第103話『突撃』

 引き抜いた巨大な腕、その先に体は無く、肩までしか存在しない魔道具の一種だと俺の敵影看破が見抜いてくれた。


「サリ、弱点は雷撃だ。タンガ、打ち上げろ!」

「撃ちもらすなよ!」

「誰に言っているのよ!!」


 落下する巨大な腕の下へと潜り込んだタンガが盾スキルの吹き飛ばし技『バニッシュ』を使い、上空へと打ち上げる。


「全力全開、一蹴り入魂、サンダースライディングタックル!!」


 天からではなく地上から天空へと雷が走る。

 自身を稲妻とかしたサリが、巨大な腕を打ち抜き消し炭にした。


「どうサトルくん」


 ヒカリが俺の周りに近づくアーマーアンデットを斬り伏せながら聞いてくる。


 俺は敵影看破を使いながら、大裂け目を見た。あとは水晶を投げ込むだけで解決してくれるならありがたいけど、やっぱりそう簡単にはいかない。


「防衛機構が再生している。時間にして五秒くらいかな、巨大な腕が完全回復だ」


 影から魔導式の手榴弾を取り出し大裂け目に投げ込んでみれば、すぐに腕が裂け目の外へと持ち出して爆発、腕に焦げ目をつけたが、このぐらいでは吹き飛ばせない。


「ちょっと、あたしの全力で破壊したのに、たったの五秒で再生するの、卑怯だよ」


 無限物量の時点でかなり卑怯な戦法だと思うけど、この方法はあの勇者様が敵に教えた戦法なんだよな。


「みんな体力は」

「お前が一番心配だ」


 ごもっとも、タンガの言う通り。


「敵は無限に湧き続けている。なので取れる手段は一つしかない、発生源を潰す。そのためには、あの巨大な腕を破壊してから五秒以内に、この対策水晶を大裂け目に投げ込まないといけない」

「役割分担だね。私が周囲のアーマーアンデットを倒してサトルくんを大裂け目の元まで護衛する」

「わたくしは再び、聖域結界を使ってアンデットを弱体化させます」

「俺はヨシカの護衛だな」

「あたしとホカゲが、あの巨大な腕の担当だね」

「また引きずり出すから、後をお願い」


 いいね、この打てば響くやりとり。


 自分のやることを瞬時に分担してくる仲間たち、やっぱり俺はこのメンバーが大好きだ。


 この作戦がうまくいけば、戦いが終わる。

 相手も意思があるかわからないが、最終バトルだと理解したかのように、大剣使いに続く新型のアーマーアンデットを吐き出してきた。


 突撃槍ランスを装備した、足回りが太くなっているアーマーアンデット、ランスアーマーとでも呼んでおこう。


 吐き出されるアーマーアンデットのほとんどが、大剣アーマーとランスアーマーに限定されだしている。これではヨシカの聖域結界で弱体化できても俺では一撃で倒すことはできなそうだ。


 でも不甲斐なさを嘆くのはもうやめた。反省は戦いを切り抜けることができたなら、それからやればいいんだ。


「聖域結界、展開します」


 ヨシカの結界発動と同時に作戦を開始する。


「真っ直ぐ行くよ!!」


 ヒカリの剣が輝き伸びて、突っ込んでくるランスアーマーをランスごと両断、後続も襲ってくるがヒカリは止まらず。演舞を披露するかのように、大きくや小さくと様々な回転運動で剣を止めることなく動かし続け、大剣アーマーやランスアーマーを斬り飛ばす。


 俺は遅れないよう、ヒカリの後を追いかける。


 ヒカリの振る剣の邪魔にならないよう。一定の位置をキープしながら走る。少しでも攻撃に参加しようなんて色気は出すな、弱体化した今なら強化されたアーマーアンデットだってヒカリの敵ではない。


 自分の欲を出すな、仲間の為にやらないという選択をするんだ。


 そしてそれはヒカリも同じ、剣の刃をもっと伸ばすことができるが、剣の寿命が早くなってしまうため、あえて進路上の敵しか斬らない長さにしている。攻撃範囲外にいる敵は完全に無視、何体ものアーマーアンデットが聖域結界を使うヨシカへと群がるが、タンガの防御力を信じて手を出さない。


 サリやホカゲも、ヒカリなら突破できると信じているので、戦いには参加せず。いつ大裂け目から腕が出てきても対処できるようにと、最小限の戦闘、近づいてくる敵しか相手にしていない。


 ランスが同時に三本、ヒカリへ目掛け突き出される。

 全てを避けられないと悟ったヒカリが二本を弾き、残った一本を白銀の鎧の肩で受けた。レンサク特製の鎧はかろうじてヒカリの体は守ってくれたが、肩部分の鎧が弾け飛び、ヒカリの肩があらわになる。


 見た目にはケガはしていない。


 ここで「大丈夫か」なんて声をかけるわけにはいかない。

 律儀なヒカリならきっと返事をしてしまうから、状況で判断しろ、白い肌が見える肩からは血は出ていない、つまり裂傷はない、剣も振るっているから骨もおれていないはず。大丈夫だ、信じるんだ。


 そして集中しろ、俺は全速力でようやくヒカリに付いていけているんだ。余計なことを考えて離されるわけにはいかない。


 距離にしてたった十数メートルの移動のはずなのに、数百メートルは離れているんじゃないかと錯覚させられるくらいに大裂け目は遠かった。


 だが、それもあと少し。


「予想してた!」


 アーマーアンデットを潜り抜け、大裂け目に元へたどり着いた瞬間、裂け目の中から巨大な腕が伸び、ヒカリへと攻撃してくる。


 だけどヒカリは存在を知っていたので、攻撃を予想していた。

 迫る五本の腕を高速の五連撃で全て跳ね上げる。

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