第86話『後2日、木曜、ゲーセン』

 昨日はボードゲームカフェで遊んだ後、家に帰ってからファンサムで遊びゲーム三昧な日だった。


 それでもって、今日はヨシカの希望であるゲームセンターにやってきた。以前にレンサクとやってきた学園の帰り道にある三階建てのゲームセンター。


 同じゲームとうたっているが、ボードゲームカフェの落ち着いた雰囲気は一切ない電子の世界。多くの光る画面と流れる様々にBGM。


「今日は部活動できたのだ、よって軍資金を配布する一人三万もあればたりるか」

「ちょっと待った!!」


 思わず止めてしまった。


 部活でやりたいことリストを作って、やってきたので部活動であることは納得、軍資金を出すのも使い道のない報奨金が残っているからギリギリ納得するけど、一人三万はありえない。


「どうした、少なすぎたか」

「逆だよ逆、多すぎる一人三千円にしてください」

「うむ、サトルがそこまで言うのならしかたがない、一人三千円を最初に渡しておくが、足りなくなったら言ってくれ、一人三十万までを上限とする」


 さらりと金額を一桁上げるなよ。


 軍資金を手にしたみんなは、流石にゲームセンターの中で八人固まっては動けないと、二階に四人対戦のレースゲームがあるのでレンサクの挑発に乗ったタンガが勝負するため二階へ、サリも面白そうだと付いていき、メンバーが一人たりないとケンジもやや強引に連れていかれた。


 ホカゲもいつの間にか姿を消している。一階に残ったのは俺とヒカリとヨシカだけ。


「あ、あの、サトルさん、あのぬいぐるみは、あのアームで取ればいただけるのですか」

「そうだよ、欲しいモノでもあった」

「はい、あちらの鹿のぬいぐるみなのですが」


 ヨシカが欲しいと言ったぬいぐるみのあるクレーンゲームの中には白色の鹿のぬいぐるみと黒色の馬のぬいぐるみが入っているモノだった。


 タイトルは忘れたけど、アニメ化した漫画に登場したキャラクターだ。


「挑戦してみようか」


 クレーンゲームはお金がかかるので、それほど経験はないが未経験ではない、軍資金もある。一個くらいは取れるだろう。


「サトルくん、私も黒い馬のぬいぐるみが欲しいんだけど、お願いできる」

「二個に挑戦か、やってみるしかないな」


 もし取れなくても俺には最終手段がある。できればカッコ悪くて使いたくないから、軍資金がなくなる前にゲットしたい。


 俺はケンジに渡された三千円を全て五百円玉に両替すると、ズボンで軽く手の汗をぬぐってお金を投入した。このゲーセンの設定は百円で一回、五百円で六回の設定。

 まずは、取り出し穴の近くにある白い鹿のぬいぐるみからだ。


「サトルさん頑張ってください」

「サトルくんファイト」


 二人の美少女の応援を受けて、やや鼻息があらくなってしまう。気合も入る。しかし、このゲームは気合が上がってもあまり関係がなかった。


 アームは何度もぬいぐるみにかかるのだが、持ち上げる前に外れてしまい、元の場所へと戻る。まだまだもう一回だ。


 挑戦すること二十四回、成果はゼロ。


「ごめん」

「気にしないでください、サトルさん」

「そうだよ、誰にでも苦手なことはあるよ」

「影縄が使えれば簡単なのに」

「それは、反則だよサトルくん」


 しかたがない、こうなったら裏技を使うしかない。


「おいおい、ずいぶんと情けないヤローだな、こんな簡単なクレーンでミスりまくった挙句に、女子に慰められるなんて」


 プレイしている途中から視線は感じていたけど、こいつらのか。

 俺がクレーンゲームをあきらめたタイミングで話かけてきた三人のヤンキー。着崩した服装、長く染められた髪に、中心の男は耳と鼻にピアスを付けていて、いかにもワルをやっていますと主張するファッション。


「彼女たち、こんなダサい男なんか、放っておいてオレたちと遊ぼうぜ、キミたちが欲しがっている景品をオレたちがプレゼントしてやるからさ」

「結構です」

「遠慮させていただきます」

「私達はサトルくんからもらうぬいぐるみ以外に興味はないから」

「つれないな、でもそいつの腕じゃ一生景品は取れないぜ」

「どうかな、獲得だけならそんなに難しくないと思うけど」


 記憶を無くしている間だったら、ビビりまくっていたんだろうけど、異世界の記憶があると、ゲームセンターに出没するヤンキー程度には、まったく恐怖を感じなくなった。


「言ってくれるじゃないか、だったら見ていろ、俺がワンコインでお前より先に獲得してやるぜ、そうしたらそこの二人は、俺たちに付き合ってもらうからな」


 ヒカリとヨシカはキッパリと断ったはずだけど、人の話を聞いていない。

 三人組の男たち、一人がプレイしている間、ヒカリたちを逃がさないために左右に陣取って通り道を塞ぐ。しかし甘いな、そんないい加減な封鎖では俺を止められないぞ。


 ちょっと席を外すと、ヒカリとヨシカに視線で合図。

 すすっと気配を消して、通り道を塞いでいる男の横をすり抜けると店長を探した。この店は中学のころから来ていたので店長とも顔見知り。


 店長はすぐに見つかったので事情を説明してお願いごとをすると、俺はヒカリとヨシカの間に戻ってくる。


「はいこれ」

「ありがとう」

「ありがとうございます」


 俺が二人に手渡した物を見て、通り道を塞いでいたヤンキー二人が驚愕、一人クレーンゲームに熱中しているピアスヤンキーだけが気が付かない。


「よっしゃ、どうだ」


 そんなさなか、ピアスヤンキーが離れ業をきめる。二個同時ゲットをやってみせた。

 取り出し口に転がり出る。二色のぬいぐるみ。

 みためは完璧にヤンキーなのにクレーンゲームをけっこうやりこんでいるな、実は隠れゲーマーか、プレイ配信者だろ。


「どうだ見たか、そこの二人、今夜は俺たちにつきやってもらうぜ」

「勝手に決めるなよ」


 この程度でヒカリたちが付き合うわけないだろ。ぬいぐるみ一つで付き合えるなら、毎日学園に男子が大量のぬいぐるみを持ち込んでいる。


「負け惜しみなんて、ダサすぎるヤローだぜって、なんだと⁉」


 驚いたか、すでにヒカリとヨシカの腕の中には欲しいと言っていた白い鹿と黒い馬のぬいぐるみが抱えられていたのだから。

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