第11話 階層主
――――――ギィイイイエエエエエエ‼
「おわっ、鹿って雷出せんの⁉」
『解放、竜種秩序!』
刹那、竜に変化したルクスが迫る雷を鱗に覆われた身体で受け止める。
盾になってくれようとしているのか、とはいえこのままでは反撃どころではない。
「ルクス、乗って良いか?」
『勿論です』
簪の言葉にルクスは人工生物の頭から発されているであろう雷の嵐を振り切り、そのまま飛び上がる。
空から見えたのは、十メートル以上は有ろうかという巨大な角に雷を纏った鹿のような怪物、丘から覗かせていたのはその頭だけか、いずれにせよ勝つためには身体の大部分を吹き飛ばすか、或いは心臓を両断できる距離まで近づかなければ。
『簪さん、先行きます!追撃を!』
ルクスが上空から一筋のブレスを吐く。
第十位階の竜による最大の攻撃、最初から全開のルクスに、流石の階層主も危機を感じたのかその瞬間に地面を蹴ってその場から飛び退くと、直後丘を踏み抜き、上空へ二筋の稲妻を放つ。
だが、階層主とは言え実際第一種程度、彼女の鱗を貫くとは到底思えないが。
『っ、びりびりします……!』
「ルクス!やべえな、マジで意外と効いてんじゃん。でもこんな時の為に、ルクス鱗借りる。解放――――――!」
簪は指から流れる血と左腕の鼓動に大地を蹴ると、直後身体を覆う異物感と服の破れた音を無視し、こちらを除く視線の主に向かって飛び上がる。
発動したのはたった今ルクスから借りた竜種秩序、第一位階小竜(リザード)。
その名の通り変身は精々2メートル程度の小竜になる事しか出来ないが、それでも身体を覆う少量の鱗とその身体能力は格段に向上する。
とはいえ、第十位階のルクスでさえあれだけのダメージを喰らったとなると。
『……!簪さん、同時に行きます。私が人間に戻ったら――――――』
「え、何だって?」
聞き返す簪に、空中のルクスがその身体を人間へと戻す。
強引に攻め込むつもりなのか、直後辺りを覆い尽くす稲妻の嵐に、ルクスは槍を先端に掻い潜ると、その頭上から一つの魔法陣を展開する。
「ああ、援護しろって事ね。術式記述――――――」
「
そして、一筋の巨大な槍が階層生物の身体を貫いた。
――――――‼
「おわっ、暴れんなって!やっぱり図体がでけえと仕留めきれないのか。でもここまでは――――――」
階層主の後方、動かそうとする足元の一つに、簪は氷壁を展開する。
当然、稼げる時間は強く蹴り飛ばされるまでの僅か数秒。
それでも、簪が近づくには十分だ。
「お、らぁーっ!」
『頂きます』
敵の脚を大きく切り開いて倒し、同時に二十メートルは有る巨大な竜が、階層主の身体へ喰らいつくにも。
――――――ギィイイイエエエエエエ‼
「ちっ、でたらめに電撃放ち始めた!ルクス!」
『大丈夫です!このまま――――――』
ルクスはそう言うと、嚙みついたまま階層主の背中を強引に引き倒す。
槍に続く一撃にはようやく階層主も脅威を感じたのだろう、ジタバタと藻掻くが、単純な力ならば第十位階の竜に第一種の階層主が勝てる道理はない。
後は、簪が倒すだけだ。
――――――‼
「ああ、やたらめったら雷放ちやがって、危ねぇな!一撃で決めるなら……頭か?」
人工生物はその個体によって核、心臓の場所や数は異なる。
簪は身体能力上昇の魔術を発動して迫る雷を感で避けると、普段よりも脆く感じる地面を踏み抜き、その背中へと刃を突き立てる。
たった一歩で数メートルの距離を飛び上がったのは、竜種の権能で力が上がっている、というより力の調節が効かなかった。
迫る雷を、間一髪で剣が弾いた。
『簪さん、エラ切れが近いです。そろそろ竜化が解けます』
「くそ、い、きすぎたっ!悪い、後一瞬だけ頼む。これで――――――っ!」
簪は空中に文字を書きなぐると、直後、人工生物の身体から二対の氷の柱が突き出す。
氷茨、咄嗟に発動させた魔術は、ルクスがその巨体を倒してくれたおかげでようやく身体を固定できた。
これでルクスを巻き込む心配も無い。
「ルクス、斬るぞ!後制限時間が有るなら初めに――――――!」
「はい……後はお願いします」
人工生物の上、よじ登って来たのか聞こえて来たルクスの言葉に、簪は大剣を振り下ろす。
絶対両断の魔法、
数十メートルの台地と首を寸断し、階層主が特大の断末魔を上げたのは、それから直ぐの事だった。
「やっぱり、あの時近づく必要は無かったですね」
「いや、他人の魔法の効果範囲なんて知らないじゃん?それに――――――」
勝てたんだし良いだろ、得意げに笑った簪が階層主の上に立つルクスへ右腕を突き出す。
雷を受け続けての耐久は相当なダメージだったのだろう、身体中に煤が尽き、服も所々破れていたが、こちらを見る彼女は嬉しそうに笑っていた。
「うーん……駄目ね、失格」
「がーん」
翌日、朝の新生世界の一角。
「ええ、ちゃんと協力して階層主倒したじゃん!」
「そうね、最下層第一種の階層主を第十位階と第四位階が力を合わせて、ギリギリでね」
にっこりと笑うイテラ。
探索者達の敵である人工生物には、それぞれ階層に応じた種分けが有る。
いわゆる低レートと呼ばれる第一から第三、中レートと呼ばれる第四から第六、高レートと呼ばれる第七から第九、そして最高レートと呼ばれる第十種。
階層主を倒した翌日、簪とルクスの二人は要件が有ると言うイテラに連れられ、再び新生世界に繰り出していた。
「というか、今日は何でこんな朝から?」
「あら、それは勿論、この後また狩りに行くからよ。簪とルクスちゃん、二人の秩序を上書きした後で」
イテラはそう言って端末の画面を開くと、一つの映像を二人の間へと送る。
階層主と組み合い、戦う二人の姿を。
「おっ、中継カメラじゃん!俺達についてたのか」
「中継カメラ?」
「他の人に探索者達の戦う姿をリアルタイム配信する機能よ。私達はあくまで一般人の娯楽の要素も兼ねているから、階層主とか強い敵と戦ったりすると中継されることが有るのよ。第一層に回されるカメラはほとんどないから、そこは誇っていいわ」
中継カメラは退屈な第二世界の人々や一般人、彼らが探索者同士、もしくは強大な人工生物との戦闘を視ることでその感覚を共有するためのもの。
今の世界で最大の娯楽である探索者、そのためある意味では、これに映ることは一種の栄誉であると言えない事もないが。
「順位も上がったでしょう?」
「もち!初の3500万位!」
「私も……えと、3800万位!」
「十分よ。先は長いけれど、500万位も上がったし一日の戦果にしては十分だわ」
「なら、何が問題なんだ?」
「そうね、先ず戦い始めた瞬間にルクスちゃんが飛んだのは良かったわ。敵の視線を引けて、攻撃も出来る」
「えへへ……」
「けど、その後からが酷いわね。タイミングも会わせず勝手に竜化を解いて一度しか使えない異装の能力を使う。動き自体は悪くないし簪が合わせられたから結果的に良いけれど、援護が無かったらあんな傷直ぐに治るから、その時点で二分の一勝機が消えるわね」
人工生物は基本的に人間と比べて再生能力が圧倒的に高い。
そのため使う魔法や攻撃はタイミングを合わせるべきだし、それが一度しか使えない奥の手なら尚の事。
「まぁ、でも結果的にタイミングは合わせられたし……」
「因みに、あなたは論外よ?折角そんな良い剣に竜種秩序まで使ったんだから、ルクスちゃんに視線が向いてる間にあなたが足の一つでも切り落としなさい。それからの戦闘が楽になるし、階層主の攻撃対象があなたに移って、攻撃力の高いルクスちゃんが自由になるわ。あそこまでダメージを負う事も無かったでしょうね」
新世界大戦では連戦になることも多いため、一回の戦闘で受けるダメージの量は極力減らさなければならない。
うっかり死んでしまった日には、目も当てられない。
「……はーい」
「くす、素直でよろしい。まあ失格っていうのは半分言葉の綾だけれど、ただせっかく二つも秩序を刻めるなら色々試してみても良いんじゃない、っていう一つの提案よ。わざわざ強い異装を持ってるのに、下手に竜に変化できるせいで使えるタイミングが限られるのは勿体ないじゃない?」
魔導槍ロンゴミアントの魔法、天槍は直線状百メートル以上を貫く第十位階。
カラドボルグの天裁と同じで、通常の防御手段では防げない必殺の一撃だが、当然竜になっている間は使えず、加えて竜種をそれほど使い慣れていないルクスにとっては、発動するタイミングが読まれやすい。
「強くなれますか?」
「それはルクスちゃん次第よ。でも、折角その異装をメインに戦うなら他の秩序も見ていて損は無いと思うわちなみに、簪も変えたほうが良いわ」
「え、俺もなの?」
「ええ、というか、元々その異装自体暁が力の無い天使秩序に合わせて作ったものだから、どうしても身体能力押しの竜種とはあんまり相性が良くないのよ。あなたはそうね――――――」
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