第114話 異端審問官ユリアとの出会い
ゲームや小説での舞台装置だからなのか、ファートゥムは小洒落た雰囲気の町だった。
そして、レスティアに同じく、冒険者の闊歩する町でもある。
ルクスリア神聖国へと伸びる神聖街道が町を縦断しており、そのまま町の目抜き通りとして栄えていた。
学園創立時の聖女の結界が未だ生きているという事で、住むにも安全で暮らし良い町だからか、
集合住宅のような階数の高い建物の多い町並みが、より都会らしさを醸し出している。
住居の色合いも鮮やかな色が多く、中世と言うよりは近世の町並みに近いかもしれない。
フォルティス公爵家の別邸は奥まった場所にある学園に程近い地域で、
周囲の屋敷も貴族の別邸のような佇まいだった。
武門の家柄だけに、武骨な造りを想像していたが、予想を裏切ってとても瀟洒で繊細な建物である。
美しい姉妹の為に作られた家だと思うと納得が行く優美な屋敷だった。
一晩だけその屋敷に泊まり、公都ウルブズ・ルクスリアへと最後の旅の行程となる。
馬車に乗り込んだ時に、いつもと違う面々に気付いて、マリアローゼはこてん、と首を傾げた。
何時もと同じようにシルヴァインに運ばれて、シルヴァインの膝の上に座らせられたマリアローゼは、目の前に座る神殿騎士マグノリアと挨拶を交わした。
「お早うございます。あの…そちらの方は初めまして…でしょうか?」
「異端審問官のユリアと申します。マリアローゼ様の護衛とお世話を致します。
どうぞ、宜しくお願い致します」
「こちらこそ、どうぞ宜しくお願い致します」
ユリアという少女は、まだ年若い。
言葉遣いはきちんとしているものの、慣れない様子で頬を上気させている姿は可愛らしい。
どことなくユウトに雰囲気が似ている。
髪の色も目の色も違うのだが、何となく想起させられるのだ。
明るめの茶色の髪は少し内巻きのボブ、空色を濃くしたような天色の瞳を輝かせている。
「あの…何だか一緒に旅をしてきた神殿騎士の方に雰囲気が似ているので、初対面という気が致しませんわ」
一瞬きょとん、としたあとユリアはにっこり笑った。
「もしかしてユウト兄さんでしょうか?血の繋がりは無いのですが、一緒の孤児院で育ったからか、よく似ていると言われます」
「まあ、そうでしたの。やっぱり。とっても優しそうなところや明るい雰囲気が似ておりますもの」
思わぬ褒め言葉に、ユリアはえへへと照れ笑いを浮かべた。
和やかな笑みを浮かべていたマグノリアが、ユリアとマリアローゼの会話に頷いた。
「王城では必ず彼女を何処へでも同道してください。私よりも彼女の方が詳しく、時間も割けるので。
それからカンナやルーナにも離れぬよう言ってあります」
「お心遣い感謝致します。身辺には気を配ると約束致しますわ」
幼いながらあどけない声できちんとした言葉を喋り、頷く幼女の様子を見て、
ユリアはほわわっと更に頬を上気させた。
「と、尊い……」
えっ?何て?
いやいや、うん、違うよね。まさかそんなに転生者が神聖教に集まってるという事はないよね。
マリアローゼは一瞬目を丸くしたが、ユリアの隣に坐すマグノリアはその言葉にうむと頷いている。
「そうだ。身分だけでなく、言動まで素晴らしく気高い御方なのだ。心して仕える様に」
「は、はい。この身を捧げます!」
そういう事なのか、そっちの意味だったのか、フライングしなくてよかった、とマリアローゼは安堵した。
安堵したけれど、過大評価でもあるので、ぶんぶんと首を横に振った。
「マグノリア様、褒めすぎです…」
「いいえ、貴女がこの旅で致してきた行いを見れば、この程度の賛辞では到底足りません」
「でも、でも…尊敬する貴方にそんな風に褒められてしまうと、わたくし恥ずかしい…」
真実である。
マグノリアが男性だったら恋している可能性があるくらいには尊敬している。
その人からたいした事のない自分を褒め称えられると、逆に拷問に近いものがある。
ぷっくりとした頬に両手を添えて、マリアローゼが目を伏せると、ユリアがブツブツと何か呟いている。
「…え、…待って、…かわいすぎん?…推しじゃなかったけど、もう推しだし布教するし…」
こっちが待って欲しい。
お前は何者だ。
こんなに口が軽い審問官寄越していいのか。
それとも演技なのか。
何にしても転生者、を知っている何者かの差し金なのは確かだ。
友好的にしろ悪意にしろ、誰の思惑にただ乗るだけの状態はとても居心地が悪い。
逆にマリアローゼは恥ずかしさが薄れるので結果としては良かったのだが、
疑惑の眼差しをついつい向けてしまいそうになる。
「この者の紹介も理由のひとつでしたが、もう一つ、お伝えしたい事がありまして。
王都の我々には知らされていなかったのですが、聖女候補は既に2名いるのです」
「まあ…」
じゃあ私来る必要なかったじゃないですか。
「では帰りましょう!」
マリアローゼの言葉に、マグノリアは苦笑を返した。
「そうして差し上げたいのは山々ですが、一応審議は受けなければなりません」
「はい…そうですわよね…」
しょんぼりである。
分かってはいるので、憧れの人を困らせるのはよくない、と思い立ちマリアローゼはにっこり微笑んだ。
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