第91話『後1日、花火、警報』
バーベキューでお腹が膨れ、食休み。
ヨシカとヒカリが手作りした特製コーラが滅茶苦茶美味しくて癒された。甘くて飲みやすくて、のどごし爽やか。
広大な中庭にビーチチェアーを並べてまったりと夕日を眺める。
あの夕日が完全に沈んだら花火を始めようと話して、それまではみんなでまったりモード。
英気は養った。
体調は万全に整っている。
必要な道具もケンジとレンサクを中心に完成させている。
それなのに、どうして嫌な予感がするのだろうか。
念のために廃病院には認識阻害の結界を張ったうえで、何か起こった時に知らせる魔法による警報も仕掛けている。
「みなの衆、準備が整ったのです」
考え事をしていたら、日が完全に沈んでいた。
キャンプ用ライターを持ったレンサクが自信満々に胸をはる。
「ごらんください、僕が即席でこさえた時間差自動点火装置なのです」
「あぶないので良い子はマネしないでくださいってやつだ」
用意された仕掛けを見てサリがツッコむ、レンサクはどこからか、多分ヨシカの家だろうけど、廃材を横長に組み合わせて、その上に設置型の花火を並べている。
「公園や河川敷では完全にNGですが、ここは私有地なので問題ありません」
「ヨシカに迷惑だろ」
「結界で守りますので大丈夫ですよ」
ヨシカが片手を上げるだけで中庭が結界に包まれる。ヨシカにしてはそれほど強い結界ではないが、下位の火魔法くらいは弾く強度はある。花火の炎なら百個集めても壊れない。
いつもなら、遊びでスキルを使わないヨシカが簡単に大掛かりな結界を使ったな。
「今夜だけだから見逃してください。これが最初で最後の仕掛け花火、次にやる時はルールを守って遊ぶのです」
レンサクが花火に点火する。
端から順番に点火され時間差をつけて作動していく花火。
赤、緑、黄色と火の色を変えて中庭を彩る。
三色の火は炎となって立ち昇る。
「あれ、市販の花火ってこんなに火力は強くないよな」
俺の疑問はすぐに解消された。炎から魔力を感じたのだ。レンサクが花火に細工をしたのか。
三色の炎は空中で交差して魔法陣を作っていく。
「これって、悪魔王との決戦の前にもやった」
「そうです。気休めですが、運気を上げる魔法陣です。ゲーム風に例えるなら、回避率ゼロパーセントの攻撃を十パーセントくらい避けられるようになるのです」
俺の心配は、どうやらみんなに漏れていたようだ。
いつもなら止める常識人のヒカリやヨシカが止めなかったのもそれが理由だろう。
たかが十パーセント、されど十パーセント。
ギリギリの死闘を経験した今だからわかる。わずか一パーセントの差が生死を分ける。今夜の戦いは事後処理のようなモノのはず。敵もいないかもしれないのに、何故か強敵が出現すると勘が訴えてくる。
それでも悪魔王以上の敵ではない。
この八人なら負けるはずがない、でも懸念が二つある。
一つ目は俺のレベルが低くなってしまったこと、だけど俺以外は万全で、最終決戦前に足を引っ張ってくれた貴族連中がいない分、トータルで今回の方が充実しているかもしれない。
二つ目の懸念は、異世界と違ってこっちでは大技や大魔法が使いづらい。使用することはできるが、山一つ吹き飛ばす技は、使えても使えない。いくら認識阻害があっても山が消えれば間違いなく騒ぎになるし、巻き込まれる人も出てしまう。
ダメだ、せっかくみんなが気を使ってくれているのに、考えがどんどんネガティブになっていく。
「はい、これサトルくんの分だよ」
ヒカリが手持ち花火を渡してくれた。
「サトルくんの心配は良くわかっているつもりだけど、考えすぎても結果は変わらないよ、それどころか不調になっちゃうかも、もう準備は整っているんだから、あとは精神をピークにもっていくように、はい」
渡された手持ちに花火にライターでは魔法で火をつけるヒカリ、続けて自分の花火にも火をつける。
「これには魔法の効果はないんだな」
「効果があったのはレンサクくんのだけ、市販の花火に仕掛けられて効果がある魔法陣なんて、あれくらいだからね」
レベルが下がってしまったため、俺の護衛としてずっと隣りにいてくれたヒカリ。
少しでもレベルを上げようと朝と放課後、部室ダンジョンを使おうとしたが、自分たちが作ったダンジョンでは効率が悪いようで、経験値がほとんど入らず。疲れるだけだった。
体をいじめるだけだと、ケンジに感覚を取り戻す程度にしろと、そうそうに止められている。
「焦ることはないよ」
「ヒカリ」
「サトルくんは明日からも普通にこっちの世界で生活していくんだから、でも、もし、別の世界に飛ばされても、私は必ずサトルくんの隣りにいるからね」
「ありがとう」
以前にも聞かせてくれたヒカリの気持ち。
ここで答えるのが男ってもんだろっと思ってみたけど、ヨシカ、サリ、ホカゲの視線が熱を持って送られてきていて。
タンガ、レンサク、ケンジの三人は、ニヤニヤした表情でこっちを見ている。
こんな状況じゃ何も言えないじゃないか。
タンガが声に出さない口パクで『ヘ・タ・レ』と動かした。
うるさいわ。
決戦前に告白なんてデッドフラグじゃねぇか、俺は絶対に生還するから絶好のチャンスを待つことにしてるんです。
俺の不安は、いつのまにか仲間たちによって、いつも通りに吹き飛ばされてしまった。
手持ち花火が消える。
「もう一個やる」
「もちろん」
新しい手持ち花火を受け取った瞬間。
頭の中に警報が鳴り響いた。
「廃病院に仕掛けていた認識阻害の結界が解除されただと!?」
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