第8話 同盟
探索者達の間には、『同盟』という巨大な寄り合い兼、組織が存在する。
構成人数は無制限、2人から登録できるこの制度は、一般的に所属している探索者同士が、個人同士の戦いを除いで味方であるという証であり、同時に問題が起きた時は全体の責任、或いは協力するある意味探索者として生き残る上で最重要な要素の一つ。
そのため通常、新人やそれほどの強さを持たない探索者達は強い同盟の庇護下に入るのが通説でもあるのだが。
「いらっしゃいませ、こちらは新世界大戦の登録受付所になります。本日はご登録でいらっしゃいますか?」
数分後、探索者協会内一つのカウンターにて。
「はい」
「かしこまりました。それでは探索者情報の照会をさせて頂きますので、登録画面の表示をお願いします」
「登録画面?」
「いつもの端末画面あるでしょう?そこの一番左上よ」
イテラはそう言うと、自身の端末を開き、指をさす。
その際一瞬だけ表示された画面に受付の女性がぎょっとした表情を見せたのは、彼女の情報が眼に入ってしまったからだろう。
彼女の知名度は年月が経って多少落ち着いたとはいえ、未だ十人に聞けば八人は知っていると答える。
それ程までに、最上位探索者は皆の憧れなのだ。
「はい、個人情報の照会が終了しました。ルクス・レゼナ・ベルンハイムさん、あなたはただ今より第75回新世界大戦エントリーされました。順位は最下位の4372万位、本戦に出場するには、100万位以上の順位を獲得する必要が有ります」
新世界大戦は最初に一年間を賭けて行われる予選と半年間の本戦一回戦、そして優勝者を決める半年間の決戦を含めた二年間で行われる。
「その辺りの説明は結構よ、ありがとう。ついでに同盟も結成したいのだけれど、手続きをお願いしてもいいかしら?」
「あのイテラ様が同盟に……う、承りました!少々お待ちください!」
そう言うと、受付に居た女性は端末を開いたまま、高速で幾つかの画面を処理していく。
手続きに必要な物を探しに行ったのか、或いは自分の手には負えないと判断して上の職員を呼びに行ったのか。
隣では、ルクスが首を傾げていた。
「同盟とは、何ですか?」
「そうね、一言で言うならゲームとかで良く出て来る『ギルド』とか原初世界の『会社』みたいなものね。新世界大戦でも同盟員同士は居場所を教え合ったり、協力できるから結構恩恵が大きいのよ。そういう意味だと、ある意味戦争をするための『軍』とも言えるかしら」
同盟による恩恵や干渉は、その同盟毎に異なる。
所属するだけで固定給が発生する代わりに面倒な争い事に強制参加させられる、或いは反対に一切の干渉が無い代わりに全ての責任も自分が負う個人主義の所も。
「そうだね、だが最近は
その時、カウンターの奥からローブを羽織った一人の男性が歩いてきた。
「あら、副協長様じゃない」
「突然慌てた職員に呼び出されたと思ったら君か、【
「ええ、そのつもりよ。この二人と一緒にね」
イテラはそう言うと、隣にいる簪とルクスの肩へ手を置く。
探索者協会の副会長、130センチほどしかない身長は、精霊秩序だろう。
見た目はまるで子供、だが明らかに異質なエラを纏っているのは、簪にも直ぐに分かった。
それこそ、今のイテラ姉ですら比較にならない。
「……初めまして、探索者協会副協会長レヴィン・オードレントだ。失礼かもしれないが、君の名前を聞いても?」
「簪・レゼナ・ヴァ―リ……です。副協会長のレヴィンって……もしかして、【
「おや、私の事をご存じなのか。レゼナ・ヴァ―リ、もしかして【
レヴィンが視線を向けると、イテラが小さく頷く。
幻魔卿、そう呼ばれる探索者は周囲のエラを増幅させる『精霊種』と世界を惑わす『幻術』、二つの秩序を極めることで、あらゆる敵を出口の無い閉鎖世界へ誘う最上位の探索者。
「……なるほど、君が前線を離れた理由は――――――」
「あなた……人を詮索する暇が有るなんて、随分副協会長様はお暇なのね?そんなんだから、罪盟の奴らに都市を乗っ取られるのよ」
「……罪盟?」
「昔で言う犯罪行為を進んで行う連中の集まる同盟の事だよ、ルクスさん。いや、耳が痛い限りだ。血竜姫でも手を貸してくれれば――――――」
「あら、私は少し忙しいのよ。とはいっても、皆がこうだから進まないのでしょうけど」
そう言うと、イテラがクスリと笑う。
罪盟はその名の通り、率先して犯罪行為を行う同盟であり、探索者にとっては人工生物とは違う、同じ人としての敵。
彼らは様々な目的で動いているが厄介なのは年々増加するその規模であり、最近では小都市が乗っ取られる事はおろか、秩序世界の一角さえも。
「ええ、本当に……強い探索者と言うのはどれもこれも我が強くて困る。挙句にはここ50年で二度も罪盟の者が優勝したせいで、完全に闇で染まっている崩壊世界や黒牢秩序まで作られたというのに」
「ふふ、『終末期』が訪れるよりはマシでしょう?」
「……それはそうだが―――――」
レヴィンの言葉に、ルクスが首を傾げ、今度はイテラが口を開く。
『終末期』は、32年前に新生世界で起こった史上最も被害の大きい罪盟による大虐殺。
狙われたのは本戦一回戦の期間中約半年から八カ月、強力な探索者達や同盟が帰還出来ないタイミングを狙って行われた罪盟の行動は、被害者数が推計で約一千万人、この時は流石に普段非協力的な同盟も含め全同盟が結託し、新生世界の奪還へと臨んだ。
「怖いですね……」
「とはいえ、これを経験したお蔭で罪盟は明確に探索者達の敵になり、多くの同盟で新世界大戦の期間中も新生世界を守る一種のルールも生まれた。悪い事ばかりでもないさ。最も、この一件で彼らに惹かれた者が少なくないのも事実だが」
「仕方ないわ、探索者達は皆、与えられた平和が享受できなかった人達だもの」
イテラの言葉に、ルクスは「なるほど」と頷く。
今まで、簪は罪盟員や彼らに準ずる存在に会った事はない。
今思えば、もしかしてイテラが遮断してくれていたのか。
「そういえば、もし新しく同盟を造るのであれば最近は通常の同盟に紛れて活動している罪盟員も居るそうなので注意してくれ。
「いいえ、リーダーはこっちの簪よ」
「……‼では君は
「いいえ、副同盟長はルクスちゃんよ」
イテラの言葉に、レヴィンが驚いたような表情を見せる。
これは、同盟を造るにあたって三人の中で決めた事だ。
通常ユニオンを結成する際は、同盟員の中で最も強い者が成るのが一般的。
その方が探索者内での興味を引きやすく、また同盟員を集めることで規模も大きく、同盟としての恩恵も受けやすくなるためだ。
一方で、隠し事もしにくくなる。
「……失礼だがお二人の秩序は……いや、これは余計な事だね。申し訳ない。それじゃあ同盟長となる簪さん、同盟の名前と
「……考えてなかった」
レヴィンの言葉に、簪が隣にいる二人を見る。
同盟の設立において、最も重要な作業はこの二つ。
名称は当然設立される同盟の全てを表すものだし、服や武器、好きな部分に映写出来る盟星はその同盟に所属しているという象徴。
「そう言えば、同盟を組むのを決めたのも今朝だもんな。何も思いつかない……イテラ姉、ルクス、何か有る?」
「
「……」
そして、ふと発せられたルクスの言葉に、場の空気が凍り付いた。
「……うん?」
「え、何そのセンス」
「あれ、駄目でしたか?母がよく買ってきてくれた本の主人公達は、こんな感じの名前にしていたと思ったのですが……」
首をかしげるルクス。
彼女の表情は本気だった。
「……ルクスちゃん、ちなみに暁が買って来た本って?」
「はい?本であれば、確か母さんは簪さんに買って喜んでいたものをいつも選んだと」
「あー、待ってそれ、俺がダメージくらう奴じゃない?」
そう言えば、幼い頃はカッコイイ探索者達を更に美化したようなアニメとかを見た影響で、いつも格好の良い技名とかを考えていたような気も。
まさか……幼い頃の黒歴史が仲間を通じて帰って来るなんて。
「はぁ、何か萎えてきた」
「……?私は格好良いと思いますよ」
「うーん……ギリギリ嬉しくない」
肩を落とす簪に、イテラはクスクスと笑う。
彼女は黒歴史を全て知っている。
とはいえ簪ももうその時期は過ぎたし、探索者になればその違和感も若干麻痺しては来るのでどうでも良いのだが、まさかこんな所で。
「うーん、でもいざ決めるとなると思いつかないわね。レヴィン、何か参考になるものあるかしら?」
「そうだな……それなら今日丁度良いのが有る。丁度時間的にも――――――」
『ねえ、見て見てあれ!』
『清四郎様―!』
「おや、始まったようだな」
レヴィンの言葉に、直後周囲で大きな歓声が沸き起こる。
突然の事に驚いた簪とルクス、そして何かを察したイテラは咄嗟に後方を振り返ると、そこにはホログラムで投影された円卓と周囲を囲む座席が有った。
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