第16話 王妃とのお茶会

王妃一行電撃訪問の日がやってきた。

慌しくはなかったものの、前日は庭師も庭に出ていて、庭の管理に余念無く勤め

庭には真新しい天幕と、テーブルセットが置かれている。

姉妹の歓談用に誂えた場所で、薄絹が視界を塞がない程度に支柱から垂れていて、

上品で豪華に見えるデザインだ。

テーブルセットも新しいものを注文したらしく、ピカピカツヤツヤしている。

どっしりとした白地にマーブル模様の入った大理石を使ったテーブルと、繊細な飾りが施された

同系色の磨き上げられた木の椅子。

最近、マリアローゼの見舞いがてら母が刺繍していたのは、背凭れにおくクッションのカバーだったらしい。


通常であれば、王族の訪問には最低でも1ヶ月以上前に予定が組まれるので、

今回はかなり異例の事である。

家族全員と、家令に執事、侍従に侍女、下僕がズラッと立ち並び、王妃の到着を待つ。

先触れの伝令が到着し、続いて警護の騎士達が見え始め、

やっと王妃と王子の乗った馬車が邸内に入ってきた。

王家としての正式な訪問でないという事を表す為か、馬車についている家紋は王家ではなく、

王妃の実家であり妹である公爵家夫人の実家でもある、フォルティス家の紋章が煌いている。


侍従に手を取られ、馬車から降りてくるのは、

王国の薔薇と称されたもう一人、カメリア王妃。

未だ美貌は健在で、可憐で儚げなミルリーリウムとは正反対の見る者を圧倒するような煌びやかな美しさだ。

王妃は嫣然と微笑みを浮かべる。


「お招きありがとう」


「よく御出でなされました、お姉様」


二人の挨拶が終ると、王妃はひらひらと軽く扇を振った。


「堅苦しい挨拶は抜きにして、お庭でお茶を致しましょう」


そうして仲良く二人は腕を組んで、連れ立って庭の方へと歩いていく。

並んで順番に挨拶…

と思っていたのだが、仲睦まじい姉妹の再会である。

立ったままの仰々しい挨拶は王妃の一言で抜きとなった。

きょとんとしたマリアローゼは笑顔のシルヴァインに手を引かれ、

反対側はキースと繋ぎ、庭へととことこと付いて行った。


「ローゼ、こちらにいらっしゃい」


天幕の下に腰掛けた王妃と、隣に座った母から手招きされて、マリアローゼはとてとてとそこへと歩いていく。


「公爵家が末娘、マリアローゼにございます」


堅苦しいのは無し、と言われたので単純に名前と出自だけの紹介で、ふわりとスカートを摘む。


「まあ、まああ…何て可愛らしいのかしら…!」


興奮したように王妃が隣の母の腕を掴む。


「まるで貴方の小さい頃を見ているようだわ。

もっとこちらにいらっしゃい」


艶やかな美貌なのに、少女らしいところがあって、何ともキュートな人だった。

母といるから余計にはしゃいでいて、そう見えるのだろう。

前回王城に行った時は、王妃と母は離れた所で歓談していたので、

きちんと会った、のはこれが初めてだ。


「ああ…赤ちゃんの頃、もっと小さい頃も可愛かったけど、

今も変わらず可愛いこと……」


ふにふにとほっぺを撫でられて、くすぐったくて思わず笑ってしまう。


「羨ましいわ…わたくしも娘が欲しかった」

「ふふ。ドレスを選ぶのがとても楽しいですわよ。もう一人頑張ってみるのは如何ですか?」

「三人も息子がいれば、もう十分。公務も滞るし、大変なのよ」


確かに大変そうだ。

余裕無く予定が組まれていると父が言っていた事がある。

思いつく限りでも、謁見に公務にお茶会という社交…それも国内だけではないのだから忙しさは

公爵夫人である母よりも厳しい生活なのは想像がつく。

弱音を吐く時間すらなさそうなのに、それを見せずに強く咲き誇る薔薇のような女性。

何か癒しになるといいのだけれど…とマリアローゼは考えて、言葉にした。


「では、可愛いものを見つけたら、わたくしが伯母上様に差し上げます」


「本当に…?」


王妃が吃驚した様な表情をして、横に居る母は可笑しそうにくすくすと笑った。

問いかけにこくこくと頷くのを見て、母と王妃が顔を見合わせて、またふふっと笑いあう。

機会は中々無いだろうけど、二人にはお揃いの物を差し上げよう、とマリアローゼは一緒にふふっと笑った。


「嬉しいわ。何て良い日なのかしら。

息子達抜きでいいから、お城へも遊びにいらっしゃいね」


寧ろ、抜きでお願いします。

というのは口に出さずに、しっかりと封をして閉じ込めておく。


「はい。伯母上さまに会いに参ります」

「絶対よ。約束しましたからね?」


頭を撫でながら、笑顔で言われて、マリアローゼはにこやかにこくこくと頷く。

兄達はどうしているだろうと、庭に視線を投げると、王子達と何やら話をしているようだ。


「ローゼもご挨拶してらっしゃい」


母が、見計らったように声をかけてきたので、マリアローゼは頷いてから、辞去の挨拶をして、

王子と兄達が話している方へと向かう。

当然?の事ながら、父の言ったように双子の兄達は回収済のようだった。


主に長兄のシルヴァインと第一王子のアルベルトが話しているようだ。

近づく私に気づいて、アルベルトがふわりと王子スマイルを見せる。

戦闘力が高そうな笑みだ。

並みの令嬢ならワンパンかもしれないが、

マリアローゼは常にイケメンに囲まれているスーパー幼女なので簡単に負けはしない。


「やあ、やっと会えたね」


「先日は失礼致しました。お陰様ですっかりよくなりました」


とスカートを摘んで、膝を少しだけ折って挨拶をする。

そして、兄の横で所在なさげにしていた、ちょっと意地悪そうな第二王子に向けても挨拶をした。


「お初におめもじ致します。フィロソフィ公爵家が末娘、マリアローゼにございます」

「アウァリティア王国、第二王子、ロランド・ルクス」


マリアローゼの挨拶から目を逸らしつつ、ぶっきらぼうにそれだけを言う。


この子は拗らせている。

銀髪のストレートの髪は、耳の上で切りそろえられて、いかにもな美少年だ。

同じ歳なのに、攻略対象ではなくて、

障害にもなり切れないお邪魔虫という印象にも余り残らないようなキャラクターだったのだが、

見た目は全然悪くないし、何ならちょっといじめたくなる気持にさせられる。

今は純正なツンの美少年だ。

BLも百合も見ている分にはばっち来いだが、実生活に持ち込みたくはない…

だが、嫌な事をされたら妄想要員にしてしまおう、と不穏な誓いを立てつつマリアローゼは微笑む。


「お兄様、庭園のご案内をいたしまして?」


とシルヴァインに聞くと、首を横に振った。


「俺は母上達の所から何か貰ってくるから、先に案内して差し上げてくれ」

「承知致しました。わたくし、パイのお菓子が食べたいです」


注文をつけると、シルヴァインはハハハと豪快に笑って天幕へと走って向かった。

アルベルトはニコニコと王子スマイルを向け、ロランドは相変わらず顔を逸らして

マリアローゼを見ないようにしている。

対照的な兄弟だ。


「では、ご案内致しますね」

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