第61話 双子へのお礼
食堂に着くと、ちょうど双子の兄達が、扉の前でそわそわしながらマリアローゼを待ち構えていた。
「おはようローゼ」
「僕達のプレゼントは気に入った?」
嬉しそうに聞いてきた双子に、マリアローゼは満面の笑みを返す。
「最高ですわ。お兄様達の一流、ローゼはしかと受け取りましてよ」
照れたように笑う双子の手を引くと、椅子に登ってからそれぞれの頬に、
マリアローゼはちゅっと唇を押し付けた。
そして改めて考えてみたのだが…
あら?スライムを頂いて喜ぶ女性は少ないのでは??
と思い至る。
父も新たな問題を作った原因が双子だと気付いたのか、
怒りはしないが、こめかみに青筋を浮かべている。
「あ、あ、でもお兄様達?人によっては卒倒する贈り物ですからね?」
と一応念押ししておく。
二人はこくん、と素直に頷いた。
マリアローゼなら喜ぶと思って捕まえたんだと言わんばかりに、顔を見合わせて笑っている。
それはそれで複雑な気持もあるが、実際に嬉しいのだから仕方ない。
少なくとも二人はマリアローゼの言葉を考えて、それを実行に移したのだ。
マリアローゼもにっこりと微笑んで、父の視線に気付いて慌てて椅子から飛び降りた。
緊張する朝食を終えて、父と母は出かけて行く。
父から何かを言われる事はなく、マリアローゼはほっとしたらいいのか、晩餐後を心配したらいいのか分からなくなったが、
やるべき事は決まっている。
「シルヴァインお兄様、キースお兄様。今日は朝から忙しかったので、わたくしは午後から参ります」
「ゆっくり休んでおいで」
「無理はしないようにするんですよ」
二人は意図を素早く汲み取って、それぞれふわりとマリアローゼの頭を優しく一撫でして、連れ立って図書館の方へ歩き去った。
マリアローゼはすかさず、仕事がないからか意気消沈しているノアークを捕まえる。
「お兄様、助手のお仕事がございます」
「…わかった」
喜びを押し隠したような顔で、ノアークは頷いた。
ノアークを連れて、部屋に戻ると、まずマリアローゼは丁寧に手紙をしたためた。
温室のエレパースに事情を告げる為だ。
ロサに薬草を餌として与えて、耐性をつけた後、薬でありつつも毒にもなる植物を与えて欲しい。
様子を見ながら微量の毒草も少しだけ与えて欲しい。
マリクには絶対渡さないで欲しい。
など書き連ねて、最後の一文には念のため二重線まで引いて強調した。
エイラは父から事情を聞いたのか、厳しい目線ではあるものの、こちらも何も言わない。
様子を窺いつつも、自分で箪笥から小ぶりの箱を選んで取り出す。
可愛らしいからと昔取っておいた小さな箱だ。
一応エイラの目を盗んで、胸元のロサを箱に移す。
そして、手紙と箱をノアークに手渡した。
「用件は手紙に書いてあるので、ノアークお兄様はお手伝いお願いします。
温室のエレパースに届けてくださいませ」
「…分かった」
力強くふんす、と頷いて、ノアークが勢いよく部屋を出て行く。
「お嬢様、お風呂に入られますか?」
「ええ、そうします。お昼まで休みますわね」
エイラと小間使い達に世話をされて、マリアローゼは心地よく眠りについたのだった。
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