第101話『覚悟』
助っ人のおかげで、レンサクやケンジの守りは大丈夫になった、のかな?
角森の強さは知っている。アーマーアンデットと一対一で戦って勝てるかどうか怪しいレベルじゃないか。
「角森氏はこれを装備するのです」
レンサクは手甲と具足を取り出し角森に渡す。
あの使われている金属の色は見覚えがある。メタルドラゴンの装甲だ。あれを使って角森の装備を作っていたのか、内包されている魔力は角森以上だぞ。
試しとばかりに近づくアーマーアンデットに突きを放つと、見事に粉砕してみせた。レンサクよあの武具にどれだけの素材を使ったんだ。
「最終決戦っぽかったので、出し惜しみしませんでした。それで牧野氏はこれを投げてください」
今度は牧野に黒いボールを渡す。
「投げる時に魔力を込めてください」
「よくわからないけど、わかった」
牧野には魔法関係を教えていないと思っていたけど、違っていた。きっと付き合いだした弓崖さん経由できいたんだな、こんな状況なのに慌てることなく平然としていることに驚かされる。
「気のせいかもしれないけど、以前にも似たような場面に遭遇した気がするんだよな」
記憶は失っても体が経験したことを覚えているのか、確かに異世界での牧野は、投擲者であったがために、城壁からの大群相手の砲兵役をよくやらされていた。
「とりあえず、第一球投げます」
空気が割れた。
そう錯覚させられるような発射音を放ちながら、黒いボールが投擲される。
ボールは進路上のアーマーアンデットをなぎ倒し、大型に命中して大爆発。
マジかよ、サリのファイヤボールシュート並の破壊力が出てないか。レンサク特製の黒ボールと投擲者は混ぜるな危険の組み合わせだ。
今はすごく助かるけど。
「……あ、あれ、俺がやったのか」
もくもくと上がる砂塵。煙で全容が見えないが間違いなくクレーターが一つ増えているだろう。
「周囲の被害は気にするな、あいつらが街に降りたら大惨事になる。お前たちは正義の味方になったとでも思い、暴れてくれ、事後処理は俺たちが何とかする」
「ボールは沢山用意しました。どんどん投げてください」
「お、おう」
自分が投げたボールにビビったか、その気持ちなんとなくわかるぞ。
「弓崖嬢は、こちらの弓と矢を使ってください。矢には牧野氏に渡したボールと似たような効果が付加されています」
「うん、わかった」
余裕で受け取りますね弓崖さん、あの威力に恐れないんですか。
「ほら牧野君シャキッとして、敵は待ってくれないんだから、どんどん攻撃するよ」
「お、おお、ミノリはあの威力について何も感じないのか」
「すごい威力が出てラッキー」
さすがはヒカリの親友、度胸がすごい、そして牧野よ、付き合い始めたとはヒカリから聞いていたが、まだ数週間でもう尻に敷かれているんだな。
「ほら、大物からどんどん狙っていくよ」
放たれた矢は大型のアーマーアンデットの頭部に刺さり爆発。
「牧野君、手が止まってるよ、見てた私の方が遠くの敵に当てられたよ」
「わかった、遠くは任せるから、俺は近くの密集部分を狙っていく」
「ちょっと張り合いない、ここは競う場面じゃないの」
「場面じゃないだろ、効率的にやろう」
「もう、テンション下げないでよ」
いつの間にかにイチャイチャが始まっていた。
でもこれならここは任せても問題なさそうだ。残る問題は、あの毒の霧をどうやって突破するかだ、ヨシカの結界に守られていけば大丈夫だろうけど、それをするとヨシカの行動をかなり制限させることになってしまう。
「ルトサは行く前にこれを飲んでください」
「なんだこれは」
レンサクに渡されたのはポーションの容器に入った七色のマダラ模様の液体、色が混ざり合うことなくウネウネと動いている。
「忘れたのですかルトサ、まだレベルが低かった頃に、かなりお世話になったじゃないですか、これは、スピード、パワー、魔力、スタミナ、タフネス、レジスト、そして獲得経験値、全てを向上させてくれる夢の薬、七種混合ポーションではないですか」
俺たちが影でワクチンポーションとかトイレの友達とか呼んでいたアレか。
思い出さなくてもよかった記憶ベストテンにランクインするほどの苦い思い出。
ポーションの効果が効いているウチは無敵になったと錯覚するほどの効き目があるが、切れた時にはとてつもない地獄を味わうことになる。
だけど、これがあれば、俺はヒカリの元へ行くことができる。
「覚悟を決めろ、行くぞ」
俺は七種混合ポーションを一気に飲み干した。
液体なのに喉を通過する時にうごめいていると感じるのは絶対に気のせいだ。
体が火照りへその下あたりから全身に力が沸き上がってくる。これで副作用が無ければ常飲していたかもしれないけど。
「言い忘れていましたが、こちらでは手に入らない材料がありましたので、代用品を使いました。なので副作用も強くでるのです」
「飲む前に言ってくれ」
「結果的に飲むことになるので変わらないのです」
それはそうだが、心の準備があるだろ。
今更言ってもしかたがないか、とにかくこれで再びあの場所に行けるようになった。
そして狙ったかのように、俺のスマホにヒカリから着信がくる。
『ごめんサトルくん、水晶が壊されちゃった。予備を届けてくれるかな』
「もちろんだ、ちょうど今、そっちに向かう準備が整った所、すぐに行くから待っていてくれ」
『うん、待ってる』
俺が戻ることをヒカリは俺自身よりも信じていてくれた。
目頭が熱くなる。たったそれだけのことが、たまらなく嬉しい。俺はまだヒカリのパートナーでいられたのだと実感できた。
「さぁ、サトルさん行きましょう」
「ああ、行こう!」
俺とヨシカはディアの背中にまたがり、アーマーアンデットがひしめく半崩壊した廃病院へと突撃した。
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