第111話 不相応な贈り物
そう、マリアローゼは脅威の5歳児なのである。
問題に直面すると、何とか問題を片付ける為に策を練るので、
今はまだ正面から否定するべきではなかった、とシルヴァインは後悔していた。
「君がこの先もきちんと堅実な成長をするなら、折を見て協力はする。
だから、内緒で登録したり、偽名を使って登録したりしないように」
ぎくり。
頭の隅にあった非合法な方法を指摘され、釘を刺されてマリアローゼは固まった。
「分かりました。お兄様の御協力がございますなら」
いざとなれば、押し通す気満々ではあるが、何より成長が先なのである。
それに現実的な問題として、信頼出来る人手を集めるのは重要だ。
認めざるを得ない状況を作らなくては、話にもならないだろう。
溜息を零していると、ノクスの声が聞こえた。
「アルベルト殿下がいらっしゃいました」
「どうぞ、お通しして」
ノクスが扉を開くと、本を何冊か持ったアルベルトが部屋に入ってきた。
マリアローゼとシルヴァインも立ち上がって入室を待ち、丁寧にお辞儀をした。
「お早うございます、殿下」
「お早うマリアローゼ嬢、昨日は無作法をして申し訳なかった」
「いえ、こちらこそ見苦しい所をお見せいたしました。お許し下さいませ」
シルヴァインが何があったのか、という視線を寄越すが、それはとりあえず無視しておく。
アルベルトの着席を待って、二人もソファに並んで腰掛けた。
「先日は可愛い置物をありがとう。大事にするよ」
ニコッと爽やか美少年スマイルを向けられて、マリアローゼはこっくりと頷いた。
ほらやっぱり可愛い置物ですよ!というように、シルヴァインにドヤ顔を向ける。
意図に気付いたシルヴァインはにっこりと微笑み返した。
「あのロバの置物ですか。王族に差し上げるには少し不相応な贈り物だと思いますが、お許し下さい」
「き、気持が大事なのですわ…」
確かに。
言われてみれば屋台で売っていた安物の玩具である。
酔っ払ったその辺の親父が、子供に買って帰るようなすごく安いものだ。
それを指摘されてしまうと恥ずかしい。
「ローゼ嬢が気に入った物をくれたのなら、それが一番嬉しいよ」
「まあ…!」
優しい。
そして甘い。
他の人にもこんなに甘い言葉を囁くのかしら。
いやいや、社交辞令の範囲は出ていないので、一旦落ち着きましょう。
マリアローゼはこくりと頷いて、笑顔を浮かべた。
「殿下の寛大なお心に感謝致します」
マリアローゼの社交辞令満載の返答に満足したように、シルヴァインは満面の笑みを浮かべる。
別にアルベルトを嫌っている訳ではないが、簡単にマリアローゼを手放す気もない兄なのである。
穏やかに微笑みあう少年二人を見て、マリアローゼは目の前に置かれた紅茶に手を伸ばした。
まだ生まれて5年なのだから、凡ミスとして許される範囲だろうけど、
これからは気をつけていかなくてはならない。
とマリアローゼはルーナの淹れてくれた紅茶を飲みながら、反省する。
例え距離が近かったとしても、気軽な友人という訳にもいかない関係なのだ。
線引きや節度は大事である。
関係性をきちんとしなければ婚約話が再浮上してしまうかもしれない。
そんな事になってしまえば、王妃教育の名の下に王城での監禁生活がこんにちはしてしまう。
「今日も本を持ってきたから、良かったら」
「ありがとうございます、殿下」
「では、失礼するよ」
机の上に置かれた本を見て、マリアローゼは嬉しそうに頷き、
立ち上がったアルベルトに合わせて椅子から立ち上がり、お辞儀をする。
シルヴァインも右手を左胸に当てて、敬礼をして見送った。
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