それは困るマリアローゼなのである。
「分かったよローゼ。折角両帝国の司祭殿もいるし、ハセベー殿とモルガナ公爵も加えて話し合っておこう」
父は優しくマリアローゼの頭を撫でた。
幼女なのに壮大な心配を語ってしまったマリアローゼは、父の言葉にこくんと頷き返した。
思い切り丸投げ…ではあるが、宰相としての父の仕事の領分なので問題は無い。
神官達が全て退室したと言う報告を受けて、フィロソフィ一家も王宮へとユリアに案内されて歩いて行く。
昨日までのマリアローゼの居室は、儀式の為の部屋なので、今日からは家族と続き部屋に案内されて、
やっと落ち着いた気分になれたのである。
そこで、改めて考えてみる事にした。
明日会う二人の聖女候補は正ヒロインと言われる、乙女ゲームの中での主人公枠の少女達の可能性が高い。
前世の記憶のせいなのか、それとも魂が入れ替わってしまったのか。
どちらにしても前世の記憶、この世界に関する記憶を持って神聖国へとやってきたのだ。
「聖女」となるために。
一般的なファンタジーで聖女といえば、癒し系の魔法を使う職業で、
多くの場合人々に崇敬され、愛される存在である。
王侯貴族に嫁ぐ条件で有る場合や、国にとっての重要人物である場合も多い。
勇者がいる世界ならば、その勇者がパーティを組んで一緒に戦うメンバーでもある。
そのような華々しい灯りに吸い寄せられる羽虫のように、二人は引き寄せられたのだろう。
だが、この世界ではその華々しさの裏に途轍もない毒が隠されている。
ゲームはおろか、原作小説でも少なくとも1巻では触れられていない。
この世界のことを書き記した人物が聖女について知っている事が少ないからだろう。
1巻では影も形もない聖女の役職が、それ以降で登場したという事は、
原作の続巻の中、更にゲームの続編で聖女の話が出てきて、華々しい部分だけを描いたのかもしれない。
今いる聖女候補は二人だが、他の三人はどうしたのか?
記憶を持たずにヒロインとして生きているのか、聖女になる選択を敢えてしなかったのか。
もしかしたら原作の続きで、聖女の秘密が明かされるから止めたという推測も出来る。
「助けるのは難しいですわね…」
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