第104話『再生』

「ホカゲお願い!」

「任された」


 ホカゲの大鎖鎌の分銅が、打ち上げられた五本の腕の中央にある巨大な腕に巻き付いて、先程と同様に引っ張り出す。


 しかし、引っ張り出された腕はサリが攻撃するまでもなく、塵となって消えてしまった。


 残った四本の腕が横凪に振るわれ、俺とヒカリを大裂け目のそばからどかそうとする。


 スキル『敵影看破』発動。


「ホカゲ、本体の腕が変わっている。今度は左上の腕が本体だ」


 迫る巨大な腕を俺はかわせない、だからヒカリにお姫様だっこをされながら敵影看破を使っていた。もう何も思うまい、だって仲間のために最前を尽くすと決めたのだから、惚れた女にお姫様だっこされ暴力から守られていることだって気にしない。


 目から少し涙が出そうになるのは敵影看破を使いすぎたから、それ以外の理由はない。


「やってくれる」


 ホカゲは分銅を手元に戻す時間も惜しんで、大鎌の方を投げた。

 ぶつかれば人体を簡単に両断しそうな勢いで飛んだ大鎌は見事に左上の腕へと刺さり、大裂け目から引きずり出す。


「アイシングタイム」


 サリは本体の巨大な腕を破壊することなく、魔法で氷の中へと閉じ込めた。


「態勢を整えて、タイミングを合わせるよ」


 俺はまだヒカリにお姫様だっこをされた状態、このままでは五秒以内に水晶を投げ込むことが難しいのでサリが時間調整をしてくれたのだ。


「降ろすよ」

「おう」


 いまだに三本の腕の攻撃は続いている。そりゃ丁寧には下ろせない。

 体を丸くして衝撃に備える。


 背中を支えているヒカリの腕が抜かれて、一瞬の浮遊感の後の落下、お尻着地でダメージを最小限にしてすぐに立ち上がる。


「準備OKだ」

「それじゃ、いくよ、アンコール・サンダースライディングタックル!」


 氷漬けにしていた本体の腕を粉砕。

 それと同時に消滅する三本の腕。

 無防備になる大裂け目。

 制限時間はたったの五秒。


 だけど、これくらいなら俺だってできるんだ。

 ヒカリやサリに比べたら、俺の魔力なんて極小だけど、レンサクのポーションのおかげで一時的にブーストされている。


 いまならレベル30代くらいのステータスはあるはず。

 レベル30って言ったら、異世界では一流の戦士レベルなんだ。

 足に魔力を注いで一歩目からトップスピードに乗る。


 大きく振りかぶって、ダンクシュートのように大裂け目に対策水晶を叩き込んだ。

 どうだ、時間は三秒と掛かっていないはず。


「『敵影看破』」


 すぐさま敵影看破を発動、水晶の効果を確認する。

 トラップに付いていた防衛機構の五本の腕が再生されない。つまりトラップは消滅、対策は成功したんだ。


「トラップは破壊した、みんな裂け目を破壊してくれ」


 これまで魔物を吐き出す大裂け目を破壊できなかったのは、トラップがあったから、それが消滅した今、破壊をためらう理由は無い。


「これで終わり」


 ヒカリが輝く剣を上段に振り上げたタイミングで、空間が揺れ、大裂け目と同規模サイズの次元の裂け目が無数に出現する。


「もういい加減にしろよ」


 二重トラップだったのか、今度は魔物ではなく、裂け目事態を量産しはじめた。その数は十や二十ではない、三ケタを超えた。出現を続ける大裂け目は病院の七階に留まらず、どんどんと広がっていく。


「キャァ!!」

「ヨシカ!」


 病院の敷地内を埋め尽くすほどの裂け目、ヨシカの張っていた聖域結界にまで干渉、そして、物量に物を言わせてヨシカの聖域結界を強引に打ち破った。


 強引に破られた結界のエネルギーが逆流して術者であるヨシカを襲う。

 大裂け目の増殖はまだ止まらない、病院の敷地を超えてどんどんと広がっていく。


「このままじゃ、裂け目自体が街まで行くぞ」


 魔物が出現する次元の裂け目自体が街に到達してしまえば、いくらケンジやレンサクが頑張っても隠蔽なんてできるわけがない。


「ハァッッ!!」


 ヒカリが全力で最初の大裂け目を破壊した。

 五本の腕と同じ、本体を叩けばこの裂け目の増殖を止められるとの判断。

 その判断には俺も同意できる。でも。


「ヒカリ、大裂け目も移動している。それは本体じゅない」


 俺の敵影看破がヒカリの破壊した大裂け目が本体じゃないと教えてくれる。


「そんな、魔力量には変化がなかったのに」


 そう、大裂け目が発する魔力などは全て一緒で、俺の目から見ても全て同じに見える。それではどうして俺が本体じゃないと見破れたのか、それは本体だけが防衛機構を持っているからだ。


 すでに防衛機構は完全再生されている。

 対策水晶で破壊しても復活するなんて、本当にいやらしいほど高性能な魔法である。


 ザンザガリオスの怨念がここまで強かったなんて嫌になるぜ。

 俺は黒刀を抜き、一つの大裂け目に投げた。

 そして出現する腕に突き刺さる。


「ヒカリ、本体はその裂け目だ、破壊してくれ」


 もう、時間的余裕は残されていない。


「待ってください、その腕が復活しているなら、トラップだって」


 頭の回転が速いヨシカは気が付いてしまったか、いや、時間差はあってもヒカリもみんなも気が付いたはず。防衛機構である腕が復活したなら、その元となっている。トラップまで復活していることを。

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