第95話『聖域』
「勇者、殺ス、殺ス手段、オ前ト同ジ」
ザンザガリオスが剣を床に突き刺した。
すると、世界に亀裂が走る。
「まさか」
ガラスが割れるように、空間が割れた。
「時間停止が解除された」
「物量、剣技ヨリ、物量ガ強イ、勇者、殺ス」
「おいおい、剣将ザンザガリオスって剣の腕一本で四天王に上り詰めたって聞いたことがあったぞ、それが」
ケンジの止めて時間停止を無理やり解除しやがった。
時間停止の対処方法を知っているって、ことはやぱり間違いない、信じたくはなかったが悪魔族最大幹部の一人、剣将ザンザガリオス。
勇者への恨みでアンデットとして復活したのか。
首は王都に趣味悪く飾られていたはず。アンデットになる兆しを察知して、こっちの世界に捨てやがったな。
そこら中に次元の裂け目が現れ、今回は最初から紫の鎧を装備したアンデットの大群が湧き出してきた。
「マジですか」
数がハンパじゃない、このままだと本当に物量で押し切られてしまうかもって、しり込みしていると、廃病院全体が聖なる結界によって包み込まれた。
「これはヨシカの」
「聖域結界だね、アンデットに特攻効果がある」
これはヨシカが張れる結界でも最大級の代物だ。それも病院の敷地全てを覆っている。
現場に駆け付けるだけが援護じゃない。
「ヨシカありがとう」
「どうもヨシカには借りが増えていくばかりで、今度まとまったお礼を考えないとね」
「ああ、ここを無事に切り抜けたら考えよう」
湧き続けるアーマーアンデット。
しかし、ヨシカの結界のおかげで、俺でも一撃で倒せるレベルまで弱体化していた。
時間は少しさかのぼる。
サトルとヒカリが次元の裂け目に飲み込まれた直後の見張りポイント。
「見つけました、二人は廃病院の七階にいます」
「よかった次元を越えたわけではないのですね」
レンサクの魔導で動くスマホが、裂け目に飲み込まれた二人のスマホの位置を特定して仲間を安堵させる。
「俺は最初っから、心配なんてしてなかったぜ、ヒカリが一緒なんだからサトルは死ぬわけがない」
「うそー! 一番心配そうな顔をしてたのタンガッチじゃん」
「でたらめ言うな、俺は誰よりも兄弟を信じてるって」
「すぐに救援に行く」
「そうしたいのは山々なのですが、お客さんがきたようなのです」
見張りポイントに無数の次元の裂け目が出現した。それも鎧を装備した状態の魔物が。
「亡者の気配を感じます。アンデットですね」
聖女であるヨシカが敵の正体をいち早く察知する。
「ここだけではないのです。廃病院を中心に数えきれないほどの次元の裂け目が出現ッゲ!」
スマホの画面に夢中になっていたレンサクの襟首をタンガが掴み強引に自分の後ろへと移動させる。
「何をするのですか?」
「無数の裂け目ってこれだろ」
レンサクがスマホに集中するまでは見える範囲に数個しかなかったのに、たった十秒ほどで、そこら中に裂け目が出現していた。
レンサクのいた位置の数十センチ先にも出現している。
「ヨシカ、出ているのは殆どアンデット、確定」
ホカゲが鎧を一つ二つ斬りして、確認をする。
「これから最大の聖域を展開させます。みなさん、援護をお願いします」
「おう、防御は俺に任せておけ」
「せん滅はあたしがやるね」
「ヨシカとレンサクの護衛は私がする。ついでに遊撃も」
「僕はここから邪魔をしないように、応援しているのです。ファイトー!!」
サトルとヒカリ、二人の元へ駆け付けたいが、ここは日本で、周囲には人がいないが、徒歩でも一時間進めば人の住む家がある。
裂け目は廃病院を中心に直径五百メートル内にしか出現していない。ヨシカの結界が完成するまでは、我慢をする時間だと、みなが焦る気持ちを抑え込み、自分にできる行動を開始する。
「ファイヤーボール(小)シュート、乱れ蹴り!」
サリが威力を弱めたファイヤーボール(ハンドボールサイズ)を大量に生み出し、まとめて蹴る。人がめったに来ない場所と言ってもここは時間停止の外、普通のファイヤーボールサイズを使って地面にクレーターを作るわけにはいかない。丁寧に狙いを定められない乱戦で周囲に被害も出せない、小粒を大量にがもっとも効果的。
「想像以上に面倒だ」
「泣き言吐いてんじゃねぇ、ヨシカの聖域が完成するまで押しとどめる」
タンガが盾を使ってアーマーアンデットを数体まとめて殴り飛ばし、折り重なった所にホカゲの大鎌がまとめて斬り裂いた。
「うまい攻撃なのですホカゲ、でもまだまだ敵がくるのです。タンガ休まずガードしてください!」
「うるせェぞレンサク、お前も口だけじゃなくて戦え、その肩のライフルは飾りか」
「その通り、飾りなのです」
レンサクは堂々と肩から掛けられているアサルトライフルを飾りだと言い切った。
「ナヌ?」
「忘れているかもしれませんが、これは電動式ガンを魔導式に変えた物なのです。鎧の中身、アンデットにあたれば効果は少しは見込めますが、今の魔力で強化された鎧には無力なのです」
レンサクの自信作である魔導式アサルトライフルは分類では道具である。スキルとは違うので込める魔力によって威力が変わることはない。誰が使っても同じ威力を発揮できるのは長所であるが、威力を強くすることができないので、固くて弾が通用しない相手にはまったくの無力になってしまうのが短所である。
「だー使えないな!」
会話をしている間もタンガは動きを止めずに盾でアーマーアンデットを殴り飛ばしていた。
「ヨシカッチ、まだ聖域は作れないの」
ヨシカに襲い掛かろうとしたアーマーアンデットをサリが風を纏わせた蹴りで粉砕、続けてきた二陣は、コマのように回転した回し蹴りで三体同時に消滅させる。
仲間を信じたヨシカは両目を瞑り、聖域結界の準備に全神経を集中させていた。
サリもタンガもホカゲも、ヨシカの信頼に応え指一本触れさせることなく守り通した。
「お待たせしました。最大範囲で全力の聖域結界を使います」
ヨシカの足元から広がった聖域結界は見事に廃病院を含め次元の裂け目が出現しているエリア全体を覆い隠した。
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