第115話 転生者と聖女達

「その方達は審議を無事通過されたのですよね?」


その問いには、マグノリアに目線を向けられたユリアが頷きながら答えた。


「完全にではありませんが、微弱な反応は見られたのでお二人とも候補としてお城に常駐されております」


「あら?神聖国では聖女は教会で神聖教のお勉強をされるものだとばかり思っておりましたけれど…」


不思議そうにこてんと首を傾げるマリアローゼに、ユリアは苦笑いを返した。


「それが…お二人とも性格に難がお有で…でも聖女というだけでなく他にも保護を要する理由があるので、国外に出る事は出来ません。ですので、国の中ではある程度の自由を与えると国主様直々のご命令にて、我侭が助長されているという現状です」


それは転生者だからだろうか。

という質問は、こちらからは問えない。


推測でしかないが、ゲームや原作の歴史に変化を与えたのは「私」だけではないはずだ。

もし平民や下級貴族の娘なら、一発逆転が可能な「聖女」という存在に縋る者も出るだろう。

ヒロイン枠なら光属性の癒し魔法を使える可能性も高い訳であって、予測が正しければ女神の水晶は、その魔力に反応するように出来ている筈だ。

更にHPを利用した完全な聖女の力の行使について学べば、先ほどの審議の場で「完全な」反応を引き出せるはず。

故に、マリアローゼはそれをしない事で切り抜けようと思っていた。

実際に魔力を使うことは禁じられているし、出来るかどうかも不明なのだが。


性格に難ありなヒロイン枠とか罠でしかない。

絶対会いたくないものである。


しかし、保護とは何だろう。


「保護というのは、具体的には?理由とは何でしょう?」


「あ、あ…理由はちょっと国の機密に関わるので口外出来ませんが、保護はですね…主に教会で衣食住の面倒を一生見るので、国外には出られないという感じでしょうかね…」


ふむぅ…理由はやはりはぐらかされたか。


けれど、国の機密に関わると言われてしまえば、内容を聞いてしまったが最後国から出さんと言われても仕方ない。

だとしたらそこを突くのはもうやめよう。


もし教会が「転生者」を保護する団体になっていたのだとしたら、

聖女の力以上に厄介な力を手に入れることになる。

抑止する方向で利用するならいいのだが、活用する方向に向かってしまえばいとも簡単に世界はひっくり返るだろう。

教会が禁止しているはずの禁断の知識だ。


この世界の知識ではない危険な知識を持っているものを野放しにしないという点では良いのだ。

今まで恐ろしい変革がなかったのがそういう理由があってのことなら信用してもいいのだろうけれど、

教会の腐敗を知ってしまった後では、信じきる事も難しい。


「そういえば、聖女様は学園に通われますの?」

「はひぇ?…え…ええと、それは多分無理ですね」

「我侭を仰るらしいですし、学園は国内ですので、通われるのだと思ったのですけれど」

「いえ、その我侭は却下される方の我侭ですね。国外に出られないのは勿論、

不特定多数の人々との接触も禁じられておりますので、間違いなく無理です」


そう言われると、どの程度酷いのか見てみたい気持も沸きあがる。

が、好奇心と不愉快を天秤にかけたら、マリアローゼは好奇心を捨てる選択をする。

彼女らは目の前の豪華な餌「聖女」に飛びついて、その他の選択肢を捨てたのだ。

気付かないうちに。

「私」や攻略対象である兄達にとっては、僥倖だったかもしれない。

我侭で難ありの女子から追われずに済むのだから。


「そうですのね。どんな方が聖女なのか拝見してみたかったですわ」


無理と言われて安心しきって、社交辞令を口にしたものの、ユリアのにこやかな声に思考が止まった。


「お会いできますよ」

「えっ」

「あ、まだお伝えしてなかったですね。審議の後、聖女候補のお二人と公子様とお茶会の予定です」


首を竦めて、怒られた亀のようにマグノリアを見ながら、すまなそうにユリアは続けた。

マリアローゼはギギギ…と擬音が付きそうな位にぎこちない挙動で、同じくマグノリアを見る。

マグノリアは、特に怒ってはいないが、憮然とした表情で頷いて見せた。

どうやら知ってはいたらしい。


何目的のお茶会なのだろうか。

審議失敗した公爵令嬢になる予定なので、余計に目的が分からない。


シルヴァインの顔色を窺うと、彼も困った様に肩を竦めて首を傾げた。

公子とも年が近い故の顔合わせ、というのなら分からなくもないが、

側近くに聖女候補が二人もいて、更に他の国の令嬢を娶ろうとするものだろうか?


うーん。

そうすると血筋からすれば公爵令嬢の私を正妻に、聖女二人を側室に?

何処かの国の愛の狩人的皇帝みたいな、享楽に溺れてるみたいじゃないか。


それは神聖国という国柄あまり外聞が宜しいとは言い難い。

とはいえ、一国の王であれば、一つの目的を求める為だけの布石でもないだろう。

だとしたら平凡な人生を歩み、この世界での5年の経験を足しても読みきるのは難しい。

危害を加えるつもりのない内容であれば、こちらも歩み寄る姿勢でいなくてはならない。


「とても…楽しみですわ」


困ったようにしょぼくれるユリアを励ますように、マリアローゼはにっこりと笑って見せた。

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