第100話『勇気』

「ヨシカ嬢はルトサの治療に専念してください、結界は僕が引き続き張ります」

「よろしくお願いします。ディア来て」


 レンサクが道具で廃病院を包み込む結界を張る。これはアーマーアンデットを外に出さないためと、周囲から戦いを悟らせないようにする認識阻害用でヨシカの聖域結界のようなアンデットに対しての特攻はない。


「動かないでください、ズボンを脱がします」


 恥ずかしいけど、もう慣れました。


 手足の痛みは足の方が強い、ちゃんと治療をするためにはズボンが邪魔なので脱がされる。異世界での冒険では、それは何度もケガをした。その度にヨシカの治療を受けている。ケガの箇所によっては恥ずかしい体勢で何度か治療を受けた経験もある。きっと俺よりもヨシカの方が俺の体のことを把握しているだろう。


 もともと両足には火傷の痕があり、見た目はよろしくなかったけど、それが紫色に変色しているから、余計にひどく見えてしまう。


 護衛をしていた白い大鹿のディアが動いた。もうここまでアーマーアンデットがやってきたんだ。


「ゆっくり治療をしている時間はありません」

「わかっている。覚悟はできているから、一思いにやってくれ」


 俺は影からタオルを取り出して口にくわえた。


 ゆっくりやれば、なんてことはない回復魔法による治療、しかし今回は急速に治す上に、呪毒の治療だ。毒素は抜けても呪いによって痛めつけられた身体組織を再生させる場合、とてつもない激痛に襲われる。


「フグーーーッ」


 くわえたタオルを強く噛みしめた。


 痛みで体が暴れそうになるのを必死にこらえる。間違ってもヨシカを蹴り飛ばすなんてできない。


 痛みにこらえ、こらえて、しばらくすると痛みが無くなっていった。


「サトルさん、どうですか」

「少しだけ痺れてるけど、このくらいなら問題ない」


 立ち上がっても痛みはない、もう大丈夫だ。

 これでまた戦いに、ヒカリの隣りに戻れればと願ってしまったけど、それはダメだ。全快しても俺の戦闘能力ではヒカリたちのいる戦場にすらたどり着けない。


 感覚の戻った手を強く握りしめてしまう。


「ごめんヨシカ、せっかく治してもらったのに役立たずで」

「怒りますよサトルさん、わたくしたちは仲間です。役に立つ、立たないで、治療をしたと思っているのですか」

「ごめん」

「サトルさんの気持ち少しはわかるつもりです。わたくしのジョブは前衛職ではありませんので、ディアを召喚できるようになるまでは、攻撃手段を一つも持っていませんでした」


 最高の後衛と呼ばれたヨシカも前衛に出れないことを後ろめたく思っていた。そういえば昔に、そんな相談をされたことがあったな。


 聖女に攻撃スキルは少ない、それを補うために習得したのが召喚術だった。


「サトルさん、ヒカリさんの元へ行きたいのでしょ」

「だけど、俺にはヒカリの元へ辿りつけるだけの力はない」

「力は関係ありません、行きたいかどうかを聞いています」


 力なんて関係ない。このセリフは以前に俺がヨシカに言った言葉。

 他にも力の強弱で仲間を決めるようなヤツにはなりたくもないと、ヨシカを励ましたっけ。


 俺はレベルが下がって心まで弱くなっていたのか、ヨシカと会話していたのにいつの間にか、視線は下を向いていた。心はレベルと関係ないはず。


 ただカッコ悪い姿を見せたくないと、身の丈にあわないプライドが強くなっていたんだ。元々俺のジョブは影法師、聖騎士や聖女に比べれば、ハズレジョブ。そんなヤツがレベルが下ったのに、プライドだけはカンストした時のままなんて笑える。


 初心を思い出せ、這いつくばってでもヒカリたちの仲間でいたいと願ったのは俺自身だろ。


 力なんて関係ない。

 素直な気持ちを伝えれば、仲間はいつも答えてくれた。


 俺も仲間の願いには全力で協力していた。

 素直な気持ちを口にする勇気が一番大事だった。


「行きたい、ヒカリの元へ、俺がヒカリのパートナーだ」

「しかたがないですね。恋敵を応援するのは複雑ですが、仲間ですし、わたくしはサトルさんの前では、いい女で居続けたいので協力しましょう」

「ありがとうヨシカ」

「まったく、ウジウジと長考していたな、答えは一つなのだから即答をしろ、この馬鹿者が」

「ケンジ、来てたのか」

「たった今だ、時間は有限だぞサトル。すぐにヨシカと一緒にヒカリたちの元へ迎え」

「ヨシカもか、それだと、レンサクとケンジの守りが居なくなるぞ」

「なんのために遅れてきたと思っている。助っ人を連れてきた」

「何かあれば協力するとは以前言ったけど、まさか本当にここまで怪異な展開に呼ばれるなんて予想外すぎます」


 気が付かなかった。ケンジの影には三人の人がいた。その内の一人は格闘家の角森だ。


「まさか本当に、こんなファンタジーな、それもクライマックス直前のような事態が起こっているなんて」

「ヒカリから話は聞いていたけど驚きだね」


 残りの二人は、投擲者の牧野と弓使いの弓崖さん。


「この三人には貸しがあったからな、今回協力してもらうことにした。私とレンサクの護衛くらいはできるだろう」


 その協力してもらうのに、上からの物言いはどうなんだ。

 ともかくこれで防衛力ができたことになる。


 ケンジが遅かったのは、この三人に協力を要請していたからか。

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