第9話 再臨の天竜

「あっ、創世会議ユランダリア今日だったのか。危ね、見落とすところだった」

「そう言えば、あなたいつも見てたものね。ルクスちゃんは見た事有る?」

「いえ、何やら凄そうな会談だと言うのは理解できますが……」


 ルクスはそう言うと、突如現れたホログラムに目を輝かせ、その中へ入って行く。

 創世会議は二年に一度、前回の新世界大戦で上位だった100の同盟を集めて行われる探索者達の方針会議及び、現状報告会。


「あれ、放って置いて良い系?」

「ふふ、ホログラムは通常立ち入り禁止のはずだけれど、ルクスちゃんは意外と行動的ね」

「そうだね、今回だけは大目に見ることにしよう。折角新規ユニオンの立ち上げだ、今年の創世会議について、中で説明するよ」


 レヴィンの言葉に、簪は「まじっすか!」と即座にホログラムの中へ飛び込む。


 この会議に参加している同盟はそのどれもが新世界大戦で上位を狙う最上位探索者を抱え込んでおり、この会議に参加することが出来れば、同盟としての入団者は後を絶たず、あらゆるところから大量の依頼やCMなどが転がり込んでくる。


 ほとんどの同盟にとっては、正に最大の目標であると言っても過言ではない。


「あ、簪さん」

「ルクス……何で円卓の中心?」

「私が会議を動かしています!」

「うん、まあ……楽しいなら何よりだけど……」


 ルクスと簪が話していると、後方から二人、イテラとレヴィンが壁をすり抜けて入って来る。


 驚きが少ないのは、恐らく彼女達はいつも会議に参加している、或いはしていた側だったからなのか。


「おや、丁度始まる所か。創世会議は存じているかもしれないが、基本的に上段に座る95の同盟、そして中心の円卓に座る5つの同盟によって構成されている」

「円卓が最上位ですか?」

「理解が早くて助かるよ。円卓に座っているのは前年の新世界大戦にて最上位のポイントを獲得した5の同盟――――――」


 レヴィンの言葉に円卓の一角、赤銀色の鎧を着た一人の男性が立ち上がる。


 どうやら、会議が始まったらしい。


『それでは、これより今年の創世会議を始める。進行は私【紅玉騎士団ファーマレアス】第三騎士団長、雨宮あまみや 清四郎せいしろうが――――――』

「ああ、会議の内容は聞かなくて良いよ。どうせいつもの現状報告会だ。それよりも、今年の進行は紅玉騎士団か。進行は一位が務めるのがしきたりだから、今年は彼達が勝ったんだね」


 紅玉騎士団は所属人数五万人を誇る大同盟、第一から第十までの騎士団と騎士団長、そしてそれら全てを統括する総団長によって構成され、新世界大戦でも常に好成績を残している。


「紅玉騎士団、【偉大なる騎士(グランドナイト)】だろ!かっけえよな……」

「そうだね、紅玉騎士団総団長カリア・イゼ・レーゲンハイム、彼女は新世界大戦を二度も制している間違いなく最強の探索者の一人だ。血竜姫は戦った事有るかい?」

「無いわね、私の回には出てこなかったから。騎士団長の一人とは戦ったことが有るけど、彼ら一人ずつでも手に負えないわ」


 騎士団長は全員が第十位階の多層刻印、或いは二十位階。

 彼らの力はそれぞれが最上位の探索者であり、同時に騎士団全体が動くときは探索者の間で一種のイベントにもなる程。


『次いで、私から発言させて頂きます――――――』

「おや、あれは【来来弾雨バレットクラウン】か。彼らは比較的新興の同盟で円卓は今回が初めてのはずだが――――――」

「あー、前回の予選で暴れまわってた機工兵団か!」

「あなた、本当に好きねぇ」

「機工兵団?」

「巨大な機械を用いた軍団だよ。彼らは前回の一回戦、大量のミサイルや機械兵器を用いて2位と二倍差、最多撃破数を誇ったんだ」

「【高楼破城グランダリエ】、展開限界高度五十メートルの駆動機士、あれどうやって倒したんだ……ですか?」

「楽な話し方で構わないよ。駆動機士エクスレインと機械士長ファラ・悠馬・イーリスは前大会、整備不良を理由に一回戦を終えた所で離脱しているね。誰にも撃破はされていない」


 来来弾雨は構成人数一万人、紅玉騎士団に比べると規模は小さいが、その分一人一人が機械秩序やそれに伴う強大な機械兵器を持ち、ここ十年程で急激に力を付けてきた同盟。

 前年の新世界大戦は3位、会議に出ているのは機械士長直下開発士長、同盟のナンバー3だ。


「でも、【眠らずの森ナイト・アンド・ナイト】は相変わらず誰かも分からないのを寄越すわね」

「彼らはこんな会議興味すら無いからな。ずっと敵対してきた魔族と吸血鬼、中でも最強と称される【第一魔王】と【第一始祖】の作った大同盟。彼らの名声だけで入団者は後を断たん」


 秩序の中で最強の証でもある真紋は、獲得するのは当然大変だが、維持するには更に圧倒的な実力が必要になる。

 今では最も古いとされる第一魔王と第一始祖、新世界大戦も制した彼らは、数十年もの間その地位を守り、同時に数多の同族や探索者を滅ぼしてきた。


「そう言えばこの前、交響都市シーズリーズ襲われてませんでした?」

「ええ、全く……彼らは本能のままに生きているから困ったものだよ。おまけに魔族と血族は元々の身体能力も高い」


 眠らずの森は約1万5千人が所属し、毎回上位へ残る人数が最も多い同盟。

 今年の同盟としての順位は2位、一方で同盟としての纏まりは非常に偏っており、それぞれ種族上位の者達が派閥を作っている珍しい形態だ。


「隣の人、凄く睨んでいますよ?」

「あれは私の所属している同盟だよ。【始まりの塔(ファーストステージ)】、今年は4位だったかな。出席しているのはこの間眠らずの森の対応にあたった同盟教育長のようだね」


 始まりの塔は所属人数160万人、全同盟の中で最大の規模を誇っている。

 主に探索者の育成に力を入れており、会議に出席している他の同盟と比べると人数は圧倒的に多い代わりに強さの質は比較的低い、質より量を体現している珍しい同盟の一つだ。


「あら、規模が多きい同盟は相変わらず無駄に守る場所も広くて大変ね?」

「全くだ。面倒事ばかりで会議に回せる人材さえ居ない。とはいえ【天命行軍】、同盟長や私達が居れば大概の事は事足りるが」


 同盟は所属している都市で、その規模に応じて防衛範囲が設定されている。

 始まりの塔は全同盟の中で最大、そのため三大都市の一つ交響都市の中でも十分の一が単一同盟の受け持ちにされており、常に都市の防衛や膨大な依頼に追われている。


 だが実際は、危険度が高いものはそのほとんどを数名、十数名の探索者が受け持っていた。


「新世界大戦を制した【天命行軍】に歴代最強と言われる獣種獅子族【第二獣王】、副協会長様も、もう少し同盟の戦力が整えばまた新世界大戦に出られるでしょうに」

「どうだろうな。ただ少なくとも、あそこに座っている【魔女の晩餐ヴァルプルギス】でも引きずり降ろさない内は厳しいと思うが」


 そう言うと、レヴィンは円卓の中で一人話に入ろうともしない女性を見る。

 明らかに異質な雰囲気、彼女は【うつろの魔女】ユアン・ルーヴェルティエ、この場に来ている唯一のにして、罪盟を除いた中では恐らく最も黒い噂の絶えない同盟、魔女の晩餐の晩餐長。


「うわ、今年も居るのね……あの性悪」

「そう言えば、君は彼女に執着されていたね。魔女の晩餐はここ数年で更に戦力を増したよ。おまけに今年だけで強盗、放火、都市襲撃、もう下手な罪盟より余程質が悪い」


 魔女の晩餐は円卓の中では最下位、去年の新世界大戦で5位を獲得した同盟だが、恐るべきは五百人という圧倒的に少ない構成人数、そして全員が最上位、或いは最上位に近い探索者である事だ。


「一先ず、今年の創世会議のメインはこんなところだな。同盟の名前は同盟主やその秩序に関係するものが比較的多いが、盟星は同盟での戦い方などに起因する物も多い」


(名前、名前か……)


 簪達が同盟を組むに当たって、目指す場所は暁とイテラ、天使と竜が争いの末に到達した新世界大戦の覇者。

 かつて彼女と覇を競った竜(イテラ)と竜を堕とした天使の子(簪)……そして二人が再び飛び上がる記憶を持った。


「名前、名前か……あー、【再臨の天竜リライズ】とかは?」

「くす、再び天へ昇るリライズ……もしかして、私と暁かしら?」

「そゆこと、まああと、ついでに俺も載せてってもらえたら、なんて……?」

「最後ので台無しよ……でも、そうね――――――」

「血濡れた新世界の息吹は駄目ですか?」

「……あら、そんな事ないわよ?でもこの同盟にはもったいない名前だから、いつか異装を手に入れた時にでも付けてあげて?」


 イテラはそう言って笑うと、ルクスは一瞬の逡巡の後、「はい!」と嬉しそうに笑う。


 考えるの諦めたな、あれ。


「再臨の天竜、そうねえ……なら盟星は竜の翼に交差させた剣と槍、なんてどうかしら?」

「俺とルクスの武器、それにイテラ姉の翼か。さっすがイテラ姉、抜群のセンス!」

「……優勝します!」

「だな!」


 ルクスの言葉に、簪は笑う。


 不思議と高揚感が湧いてくるのは、今まで予選で終わっていた簪の夢の舞台に、ようやく一歩目を踏み出せたような気がしたからか。


「どうやら、決まりの様だな。それでは、同盟長簪・レゼナ・ヴァ―リ、副同盟長ルクス・レゼナ・ベルンハイム、そして同盟員イテラ・メル=オーリアによる新規同盟【再臨の天竜】の設立を承認する。諸々の設定事項については簪さんの端末に送らせてもらうが……」

「ええ、仕事が早くて助かるわ、流石副協会長様。ちなみに、今から軽く階層に潜りたいのだけれど――――――」

「層は?」

「先ずは一層辺りで」

「……送った、確認してくれ」


 レヴィンはそう言うと、三人の前に幾つかの画面を送る。


 これはそれぞれ5つの討伐依頼と採集依頼、新世界大戦用のポイント、それとお金稼ぎ用か。


「全く、かつて血の海で水浴びをしていたとまで言われていた君が今更一層とは、何の冗談だ?」

「ふふ、良いじゃない。何でもできる世界になっても寿命だけは変えられない。それでも多少は伸びたけれど、たった150年の短い寿命、有意義に使わなきゃ」

「容量を得んな……なら尚更十層にでも潜ってエラの吸収でもすれば良いものを」


 世界に流れるエネルギー、エラは人体を通じて吸収し、秩序を発動するうえで必要になるのと同時に、人工生物を倒すことで更に吸収量を増加し、身体能力などを上げることも出来る。

 その吸収量や限界は当然秩序位階が高く成るほど大きくなり、一方で人工生物からの吸収量も一体の強さによって変わる。


 だからこそ、イテラは秩序を書き換えても、未だ第十位階を上回る強さを保てているのだが。


『優勝しようぜ、俺達で!』

「俺は君に負けてから更に強くなった。精々、俺に破られるまでは負けてくれるなよ?」

「……そうね。あなたに負ける日は来ないから問題ないわ。でも、楽しみにしてなさい。あなたはいつか再臨の天竜という同盟の設立に立ち会えた事を自慢するようになるわ。私達は――――――」

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