第12話 狙われる仔馬への贈り物
「まだ、会わせてもらえないのですか?」
絶対安静から2日経ち、マリアローゼは軽食を食べられるようになったものの、
助けた子供達に会うことは出来ていない。
私が助けたのだろうか?と疑問はあるものの、あの場にいた父がそう言っているのだ。
そして、それは秘密にしなくてはならないこと、制御の為に近々魔法の授業を受けられる事、
父は丁寧に説明してくれた。
「彼らもまだ治った訳じゃないですからね。
血と栄養は魔力では購えないんですよ」
とマリアローゼの診察に来ていたマリクが苦笑する。
失った器官や血も元には戻らない物らしい。
生命維持ぎりぎりまで回復できたのは奇跡だ、と聞いている。
この世界には表向き、蘇生魔法は存在していない。
聖女の奇跡だけが、それを行う事ができる、とされている。
今回の回復も、それに近いことが起きたので、緘口令が敷かれていた。
見ていたのは身内だけだったけれども。
未だこの世界に未踏破のダンジョンや、未開の地があるのはそういう事だ。
極力命を惜しんで、安全に開拓しようとすれば、時間もかなりかかる。
それだけでなく、病気も治癒魔法だけでは治せないし、
そもそもの治癒師の数も限られているので、治癒師の能力があると分かっていて
冒険者になる者は、更に少ないといっても良いかも知れない。
第一、治癒師は優遇されるために、危険な冒険をする必要もないのだ。
王侯貴族や、大手のギルド、神殿等々引く手数多といったところでる。
「御飯を食べていれば良くなりますわね?」
「ええ、良くなりますよ」
マリアローゼが確認をすると、思った返事が返ってきてほっと胸を撫で下ろす。
そして、いつの間にやら増えた贈り物に目を遣る。
これは一体どうしたものか。
本格的にお騒がせ病弱令嬢が出来上がりつつあるのでは?
と首を捻る。
社交シーズンという事もあり、母はずっとお茶会へと詰め掛けていたのだが、
5日前のあの事件で中座してからというものの、お茶会への参加を見合わせている。
重篤なのではないかという噂が噂を呼び…
王子からの花だけでなく、多方面からお見舞いの品が届いているのだという。
勿論、「愛されちゃう悪役令嬢」宛てにではない。
眉目秀麗で優秀な宰相である父と、王国の薔薇とも言われ、淑女の鑑とされる母のご機嫌伺いだ。
将を射んとすれば、まず馬から。
子馬のマリアローゼを狙い打ちにしているだけなのだ。
これは、お礼の手紙を書かなくてはいけない。
腱鞘炎になったらどうしてくれる。
「お見舞いへのお返事が大変だわ……」
「あら、大丈夫よ?」
とマリクと入れ替わりに部屋に来た母があっけらかんと言う。
「貴女は今安静にしなくてはいけないのだもの。母様が代わりにお礼状を出しておきます」
まあ、確かに?
先方からすれば、そっちの方が有り難いだろう。
というより、そちらが狙いなのだから。
「でも、そろそろアルベルト殿下には、貴女が手紙を書かなくてはならないわね」
やはりお父様が今まで返していたのだなあ、お母様も知っていたのだなあ、とマリアローゼはぼんやり見上げる。
だいたい一週間も何故送ってくるのか。
「公費の無駄遣いではありませんの…」
と思わず口に出してしまった。
「まあ!」
と母は目を丸くして驚いた。
「ローゼは何て賢いのでしょう」
とぎゅっと抱きしめられる。
諫められるかと思ったが、逆に誉められてしまうとは。
「お花は嬉しいですけれど、わたくしから辞退しておきます」
ふふ、と母が少女の様に笑う声がする。
「殿方はね、気になる女性に贈り物をしてしまうものよ」
「お母様は、お父様に沢山頂いたのですか?」
つい聞いてしまった。
母の瞳がキラキラと輝き、頬は薔薇色に染まる。
やっちまったのである。
その後、夕食までノンストップで惚気話をされたのは言うまでも無い。
女子とは恋バナが大好きな生き物なのだ。
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