第66話 神聖国の勉強
図書館に向かっていると、後ろからアルベルトが追い付いてきた。
「私も手伝わせてもらうよ」
「で…」
「アルと読んでくれないか?」
また出鼻を挫かれてしまったし、お辞儀も中断する。
狙われないようにする為に身分を隠す意味もあるのだろうし、とマリアローゼは頷いた。
「では、アル。わたくしのことはローゼとお呼びください」
「ありがとうローゼ」
はにかむ可愛らしい美少年。
将来相当な美形になるんだろうな。
「さあ行こう」
シルヴァインに促されて、昨日と同じ長机に向かう。
そして、先に来ていたキースと共に4人で神聖国関連の蔵書を読みふけるのだった。
夕刻の鐘が鳴り響いて、マリアローゼは顔を上げた。
図書館には外が直接見える窓はない。
外をぐるりと囲む廊下の窓と、図書館にある窓が互い違いに設置されているので、
廊下に入る光が図書館の窓から洩れる間接照明となっている。
本の劣化を避ける為に、直射日光が当たらないように設計されていた。
更に、状態の悪い古い本は、図書館の地下に保管されているという。
「お父様にお願いしてある王城の資料と、地下の蔵書があるならそれも見たいですわね」
「ここにある蔵書を片付けてる間に、ヴァローナに用意してもらおう」
シルヴァインは言いながら、両手を空に伸ばしてグッと伸びをした。
「ローゼ、明日は俺も練兵場に顔を出すから、午後からここに来るよ」
「承知致しました。あ、わたくし、温室に用がありますので、ここで失礼致しますわ」
マリアローゼは口に手を当てて驚き、慌てて椅子から降りると、小走りで図書館を出て行った。
それを見送りながら、キースはシルヴァインに問いかける。
「兄上は何か疑問点は見つかりましたか?」
「あるにはあるが、答え合わせをするにはまだ早いだろう」
三人と新たに加わった一人が優秀でも、まだ蔵書は読みきれていない。
「それにその話はローゼが居た方がいいからな。晩餐の後にまた話そう」
「分かりました」
「その話には私も加わらせて貰ってもいいかな?」
にこやかに押してくるアルベルトに、キースだけだったら頷いていたかもしれない、がキースがシルヴァインに目を向けると、シルヴァインは笑顔を浮かべたまま、いや、と言った。
「晩餐後は妹の部屋でノクスとルーナに勉強を教えているんだ。
意見を摺り合わせて、明日君に伝えるとするよ」
やんわりと断りを入れているが、かなり痛烈な返答にキースは少し驚いた。
家族とそれ以外を線引きするにしても、従業員を王族よりも優先するかのような言葉だ。
妹に近づけたくないからなのか、単に秘密の勉強について漏らさない為なのか、
もしかしたら両方かとキースはシルヴァインの冷たい微笑を浮かべた横顔に目を向けた。
敢えて妹の部屋を強調したのは、未婚の淑女の部屋に立ち入ると言い出させないため、
アルベルトも言外の意味は捉えられる教育は受けている。
「ではまた明日に。幾つか蔵書を貸し出してもらおう」
予想に違わず、笑顔を崩さないままアルベルトはあっさりと退いた。
成り行きを見守っていたキースも、慌てて蔵書を借りずに出て行ったマリアローゼの為に席を立つ。
「僕がローゼの分も持ち帰ります」
「頼んだよ」
鷹揚に返したシルヴァインは、憂鬱そうに溜息を吐いていた。
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