第81話『魔法使いのサリⅠ』

 目標であったフットサル大会に優勝。


 祝賀会とかこつけて、ケンジの要望であった寄り道の中では一番単価の高い回転ずしへとやってきた洞窟探検フットサル不思議研究部。


 メンバーは八人、二つに分かれて四人掛けのテーブルに案内される。

 俺、ヒカリ、ヨシカ、ホカゲのテーブルとサリ、タンガ、レンサク、ケンジのテーブルに分かれた。


「珍しいな、サリがサトルと別のテーブルに座るなんて、まだ引きずっているのか」

「いやー、吹っ切れたつもりだったんだけど、体が勝手に別のテーブルに、ちょっと心を落ち着かせる時間が欲しいかも」


 向こうのテーブルでは、回転ずし初めてのヨシカとサトルが、ヒカリからタッチパネル注文のやり方を聞いていた。


「サトッチも回転ずし初めてだったんだね」

「家が母子家庭だからな、あまり外食じたいをしたことが無いらしい」


 ラーメン屋やカレー屋には行ったことがあるそうだが、一食の金額が四桁になる食事は無意識に避けてきたらしい。


「素直に悪魔王の討伐金を受け取ればいいものを」

「それができないのがサトッチだって、ケンジッチもわかっているくせに」

「わかっている。だからこれからも、このような機会を増やしていくぞ、お前たちも協力しろ」

「わかってる」

「お任せなのです」


 すでに最初のすしを口に頬張っているタンガとレンサクが気持ちよく返事をする。


「まさかフットサルをやりにきて、あの時の事を思い出すなんてついてないなー」


 サトルの両足にできた火傷痕。

 あれはサリを助けたために付いた傷。






 異世界に召喚され三カ月くらいの頃だ。基礎訓練と実戦訓練を終えた召喚者たちは勇者パーティーを除き全員が最前線に送られた。強制で連行に近く断ることもできずサリの所属しているパーティーも前線に送られた。


 この時はまだサリはサトルと親しくは無かった。

 パーティーも別であったし、サトル達のパーティーは実力はあるが、扱いが難しいはぐれ者の寄せ集めパーティーとなっていて、他のパーティーからは距離を置かれていた。


 ちなみにこの時のサトルたちのパーティーには。


 復活の儀式を潰して貴族から睨まれている影法師サトル。

 貴族から愛人になれと迫られ決闘にて返り討ちにした聖騎士ヒカリ。

 生贄にされかけて何故か助かった貴族たちのアンタッチャブルな聖女ヨシカ。

 騎士団の囮され仲間を失いその怒りを騎士団にぶつけた盾役タンガ。

 道端の石を金に変えて詐欺師扱いされた錬金術師レンサク。


 第一王女から自由行動の権利を与えられていて、最前線の指揮官たちからも煙たがられている。


 サトルたちは悪魔族の戦いよりも、強力なジョブを持っているからと、危険な戦場に送られるクラスメートの救援を主軸に活動していた。


 何度か戦場でサトルたちのパーティーと遭遇したので、クラスメートのよしみでサトルたちに向かう魔物の群れに何度か魔法を撃ち込んだこともあったり、逆にこちらを狙っている魔物集団がいると情報を教えてもらったこともあった。


 戦いは激しさを増していく、幸いにしてサリのパーティーには脱落者は出ていなかったが、他のパーティーでは脱落者が出てしまっていると噂で聞いた。一部の戦場は勝利することはできても、全体を俯瞰すれば押されている。戦線は徐々に後退していき、次第に撤退戦の支援がサリたちの仕事となっていく。


 支給される道具も食糧も質が落ちていき、武具の修理もおぼつかなくなっていった。


 そして事件は起きた。


 撤退する味方部隊を支援しろと命令され、駆けつけてみたが、すでに味方部隊は壊滅した後だった。


「急いで逃げよう、このままだとあたしたちも逃げ場をなくしちゃう」


 サリのパーティーは急いでやってきた道を引き返すが、その道はすでに瓦礫や材木で塞がれてしまっていた。


「どうして」


 わけがわからない、この道にはまだ敵は到着していないはず。

 明らかに人的な封鎖、これができるのは味方しかいない、だが味方はサリたちが出撃したことを知っているはず。逃げる味方部隊を連れ帰るのがサリたちに与えられた命令だったのだから。


「クソッ、最初から味方部隊が全滅したことを知っていやがったな」


 仲間の一人が吠えた。

 サリも薄々気が付いていた。でも、認めたくなくて考えないようにしていた。


「真帆津、この障害物を魔法で吹き飛ばしてくれ」

「わかった」


 逃げ道はここしかないのだ、逃げるためにはバリケードになっている瓦礫を破壊するしかない。

 サリは瓦礫を破壊する魔法を唱えようとしたが、魔法が発動しなかった。


「魔法が使えない、まさか魔法封じ」


 この残骸バリケードを作った連中はサリの魔法のことを理解している。わざわざ、サリの得意な火炎魔法を封じる魔法封じまで仕掛けていた。


 魔法封じとは特定の魔法を封じることに特化した設置型の魔法であり、特定の魔法を封じるには最適だが、攻撃魔法だけでも数十種類はあり、拠点などに設置するには不向きな魔法だが、何を封じるか明確にわかっていると絶対的な強さを発揮する極端な設置魔法。


「バリケードを破壊させないため、始めからあたしを封じるためだけに仕掛けた」


 もう考えたくないではすまない、命令を出した指揮官はサリたちを最初から殺すつもりだと確信させられた。


 唯一の退路は塞がれた。


 迂回路はまだ無事かもしれないが、魔物相手に逃げ切れるとは思えない。誰かが囮にでもなって魔物を引き付けないかぎり。

 それはパーティー全員が考えた事であり、サリ以外の結論が一致した。


「真帆津、すまん」

「後は頼むぞ!」

「ちょっと!?」


 バリケードを破壊するため巨大魔法を使う準備をしていたサリだけが、他のメンバーと距離を取っていた。そのため一歩どころか逃げ出すのが数歩遅れた。

 ご丁寧に、仲間だったクラスメートは時間を稼ぐために煙幕まで使用した。サリの前に。


 前方には魔物の群れ、迂回路すら煙幕で隠されてしまった。

 逃げ道すらなくなった。

 サリは迂回路とは反対に進む。


 そちらに逃げ道など残されていない。ただ魔法封じの範囲から逃れないと魔法すら使えない。

 ようやく魔法が使えるところまでくることができたが、サリは魔物の群れに包囲されてしまっていた。


「もう自棄だ、焼き尽くしてやる!」


 自身のもっとも得意な火炎魔法、みわたす限りの魔物、狙いをつけなくたって当ってくれる。


 弾幕のように飛び交う火炎球。


 魔力量はクラスのトップクラスだったサリの魔力はまだ余裕があった。しかし、発動体に使っていた杖がサリの魔法が発する高熱に耐えられなかった。

 杖にはめ込まれた重要な核が高熱の魔力に耐えられず溶けてしまい。


 魔法は飛ぶことなく、サリの足元で爆発した。

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