第83話『後3日、水曜、ボドゲ』

 昨日はすしを食べすぎたので、今日は軽めの立ち食いソバで放課後の食事にする。


「早いな、タンガのラーメン屋よりもさらに早く注文が出てきたぞ」

「究極な作業の短縮、これで作業工程に魔法を組み込めば、一品を作るのに十秒、いえ五秒で仕上げることも」


 俺にとっては一番立ち寄りやすい店でも立ち食いソバ初体験の二人には、いろいろな刺激をうけたようだ。


「そろそろ時間、行こう」


 今日の寄り道のメインはホカゲのリクエスト、予約した時間まで少し余裕があったので、立ち食いソバはその面でも都合が良かった。


「予約した伊賀野です。八人です」


 やってきたのは駅そばにあるテナントビル五階のボードゲームカフェである。ホカゲが選び、ホカゲ自身が予約した店、みんなで遊びに行くのにホカゲが幹事を務めるのはこれが初めてであり、人生を通しても幹事は初体験とのこと。


 とても緊張したおももちで、普段も小さいがさらに小さい声で名前を告げた。


「お待しておりました。すぐに御席に案内させます」


 店長とバッジを付けた男性が笑顔を崩さずにすばやく予約を確認、バイトの若いスタッフに指示を出し、俺たちは待つことなく席へと案内された。


 夕方の四時半、コンクリートむき出しの床に黒い壁紙で統一され背が高く壁に沿って特注で作られたと思われる棚には数百種類のボードゲームが整理され収まっていた。窓から差し込む光が薄暗くなる時間帯、不思議な落ち着きがあり、大人な雰囲気だと感じてしまう。


「お客は少ないんだね」


 ヒカリの指摘に同感、俺たち以外には、静かに遊ぶ二人組が二つだけ、四人掛けのテーブル席が二十近くもあるのにガラガラだ。


「平日ですのでボードゲームカフェのメインの時間帯は夜なのです。後、二時間もすればお客は増えてくると思うのです」


 ゲームと名の付く物は網羅していると豪語するレンサクは、この手の情報も持っていた。


「……」


 ワンドリンクを注文するのが店の決まりだそうで、それぞれの前には注文した飲み物が置かれ、沈黙が訪れる。

 いつもは最初に喋り出すサリも、慣れない店の雰囲気に口を閉じてしまっていた。


「…………」

「えっとホカゲ、この後どうすればいいんだ」


 受付カウンターでは棚のボードゲームで好きに遊んでいいとのことだが、ボードゲーム未体験で、どうすればいいのかわからない。


「ホカゲ嬢、何かはじめませんか」


 唯一の経験者であるレンサクが沈黙を破ってくれた。


「ごめん、いつも私から口開くことがないから、みんなから意見が出るの待っていた、えっと、どれかやりたいゲームはある」

「どれかと言われても」

「私たちボードゲーム自体をあまりしらないから」


 まず、意見が言えるほどの知識を持っていない。意見を求められても回答ができないとヒカリと目が合い苦笑い。


「ホカゲさんのオススメでお願いできますか」


 なるほど、さすがヨシカだ。知識が無くてもそうやって意見を出せばいいのか。ここは素直に乗っかろう。


「俺も詳しい人のオススメで」

「やりたいのはたくさんある。でもどれが面白いかは、ほとんど私も未経験で、レンサクにパス」

「仕方がないのです。ボドゲカフェはホカゲ嬢の希望できたので譲っていましたが、パスをもらったからには、ボドゲの楽しさを教えて差し上げましょう」


 仕方がないといいながらも、頼られて楽しそうだなレンサク。


「まずは、簡単な分類の説明から、ボードゲーム通称ボドゲには大きく二つに分けると、気軽にできるパーティーゲームと、時間をかけて遊ぶ重量級ゲームがあります」


 指を二本立て、それからボドゲが置かれている棚をさした。


「このお店は、その分類で棚をわけてくれているようです。小さい箱はパーティー系が多く、大きな箱は比較的重量級が多いですね、絶対ではないですが」

「じゃあ、俺たちが最初にやるのはパーティー系がいいのか」

「その通り、付け加えるならパーティー系はパーティーと名の付く通り大人数で遊べるゲームも数多くあります。ではホカゲ嬢、八人で遊べるゲームで好きなモノを持ってきてくれますか」

「もう取ってきた、これ」


 いつの間に、さすがは忍者、全く気が付かなかった。まさかスキルは使っていないよな。

 ホカゲが持ってきたのは、赤い小さな箱、つまりパーティーゲームってやつか。


「なるほどインサイダーですか、それなら八人でできますね」

「ルール説明、よろしく」

「任せるのです」


 自分が選んだわけでもないのにルール説明できるのか。


「この手のメジャーなゲームのルールは網羅していますので問題ありません」


 メジャーなのか、俺は一切知らなかったけど。

 赤い箱の中には、たくさんのカードと小さい板、そして砂時計が入っていた。


「これはインサイダーと言いまして、簡単に説明しますと、クイズゲームです」


 本当に簡単な説明だ。


「ただ、クイズ番組のように問題を出題するわけではなく、マスターと呼ばれる進行役が知っている答えをみんなで探す協力プレイクイズです」


 マスターの知っている答えをみんなが質問をしていき答えを探す。レンサクの説明では、質問は「はい」か「いいえ」で答えられる質問でしなければならないとのこと、マスターも「はい」と「いいえ」でしか答えてはならないルールだそうだ。

 制限時間があるそうだけど、協力していけば簡単に答えが導き出せそうな気がするけど。


「ただし、この中でマスター以外にも一人だけ答えを知っている人物が紛れ込んでいるのです」


 裏切り者が必ずいるってことか。


「このゲームの醍醐味は、クイズを正解したあとに、誰が裏切り者、インサイダーと呼びます。そのインサイダーを誰かを見つけるゲームなのです」


 ああ、だからクイズが簡単に感じられたのか、クイズは解ける前提なんだ。


「それでは初めての方が多いので、僕が一番手のマスターを務めます。インサイダーはこの配役札を引いて決めてください」


 そういって並べらえっる細い板状の配役札。

 全員が一枚ずつ引いて、他の人には見せないようにこっそりと確認すると、俺の配役はインサイダーと書かれていた。

 つまり俺が裏切り者になるってことか。


「サトルくん、面白そうなゲームだね」

「あ、ああ、そうだねヒカリ」


 やばい、インサイダーを引いたとたんに緊張してきた。まだゲームがスタートしてもいないのに、挙動不審になりそうだ。


「それでは、スタートします。みなさん目を閉じてくださいなのです」

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