第98話『爆発』
「ナイフをお願い」
「ご注文はこれですか」
俺が手榴弾を投げて、ヒカリの中にあった最後のブレーキが外れた。
ヒカリの要求するナイフとは投げナイフの事である。ヒカリの聖騎士の上位スキルは大抵の剣では一度使用すれば使い物にならなくなり、特注の剣でも数回しか持たない。だったら発送の転換で、使い捨ての投げナイフを使えばいいじゃないとなった。
もちろんレンサク制作の特注の剣よりも威力が落ちるが、使い捨てなら制作コストが抑えられるのでそれなりの数が用意できていた。それでも普通の投げナイフでは耐えられないので特注の投げナイフだが、製作費も剣よりは安くすむが、それでもそれなりの費用ではある。
これまで使ってこなかったのは、最後まで手に握っている剣と違い、投げナイフは放ったら微調整、スキルの威力コントロールができないから。
「大本を攻撃するね」
「頼む」
剣を横なぎに、周囲の敵との距離を開けると、病院の七階目掛け投げナイフを投擲した。
それはまるでビームのよう。
放たれた投げナイフは閃光となって廃病院の五階から上を削り取る。しかし肝心の七階にある巨大な次元の裂け目の前にいるザンザガリオスによって弾かれてしまった。まあこれは予想済み、あの巨大裂け目を消したらトラップが発動してしまう可能性が高いのでまだ壊せない。
ヒカリは防がれると承知して放っている。
この攻撃の狙いは、巨大な裂け目の破壊ではなくザンザガリオスのいる位置を特定するために放たれた物。
「見つけた」
ザンザガリオスの位置を正確に見つけたヒカリが、先ほどよりも光を増した投げナイフを投擲する。それも三連発。
これにはさすがのザンザガリオスも防げないだろ、残った半分のロングソードを粉砕、さらに片腕と片足まで吹き飛ばした。ついでに廃病院の七階は三分の一が消滅している。
「これでラスト」
もう一本の投げナイフを投擲。
防ぐ手段を失ったザンザガリオスの胴体は消滅、首だけとなり中庭へ落下してくる。
これで増殖が止まってくれればいいんだけど。
「無駄ダ、物量ハ、最強、出シ続ケル限リ、負ケハ無イ」
俺の希望は打ち砕かれた。
「勇者ガ死ヌマデ、止マラナイ」
ザンザガリオスの目の光が消え、アンデットとしても終焉を迎えたようだが、宣言した通り、裂け目からの増殖が止まらない。
残ったザンザガリオスの首は近くにいたアーマーアンデットが持ち上げ吸収する。すると首を取りこんだアーマーアンデットの背中が風船のように膨らみだした。わずかな間に直径二メートルを超える大きさへと成長する。
「ごめん!!」
俺が風船を見てまずいと思った時には、ヒカリに抱えられその場を離脱しようとしていた。しかし、アーマーアンデットがヒカリの進路を塞いでくる。
「邪魔しないで!!」
進路上の敵を斬り飛ばす。でもすぐに塞がれる。それをさらに斬り飛ばす。
ダメだ。
アーマーアンデットの大群が地面も見えないほどひしめき合っている。まるで年末のビックなサイトのイベント並の密集率だ。ヒカリのすさまじい攻撃でも、すぐに塞がれる。
「サトルくんはやらせない!!」
ヒカリの悲鳴に似た叫び、風船は五メートルを超えた。ヒカリが俺の頭を抱えて地面に倒れ込んだ瞬間。
風船が爆発した。
その爆風でアーマーアンデットまでも吹き飛ばし、爆風は俺とヒカリも襲う。
「光の魔力障壁」
ヒカリが使える最大の障壁魔法。
衝撃は防いでくれたけど、あの爆発がまき散らしたのは衝撃だけではなかった。辺りに漂う紫の煙、光の魔力障壁は衝撃波を防いで消えてなくなった。周囲のアーマーアンデットは吹き飛んだけど、まだまだ裂け目からアーマーアンデットは溢れ出てくる。素早く立ち上がって迎撃態勢を取ろうとして、紫の煙を吸ってしまった瞬間、腕が痺れ黒刀がすっぽりと抜け落ちる。
「あれ」
足の感覚もおかしい。
力を入れたいのに、膝が曲がりしりもちをついた。
毒だったのか、防具にはレンサクが状態異常対策を施しているはずなのに、それを簡単に突破するほどの強力な毒なのか、この装備じゃなかったら即死級の猛毒じゃないか、きっとザンザガリオスの怨念と混ぜ合わした呪毒ってやつだ。
「ひ、か……」
ダメだ喉もマヒしてきた。
ヒカリの名前を呼ぶこともできない。
喉もマヒしたってことは、心肺機能もマヒするのは時間の問題だ。
「そこを退けー!!」
ヒカリの咆哮。
レベルカンストのヒカリは毒のレジストに成功したようだ。よかった。
俺を再び抱きかかえると、ヨシカがいると思われる方角へ突撃する。
自身を一本の槍として真っ直ぐに止まることなく、途中、何度もヒカリの体にアーマーアンデットの攻撃が当たる。無傷だった白銀の鎧に傷が付き、キレイな顔にもキズを付けてしまった。
俺のせいで。
俺が毒のレジストをできていれば、ヒカリがこんなに必死になることはなかった。
ちくしょう。目まで霞んできやがった。
ヒカリに抱えられている体も何も感じなくなった。
それでも、ヒカリの役に立ちたい、足手まといなのは十分承知、しかし嘆いても体は動かないし状況も好転しない。それでも俺にはまだできることはある。
俺は影法師、体が動かなくても影を動かすことはできる。
目が見えなくなってきたので、狙いは付けられないが、ヒカリはまっすぐに進んでいる。だったら正面の敵は殲滅されるはず。斜め前方からの攻撃がヒカリを傷つけているに違いない。だったら、どれだけの効果があるか分からないけど、俺は魔力の続く限り、斜め前方に影針を撃ちまくった。これが少しでもヒカリの役に立つことを願って。
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