第62話 神殿騎士と王宮騎士と
正午の鐘の音で目覚めたマリアローゼは、エイラに身支度を整えられて、食堂に向かう。
兄達と食事をしていると、珍しくケレスがやってきて、食堂の隅に待機している。
全員が食べ終わり、食後のお茶を飲んでいると、ケレスが改めて声を発した。
「シルヴァイン様、マリアローゼ様、お茶がお済みになられましたら、別館へご案内致します」
「わたくし達の旅に同行して下さる方達へのご挨拶ですわね?」
「左様でございます」
ケレスが目を細めてにこり、と上品に微笑む。
「というわけだ、キース。お前だけ先に図書館へ行っていてくれ」
「分かりました。進めておきます」
シルヴァインが言うと、キースは席を立ち、図書室へと向かって行った。
マリアローゼもお茶を飲み終わると、椅子から降りる。
シルヴァインの差し出した腕に掴まり、別館へと歩き出した。
別館にも本館と同じくらいの広さの食堂があり、一同が其処に会していた。
静かに歓談していたようだが、ケレスの紹介で、全員が席から立って敬礼をする。
「此の度はご足労頂きまして感謝しております。フィロソフィ公爵家が息女、マリアローゼにございます」
「兄のシルヴァインです。父に代わり、同道を許可して頂きました。宜しくお願い致します」
二人の丁寧な挨拶に、騎士達の何人かは少し驚いた様子を見せていた。
そして、まず挨拶を返したのはマグノリア・フィデーリス。
神罰の乙女とも正義の剣とも言われる、実直な神殿騎士で王妃に推挙された人物である。
栗色の髪は編んでまとめてあり、青く澄んだ瞳は優しい色を湛えている。
「王妃殿下直々に、この栄誉ある旅行きに任命されました。マグノリア・フィデーリスにございます。
御身を必ず安全に神聖国までお届け致しますので、ご安心ください」
キビキビと敬礼をする姿は、さすが武人という身のこなしだった。
そして順番に5人の神殿騎士の挨拶があり、次は王城から来た騎士達の番になり、
「アケル・フォルティスでございます」
双子の兄達と同じ、フォルティス家の先祖にいる赤髪に、王妃と同じ紅の目。
この人も攻略対象なのだろうか?と思えるほどの、ちょっと野性味がある甘い顔立ちに、ガッチリしすぎてない細マッチョ。
若くして第一騎士団長を勤めている精鋭である。
母や王妃と従兄弟だと言う話は聞いていたが、母よりも王妃寄りの見た目だな、
と思いつつマリアローゼはお辞儀を返す。
そして選抜された3名の部下を紹介して、さらにスッと一歩下がると、
そこには第一王子のアルベルトがいた。
「で…」
殿下、といおうとすると、指先を口に当てて何も言わないように示される。
「従者として派遣されたアルと申します」
「同じく従者として同行致します。テースタでございます」
マリアローゼがどういうこと?という疑問を込めて騎士達を見ると、目を逸らしたり、目を伏せたりされてしまった。
アケルだけは流石というべきか、にっこり微笑みを返す。
「公爵家の使用人ルーナでございます。こちらは弟のノクスでございます。
マリアローゼお嬢様に命を救われました」
と紹介をして敬礼をするルーナとノクスを、
マグノリアがじっと、じーーーーっと見詰めている。
なにかしら?
そして、隣にいるカレンドゥラという…神殿騎士には到底見えない色気のある金の巻き毛に濃紫の瞳の妖艶な美女に視線を送ると、彼女もじっとノクスとルーナに注いでいた視線をはずし、
マグノリアに頷き返す。
明らかに特殊な魔法か能力を使って何かを確認していた気がする。
マリアローゼはじっとマグノリアを見詰めた。
「ああ失礼。私は嘘を見抜く加護を頂いておりますので、彼女の言葉に嘘が無いか計らせて頂きました」
といきなり能力を暴露したので、逆にマリアローゼが吃驚した。
「加護と言うのは、神殿騎士様や司祭さまが神から頂く恩寵の事ですわね?」
「はい。殆どの神職者は秘匿しておりますが、私は役目柄公表しておりますので」
「ああ、私も隠す程の能力じゃないので、公表しておりますよ。闇夜でも目が利く暗視能力です」
軽薄そうに割って入ったのは、ジュリアンという名前の美青年だ。
女性に好かれそうな綺麗な顔立ちで、金髪は肩まであり、後ろ髪は束ねてもっと長く伸びている。
目は銀色なのか灰色なのか、不思議な色をしていた。
多分、二人の会話はカレンドゥラの能力を秘匿しているのを、悟らせたくないのだろう。
知りたくはあるが、あえて踏み込む必要はないので、そのまま話題を逸らした。
「神様は、目に宿りますのね」
神聖教関連の蔵書はまだあまり目を通してはいないが、何となく口にしてマリアローゼは微笑んだ。
のだが、何故か彼らからは驚いた雰囲気を感じる。
「…成程。利発なお嬢様だとお聞きしておりましたが、感服致しました」
真面目な顔で、マグノリアにそう持ち上げられると、逆に恥ずかしい。
これはやっちまったのかしら?
加護の事はあまり公表されてないのだろうか…
目の前で起こった事を見たまま口にしてしまったのは良くなかったかもしれない。
傍らのシルヴァインを見上げると、爽やかにニコッと微笑む。
そして、ノクスとルーナの横に控えてる護衛騎士をさっと手で指し示した。
「我が家の護衛騎士にも自己紹介してもらいましょう」
滑らかにそつなく、話題を変えて話を戻すシルヴァインにマリアローゼは素直に感心した。
そういわれて、顔馴染みの一人、フェレスがにこやかに挨拶をする。
二人目はウルスス、という巨躯の男性だ。
短い茶色の立ち上がった髪と、同じく茶色の瞳と身体の大きさで何となく熊を思わせる。
彼も本屋に行った時に護衛をしてくれていた一人で、父がマリアローゼと少しでも接点のある者を選んだのだろう。
三人目はパーウェルという。
確か、王城から帰る時に御者台にいたもう一人で、ランバートと会話していた護衛騎士だ。
暗めの金髪で、目も翳りのある深い青をしている。
そして、最後にカンナが挨拶をした。
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