第85話『後3日、楽しんだ』

 どうすればいい、相談はできない。今この時は俺一人で決断しなければならない。

 悩みたいがその時間もないようだ。


「それでは、せーので親指を立ててください。インサイダーじゃないと思ったら上に向けてセーフ、インサイダーだと思ったら下に向けてアウトをしめしてください」


 決断しろ。


「せーの」


 俺は親指を――。


「全員上向きですので満場一致でヒカリ嬢はインサイダーではないと判断されました。ヒカリ嬢、配役カードをオープンしてください」

「私はインサイダーじゃないよ」


 めくられた配役カードには庶民と書かれていた。

 ヒカリがこちらを見て微笑んでくる。その微笑みは無実が証明されて嬉しいのか、それともすでに俺のことを見抜いたって意味なのかわからない。


「それでは、誰がインサイダーなのかを推理しましょう」


 回答者がインサイダーではなかったので、これから隠れ潜むインサイダーを見つけなければならないのだが、俺がそのインサイダーなんだよな、どう隠しきればいい。

 ヒカリさん、ヨシカさん、そしてケンジくん。何故こちらに視線を送ってくるのでしょうか、その、わかりやすいですねって顔をやめてください。


 三人の視線だけで、レンサクとホカゲまで俺を疑いだしたぞ。


「もう、推理いらないんじゃない」

「そうだな、最後の投票を始めようぜ」

「いいのですか、これを外せばインサイダーの勝ちになってしまいますが、まあいいでしょう」


 だから、何がいいでしょう。なのですか、サリとタンガまで推理を放棄したぞ。


「それではみなさん、インサイダーだと思う人を一斉に示してください。いきますよ、せーの」


 ちょっと待ってくれ、俺は誰に投票するかも決めてないのに――。

 俺以外が全員、俺を指し示した。


「どうして俺だとわかった」

「サトルくん、配役を決めたときから様子が少しだけ変わったから」


 ヒカリさんにはその段階で見破られていたのか、投票の時の俺の葛藤はまったく意味が無いモノだったのか。


「施設って質問をした時、とても嬉しそうだった」

「わたくしもそれで気が付きましたね。サトルさんの喜びがオーバーだったので」

「ヒカリ嬢が答えを当てた時には全員が疑っていたのです」


 マジか、俺はそんなにわかりやすいのか、異世界の時に貴族との交渉では表情を読まれないように頑張ってポーカーフェイスを練習していたけど、遊びだったので表情がだいぶ表の出てしまっていたようだ。


「なかなかに面白いゲームだな、サトルが少し弱かったが、別の者がインサイダーになればもっと楽しめるだろう」

「もう一回やりますか」

「いいだろう。今度は私も質問をしたいからな」


 ケンジがもう一度やろうといいだした。反対はしない望むところだ、今度こそ俺の完璧なポーカーフェイスを見せてやる。

 もっとも二回連続でインサイダーになるとは思えないけど。


「次はマスターもシャッフルで決めるのです。八枚の配役カードをよく混ぜて、みなさんもう一度引いてください」


 確率は八分の一なのに、またインサイダーを引いてしまった。


「……サトルくん」


 あ、もしかしてヒカリさん、悟ってしまいましたか。

 二回連続で引いてしまったショックが顔に出てしまった。


「ごめん、次こそはちゃんとやるから、もう一度だけ配役を決め直してもらえませんか」

「サトル、お前は一度マスターをやれ、そうすればその引き運の悪さの流れが変わるかもしれん」

「そうしてもらうと助かります」


 理由はわからない、だけど引き直しても、またインサイダーを引いてしまうのではと得体の知れない確信だけはあったので、謹んでマスターをやらせていただきます。


 この後三回ほど同じゲームをやったが、この記憶は永遠に封印することにした。






 最初のゲームを楽しんだ後、別のゲームをすることにした。


「どんなゲームにしましょう」

「できれば推理系はひとまず、間を開けて欲しいかも」

「そうですね、ルトサが読み易くて可哀想になってきたので、ジャンルは変えましょう」

「二つに分ける? 四人用ならできるゲームが増える」

「それもいいかもしれませんね」

「ホカゲとレンサクに任せます」


 ゲーム選びを任せて俺は少し精神を回復する時間にあてる。

 グーとパーのジャンケンで二つのグループに分かれた。

 俺の方のグループは、俺、ヒカリ、ホカゲ、タンガの四人となる。


「これをやってみたい」


 ホカゲが持ってきたのは、大き目の赤い箱、カタンとか、開拓者たちとか書かれている。


「アプリでは何度もやったことがある。面白かった」

「どんなゲームか説明してくれる」

「開拓者になって島を開拓していくゲーム、開拓を進めるとポイントが貰える。そのポイントを最初に十ポイント貯めた人の勝ち」


 インサイダーでだいぶ硬さが抜けてきたホカゲが、珍しく長いセリフを口にする。


「このゲームは二つのサイコロを振って、出た目によって五種類ある資源のどれかが発生する。その資源を使って村を作ったり、道を作ったりする」


 ホカゲは説明しながらよどみなくボードを設置していく。


「リアル版だとこうやってボードを並べていくのか、わくわくしてきた。最初は一人、二つの村が置けるの、村の置いた場所によって取れる資源がかわるんだけど、このゲームの面白いところは交渉、各プレイヤーが好きな条件を出して、他のプレイヤーと資源を交換することができるの」


 ここまでの長いセリフを聞くのは初めてかもしれない。そうとう楽しみにしていたんだな。


 レンサクに頼ることなく、インサイダーよりも複雑なルールを全て一人で説明しきったホカゲ。だいたいのやり方は把握したのでゲームをスタートしたんだけど。


「ホカゲさん、材木が欲しいのですが」

「石材二つとなら材木一つと交換する」

「せめて一々交換で」

「それなら、あきらめて」


 一回目はルールを理解するために優しくプレイしてくれたホカゲだけど。


「俺の勝ちだな、なんだこのゲーム楽勝じゃないか」


 ホカゲが手加減していたのでタンガが勝利して、楽勝なんて言ってしまったものだから、二回目のプレイでホカゲの容赦が無くなった。


「あ、ホカゲ、そこに道を置かれると俺の街が孤立して動けなくなる」

「楽勝なんでしょ」

「うぐ」


 口は災いの元、本気になったホカゲは止まらず。何もできないまま負けてしまった。


「なるほど、だいたいわかってきたかも、ホカゲ、もう一回やろう。次は簡単に勝たせないよ」


 マジですかヒカリさん。


 まあ、俺もやられっぱなしではいられないな、勝てるかはわからないけど、一つやってみたい戦術を思いついた。ホカゲに通じるか試してみたい。


 こうして俺たちは初めてのボードゲームカフェを予約一杯楽しんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る