第102話『看破』

「放さないでください」

「わかってる!」


 俺はヨシカの腰にしがみ付き、ディアから振り落とされないように必死でバランスを取っている。


 周囲から押し寄せるアーマーアンデットを牧野の投げた黒ボールが吹き飛ばし、進路上にいた大型アーマーアンデットを弓崖さんの矢が爆散させる。

 爆発の熱波が荒れ狂う中をただ真っ直ぐに直進できるのはディアの脚力とヨシカの防御結界のおかげ。


 ここまでお膳立てをしてもらったんだ、何がなんでもヒカリの元へ辿りついてみせる。


「サトルさん、ここから揺れます!」


 腰にしがみ付いている俺の腕にヨシカの手が重ねられた。


 次の瞬間、白き大鹿ディアが飛んだ。


 ディアには飛行能力は無いので、正確にはジャンプしただけだが、飛んだと錯覚するほどの大ジャンプ、ひしめき合うアーマーアンデットを飛び越え、半崩壊した廃病院の壁に足をかけジグザクに上へ上へと飛び跳ねる。


 もう階段など残っていないので、最上階に行くにはこの方法が一番早い。


 二人の人間を乗せてもディアはもたつくこともなく登っていく、しかし、途中で上からアーマーアンデットが降ってきた。


 出現地点が目指す目的地、廃病院の七階なので近づけば近づくほど、敵が増えていくのは当然。それでもディアは最短距離を突き進む、主であるヨシカの願いに応えるために。


 そのヨシカの願いとは、俺をヒカリの元へ連れていくこと。


 いくらレベルカンストの聖女だとしても、もう二時間近くも最高位の結界を使い続けている。大量の魔力を持っていたとしても、それは無限にあるわけではない。


「邪魔をするな!」


 ヨシカの負担を少しでも減らせ。


 俺はアーマーアンデットの影から影縄を伸ばし鞭のように振って、中庭へと叩き落した。このくらいの攻撃では倒しきれないが、進路を開けることはできる。


 最後に道を塞いでいたアーマーアンデットをディアの角が貫き、そのままの勢いで七階の残っている床へと踏み込む。


「待たせた、ご注文の水晶を届けにきたぞ」

「待ってたよ、二人とも」

「これで役者は揃ったね」

「少し遅刻だ、その分きっちり働けよ」

「サム、ヨシカ、更に新型がいる注意」


 到着すれば口々に歓迎の言葉をかけてくれる。


 ホカゲの注意通り、七階には見たこともないアーマーアンデットがいる。通常の個体より一回り大きいが、大型よりは小さい。でも、手には一目で魔剣とわかる魔力を放つ剣を装備していて、大型よりも強さは上だと理解させられる。


「サトッチ、ヨシカッチ、足場が滑るからそれも注意」


 崩壊により面積が少なくなった七階の床には、サリが放った氷の魔法により、スケート場のような床が出来上がっていた。


 俺は影縄の応用で、小さな影の糸を生み出すと、自分の影と足を結んで滑らないようにする。みんなもそれぞれの方法で滑る床には対応しており、戦いに支障はなさそうだ。


 ヒカリが新型アーマーアンデットの魔剣と打ち合う。

 剣の質ではヒカリの剣の方が上であるようだが、何体もの新型を相手にしているうちに、ヒカリの剣の限界が近づいていた。


「ヒカリ、使え」


 俺はまた新しいヒカリの剣を、ヒカリの足元に呼び出す。

 新型と対峙していて、下に手を伸ばす余裕のないヒカリは、足で剣を蹴り上げると、ぶつかり合っていた古い剣を自分から手放し相手の姿勢を崩し、空中で新しい剣を掴み新型を両断する。


「サトルくん、水晶は」

「ここにある。あの裂け目に投げ込むから援護してくれ」

「それはダメ、見てて」


 ヒカリは手放した古い剣を拾うと、巨大な次元の裂け目に投げ込んだ。すると、裂け目の中から太い腕が現れ放り込んだ剣を外に出して握りつぶす。


「もしかして裂け目の防衛機構か」

「そうみたい、あれで水晶がつぶされちゃったの」

「だったらあの太い腕を先に処理しないとな」


 七種混合ポーションでレベルがブーストされている今の状態なら使えるはずだ。


 影スキル『敵影看破』。


 すべての魔力を左目へと集中させ隠れている敵の弱点を見破るスキル。


 先の決戦では、このスキルで悪魔王の弱点を見破った。

 看破する対象とのレベル差が大きいほど、術者である俺への負担が大きくなるが、隣には聖女ヨシカが居てくれるので、負傷していく左目に随時回復魔法をかけてもらう。


「こんな戦法、あまりやってほしくないと、以前に言った記憶がありますが」

「サトルくん、その件も後でお説教だからね」


 近くのヨシカと前線のヒカリ、両方から同時に叱られた。


「もう使ったから、有効に使ってくれ」


 巨大な裂け目から延びる極太の腕は、五本にまで増えてた。これでは隙を見て投げ込むスペースもない。


 俺の敵影看破が反応する。

 あの極太の腕は、一本が本物で残りは魔法による複製だと判明。


「本物は一本だけだ、ホカゲ中心の腕を引っ張りだしてくれ」

「リョ」

「援護するぜ」


 大裂け目の下へと飛び込んだタンガが、迫る二本の腕を盾スキルで弾いて、中心の腕への道筋を作る。


 その隙を逃すことなく鎖鎌の分銅が飛ぶ、狙いは中央、他の四本の腕は妨害しようとするが、分銅はグネグネとヘビのようにうなって腕を交わすと中央の腕に巻き付いた。


「ヒット!」


 ホカゲがその場で大回転、高速で鎖を巻き取り裂け目から腕を引き抜いた。

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