第123話 増えるお茶会
控えの間には家族の面々が椅子に座って待っていたが、
シルヴァインとジェラルドは笑顔で怒っている。
ものすごく。
黒い怒気が背後に渦巻いているように見える。
マリアローゼは眉を下げて困った顔をしながら、ミルリーリウムの隣に座った。
「こんな事までされた上に、友好の歓迎の宴になんか出るんですか」
「断って帰りたいところだな」
父と兄の二人の怒りは分かる。
分かるけど、国の問題にはしてほしくはない。
家に帰れるだけでマリアローゼは嬉しいのだから。
「お待ちになって。折角優位に立てるのですから、外交面でお役に立てて下さいませ。
わたくしはおうちに帰れるだけで幸せですし、後腐れなく帰りたいです」
「ローゼは大人だな」
むくれたように言って、苦笑する兄が珍しくてマリアローゼは大きな目をぱちくりとさせた。
ルーナが温かいミルクティをマリアローゼの目の前に置く。
「ありがとうルーナ」
飲みなれた甘くてまろやかなミルクティにほっと安堵の吐息を漏らす。
家族がいるからだ。
怒ってくれたり悲しんでくれる家族がいるから、それ以外のことに執着しないですむのだと、マリアローゼは家族の顔を見てにっこりと笑った。
「ローゼは家族と支えてくださる人達に優しくして頂いているので、全然平気です」
別に良い子ぶっている訳ではない。
家族と身の回りの人々以外はどうでもいいというだけだ。
どれだけ責められようと罵られようと、全く痛みなど感じない。
割とサイコパス思考に近い感情であって、天使ムーブをした訳ではないのだが…
父と母の溺愛っぷりをうっかり忘れていたので、
二人に両脇から強く抱きしめられて、マリアローゼは目を白黒させた。
「ああ、マリアローゼ…わたくしの天使ちゃん」
「何て清らかな子なんだ。私達の宝物よ」
そして、視界の端に両親以上に感涙に咽び泣くユリアが鎮座していた。
その隣では、うんうんとにこやかに頷くカンナもいる。
家族の再会と団欒を楽しんでいる所に、ノックの音が響いた。
扉の外から、ノクスの声が聞こえる。
「帝国の司祭様が参りました」
「お通ししてくれ」
ジェラルドの返答に、扉がキィと音を立てて開く。
先程演壇の前で挨拶を交わした二人の司祭が部屋に入ってきた。
「やあ、君の無茶振りは相変わらずだな、ジェラルド」
にこにこと穏やかな笑みを浮かべて、ルーセンが片手を上げる。
「ぎりぎり間に合って良かった。王都より帝都の方が遠いのを忘れてないか?」
対してナハトは溜息混じりに、片眼鏡を指で直した。
マリアローゼはこてん、と首を傾げる。
「お父様と司祭様達はご友人ですの?」
「ああ、学生時代を共に過ごしたからね。今回は無理を通させて貰った。感謝する」
後半は姿勢を正して、きちんと会釈をして感謝を示したジェラルドに二人はにっこりと笑いかけた。
「まあまあ、顔を上げてくれたまえ」
「実は私も息子を同伴してきていてね」
「奇遇だな、私もだ」
ナハトとルーセンが茶番の様な遣り取りをして、にこにことジェラルドを見ると、
ジェラルドはげんなりした表情を浮かべた。
「1回だけだぞ。シルヴァインも同席させる」
これはもしや。
またもやお茶会かしら。
王国の宰相、妻は王妃の妹とくれば、縁を繋ぎたい人々が多いのは、記憶が蘇った当初から分かっていた。
今の所、幼いからというだけでなく、全く琴線に触れる人がいないのだが、
縁を持つこと自体は悪いことではないので、マリアローゼはミルクティを口にしつつ、大人達の会話に耳を澄ませた。
「明日は予定があるから、明後日の午後にしよう。
マリアローゼ、申し訳ないが…」
「いいえ、お父様。ですが、どうせなら明日のお茶会にお二人もご一緒するのは如何でしょう?」
マリアローゼの言葉を聞くと、ジェラルドが人の悪い笑みを浮かべた。
「それは妙案だな」
「遠慮する」
「遠慮します」
何故か二人同時に笑顔で却下してきた。
件の聖女候補二人と何か因縁でもあるのだろうか?
「あの、理由をお聞きしても宜しいですか?」
「あまり息子を近づかせたくない相手でね。聖女の称号を良い事に我侭三昧と聞いているし、家柄的にも「聖女様」には逆らいにくい」
確かに、普通の貴族ではなく聖職者という同じ集団に属している身としては難しいのかもしれない。
貴族ならば、家柄を理由に逃げる事は可能だが、聖職者の妻として考えるならば聖女以上はいない。
「会わせない事は出来ても、会ってから無理難題を言われるのは面倒ですからね」
「分かりました。出過ぎた事を申し上げましたこと、お許し下さいませ」
お茶会1回で済めばいいかな、などという気軽さでついつい口に上せてしまったが、少し短慮だったかもしれないとマリアローゼは反省した。
謝罪の言葉と、小さく会釈をして二人を見上げる。
二人は気にした風もなく、優しい目で笑いかけてくれていた。
「ジェラルドよりリリィの上品さと可憐さを受け継いでいる娘だな」
「年頃になれば争奪戦が起きそうですね」
二人の言葉を聞いたジェラルドはムッと顔を顰めた。
「嫁にはやらんぞ」
母のミルリーリウムはマリアローゼと目が合うとにっこりと微笑む。
6人の子持ちとは思えない美しさを未だ保っている、可憐な母のことだから、
学生時代は過酷な争奪戦の的だったのではないだろうか。
「お父様も大変だったのですね……」
「あら、お父様が大変なのはこれからじゃないかしら」
母はおっとりと笑っているが、その言葉を聞いた父は溜息を零した。
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