第96話『物量』
「ダハハ、僕の時代が到来なのです。くたばれアンデットども」
聖域結界が展開され、敵が弱体化した途端にレンサクが元気になった。これまで飾りだと豪語していた魔導式アサルトライフルを構えて連射。
これが驚くほど効果抜群で、鎧を貫通して数発でアーマーアンデットを倒す。
「すげぇな、おい、もうそのライフルは残ってないのか」
「ありますとも、ルトサの影の中に十丁ほど」
「使えねー」
「とても、使えるのです。あ、このことをルトサに連絡すれば戦力アップなのです」
レンサクはアサルトライフルをタンガに投げ渡すと、素早くサトルへメッセージを送った。
レンサクからメッセージを受け取った。
緊急を告げるアラームだったので、確認してみたら、アサルトライフルが有効との事だったので、影から二丁取り出して、両手打ち。本物のライフルならこんな使い方、素人の俺にはできない芸当だが、これはあくまでもおもちゃの延長線上。軽くて扱いやすい、射程は短いけどそこら中、敵だらけだから撃てば当たる。
ヒカリは剣一本の方が強いので必要ないけど、俺はとんでもなく戦力アップした。
正面はヒカリに任せて、左右の敵を一掃する。
「これでなんとか取り囲まれることは防げた」
「でも、まだまだ湧いてくるみたい」
「どうする、もう被害を無視して、廃病院ごと吹き飛ばすか」
騒ぎになるが、ここまでの物量をぶつけられてしまうと、作戦『被害を最小限に』から『自分の命を大事に』に切り替えるタイミングが必要だ。
二丁の弾が切れたので、弾倉ではなく影隠しの中にあるライフル本体と交換した。こっちの方が弾倉を交換するよりもワン動作でできるので早い。
「天井を吹き飛ばせば戦いやすくなるけど、それは最終手段にしたいね」
「わかってるけど、そうなると、取れる手段は二つ、敵のボスを速攻で潰すか、一旦引いてみんなとの合流を優先するか」
ボスを速攻で倒す。この湧き出てくるアーマーアンデットが、ボス剣将ザンザガリオスがおこなっている術のせいなら倒せば止まる可能性がある。ただ、自動発動の術式だった場合は倒しても止まらない。
一旦引いてみんなと合流。戦力が整って戦いは楽になるけど、それは長期戦が確定になってしまう。ザンザガリオスがどのくらいの兵力を用意したかはわからない。勇者の物量に負けたことを根に持っているようなので、最低でも四万以上は用意してそうだ。
「無限に湧き続けるって、ことはないよな」
「もしも、鎧の生産自体を魔力でやっていたら、魔力がある限り無限の可能性はあるかも」
俺の希望をヒカリが否定する。
「だよな、物量にそうとう思い入れがあるようだし」
「サトルくん、気が付いている。兵隊をたくさん呼び出してからザンザガリオスが動いていないこと、剣を刺した状態で固まっている」
「もしかして、術式を発動させっぱなしなのか、あの体制を取っていないとアーマーアンデットの召喚が止まったりして」
「そこまでは分からないけど、次元の裂け目とは繋がっているみたいだから、裂け目を増やすことは止められると思う」
さっき踏みとどまったばかりだけど、ザンザガリオスの雰囲気を見て、気持ちが変わった。作戦を切り替えなければならないと直感した。もう腹を決めるしかない。
「ヒカリ、大技を解禁しよう。追い詰められてピンチになったらどうせ使うんだ。だったら、余裕があるうちに使って、有利な状況を作ろう」
「私も賛成、とりあえず一気に薙ぎ払うから、サトルくん伏せて」
「仰せのままに」
俺は地面に敷物のように張り付いた。
直後真横に振るわれるヒカリの剣、刀身は伸び、三百六十度全てに斬撃が飛んだ。
腰から上の高さにあった、アーマーアンデットの上半身が、次元の裂け目が、廃病院の壁が天井が、全て光となって消し飛んだ。
唯一、剣将ザンザガリオスだけが、剣を盾にヒカリの刃から身を守っていた。
だが完全に防がれたわけではない、術式は完全に破壊してロングソードも見事に切断している。半分砕いたヘルムの隙間からは、角のある骸骨がヒカリを睨んでいた。
「オノレ、勇者ノ、従者、風情ガ、ダガ、用意シタ物量ハ、マダマダ、アル」
「ヒカリが勇者の従者だってふざけたこと抜かすな!」
俺のクレームには一切反応せず。ザンザガリオスは半分になったロングソードを自身の胸に突き刺した。
「我ガ身ヲ、核ニ、発動セヨ」
「ヒカリ、頼む!」
「ええッ!!」
ザンザガリオスの頭上にこれまでと比べ物にならないほど大きな次元の裂け目が出現した、あの大きさなら大型バスだって通過できそうな幅がある。
あれはダメだ。もう直感などに頼らなくても見ただけでヤバさが理解させられる。
ヒカリは、即座に巨大裂け目を消そうと聖騎士の剣技スキルを叩き込んだのだが、あふれ出るアーマーアンデットの数にスキルの威力が削られ、巨大裂け目を消し去ることはできなかった。
アーマーアンデットの数は優に百は超えている。いや五百も超えたか、とにかくどんどんと増え、まるで津波のように俺たちを押し流した。
「サトルくん!!」
ヒカリが守ってくれなければ、そしてヨシカの聖域結界で弱体化をしていなければ、俺はこの津波から生きて脱出することはできなかったであろう。
とにかく俺はヒカリに抱きかかえられ守られながら、廃病院の七階から押し流されてしまった。
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