第73話『後6日【裏側Ⅰ】』

 部室ダンジョン内に次元の裂け目が出現した。

 これは偶然では無い、サトルをマーカーにして開かれる次元の裂け目を解析したケンジがコントロールして、ダンジョン内に出現するように誘導した。


「ケンジ、よく誘導できた」

「前の裂け目を閉じずに時間停止で固定したからな、あちらさんは送還できずに根詰まりを起こしたのさ、押し出したいみたいだから、ほんの少し次元を揺さぶってやれば、あっちから勝手にやってくる」

「私のダンジョンも使って」

「最初からそのつもりだ」


 帰宅前、みながケンジにダンジョンの使用許可を出していた。それを有難くうけとり、次元の裂け目を八つにして、それぞれのダンジョンの一階層に作り出す。


「さて、異世界の魔物ども、日本製のダンジョンを存分に堪能してくれ」


 ケンジは遊ぶためにレンサクが設定したセーフティモードをオフにした。


「まずはタンガのダンジョンからか」

「タンガの作ったダンジョンはどんなダンジョン」

「私もまだ詳しくは確認していないが、問題ない、最終的に全員のダンジョンをクリアしない限り、ここまでたどり着けないのだから」


 ケンジはサブコントロールルームから最下層のダンジョンコアがあるメインコントロールルームへと移動した。湧いてくる魔物が数がかなり多そうだと気が付いたから。メインコントロールルームなら他のダンジョンの設定も変更できる。


「できればみなのダンジョンはいじりたくはなかったが」

「謝れば笑って許してくれる」

「それでも謝罪は必要だ、明日の寄り道の経費は全て私が払おう」

「寄り道って経費が発生する?」


 各メンバーに割り振られた20階層、サブコントロールルームを攻略するとカギが手に入り、それを八個集めなければ、ダンジョンコアにたどり着けない仕様にたった今変更した。


「私のダンジョン、セーフティを外せば殺傷性高い」

「私のもだ、最悪他のメンバーのダンジョンが全部突破されても問題ない、私のダンジョンが堰き止めるからな」

「水晶を加工していたはずなのに、ダンジョンも完成させていたの」

「レンサクがダンジョンを作りたいと言い出した時から、設計図を書いていた。魔水晶の加工方法もわかっていたから、水晶が手に入るまでの暇つぶしに丁度良かった」


 攻め込まれているのに余裕で画面を眺める二人。

 次元の裂け目からは、廃病院の時と同じく、紫の鎧を吐き出してから人型の魔物が出てきて、吸い寄せられるように魔物が鎧を装備していく。


「また紫の鎧」

「どこかの悪魔族の拠点を制圧したのだろう」


 ケンジは紫の鎧は最終決戦用の秘密兵器だったのではないかと推測する。量産化を始めたが、悪魔族の兵士へ鎧が支給される前に悪魔王を倒したため、生産された鎧の在庫が、どこかの拠点に残されていたのだろう。


 魔物を強化する鎧、最初は利用しようとしたが、魔物しか強化ができず。保有しておくことに危機感が出たがケンジの推測。時間差で装備できる魔物が送られてくる原理はまだ解明できていないが。


「どうせろくでもない方法を考えたのだろう。まずはオーガが三匹か」


 紫の鎧を装備したオーガがタンガのダンジョンの一階層へと踏み入った。


「ジャングル」

「タンガは植物を成長させるスキルを持っている。大方、低コストの植物を植えてスキルで成長させたんだ」


 部屋の大きさは弄っていないようだが、壁も見えなくなるほどの木々が生え、オーガ達の進撃を遅らせている。


「あの巨漢だ、獣道も無いジャングルは歩きにくかろう。フルプレートの鎧を着ていればなおさらだ」


 草をかき分け、枝を払い、垂れ下がる蔦を引きちぎりながら進むオーガ。そんなオーガ達の背後から長い牙を持ったヘビ型の魔物が飛びついた。

 背後からの攻撃を察知したオーガが振り返り、毒蛇を掴み握り潰した。

 体液が飛び散り、接触した鎧の表面を溶かす。


「毒を強化した魔物ダーツハブか、体液そのものが毒になっているな」

「金属も溶かす強力な毒、一般的な鎧なら重症確実」


 画面を拡大させて、オーガ達の頭上を移すと、大量のダーツハブがオーガ達を狙っていた。牙の先から垂れ落ちる唾液すらも強力な毒で、オーガたちが慌てた足取りでダーツハブの下から移動、しかし、その先には底なし沼があり、重量のある紫の鎧を着ているオーガたちは足が飲み込まれ、数秒で腰まで沼にハマる。


 こうなってはダーツハブから逃げられるわけもなく、飛び掛かったダーツハブが鎧の中へともぐりこみ、オーガを仕留める。倒されたオーガは全身を沼に飲み込まれ、ダンジョンに吸収されるとDPへと変換された。


「ひねりはないが、タンガにしては考えられたダンジョンじゃないか」


 武装オーガ三匹、タンガのダンジョン一階層で全滅。


「ケンジ、次が来た」

「今度はヨシカのダンジョンか、ここはいったいどんなダンジョンだろうな」


 責められているのに危機感の無いケンジは、仲間がどんなダンジョンを作ったのか、ワクワクしながらまるで待ちに待った映画が公開される日の気分で画面を眺める。

 ヨシカのダンジョンに攻め入ったのはオーガの上位種レッドオーガとそれに率いられたゴブリン集団、もれなく全員紫の鎧を装備している。

 ヨシカのダンジョンは草原であった。

 ダンジョン内なのに空があり、外では日が沈み夜の時間だが、ここは明るい昼間の日差しが草原全体を照らしている。


「ヨシカのダンジョン広いね」

「どうやら、階層を半分売却して、階層ごとのスペースを広げたようだな」


 初期は20階層配布された割り当て、ヨシカは10階層を売却してDPを手に入れると、階層フロア自体を拡張していた。


「魔物がいない」

「設置されていないからな」


 ケンジはヨシカのダンジョンの詳細を確認する。

 10階層まで減少したヨシカのダンジョンだが、各フロアはタンガのダンジョンよりも四倍近く拡張されていた。


「階段も見えない」

「隠されている。攻略方法は、草原にいる赤、青、黄色の蝶を殺さずに中央まで連れてくれば、下への階段が出現するようだ」

「それってノーヒントだとクリア不可能」

「もちろん、ヒントは探せば簡単に見つかる石板に書かれている」

「それって字が読めない魔物だとクリア不可能」

「そうなるな」

「サリのダンジョンみたいに制限時間を設ければ、難易度が一気にあがりそう」

「なるほど制限時間か、このまま魔物が徘徊する映像だけ見ていてもヒマだ、追加で制限時間を設けよう」


 下へ降りる階段を探し、草原を歩き回るレッドオーガの集団の頭上にカウントダウンタイマーが浮かび上がった。


「制限時間は六時間にしておいてやる。せいぜいあがけよ」

「六時間経つとどうなる」

「強制退去だ、着た場所に戻ってもらう。裂け目の向こうまでな」

「ケンジ、グッジョブ」


 ホカゲが親指を立てケンジの追加設定を褒めた。


「それなら、ヨシカのダンジョンにもっと魔物を詰め込んでおいた方が面白い」

「いい案だ、私のダンジョンで罠にかかった魔物はヨシカのダンジョンに転移させるか」

「私のダンジョンにもその設定追加して」

「この際だ、全員のダンジョンの捕獲系トラップに引っかかった魔物は全部ヨシカのダンジョンに転移させるぞ」

「六時間後には満員電車並になっていたり」

「それは送られてくる魔物の数しだいだが。今度はレンサクのダンジョンか」

「サリのダンジョンにも来た」


 サリのダンジョンも魔物では一階層の突破は無理だろう。制限時間がきたら、外にではなく、あえてヨシカのダンジョンに転送するよう設定を切り替えるケンジ。

 レンサクのダンジョンに出現したのは悪魔系の魔物であった。牛の顔にサルの体、コウモリの翼とファンタジー物の定番、デーモンである。


 紫の鎧はこちらも標準装備で、配下の上位種と思われるゴブリンを六匹も引き連れていた。


「ゴブリンエリートだな、戦闘力はオーガ並の珍しい魔物だ」


 デーモンは、前に三匹、後ろに三匹の陣形を取らせると、自分は中央にポジションを取り、レンサクのダンジョンへと入ってくる。

 レンサクのダンジョンは外見は弄っていない洞窟型。

 DPを少しでも節約するために、トラップに関係無い内装には一切手が加えられていない。


 これでまでで、一番、ダンジョンぽいダンジョンである。

 デーモンはそれなりに知能が高いようで、ゴブリンエリートに罠を探させながら、ゆっくりとした歩みで進む。


「外見は向こうの世界のダンジョンに似ているからな、ダンジョン攻略など慣れているのだろう。しかし、そこはそちらの常識は捨てた方がいいぞ、何せ私たちのチームで一番性格の悪い職人が作ったダンジョンだからな」


 ゴブリンエリートが床に罠のスイッチを発見、小石に偽装されているが、踏むと罠が発動する典型的なタイプだ。こんな罠に引っかかるかと嘲るデーモン。

 デーモンたちは罠を回避して進むが、罠を回避することが罠の発動条件だった。

 罠の発動を防ぐには、スイッチを踏まないといけなかったのだ。一定以上の体重が地面にかかると罠は自動で発動する。


 デーモンの背後から、道ピッタリサイズの球体型大岩が転がってくる。

 真っ直ぐで、逃げ道の無い洞窟。

 ゴブリンエリートたちは指揮官のデーモンを見捨てて逃げ出し、遅れてデーモンも逃げる。


「あの岩って、発泡スチロールだよね」

「そうだ、DP節約で本物はつかわなかったんだろう」

「デーモンがあれを見て一瞬だけど硬直してた」


 転がり方で本物の岩より数段軽いとわかる。バラエティ番組などでたまに見かけるヤツだ。


「異世界には無い素材だからな、どうやら魔法で鑑定したデーモンが未知の素材に驚愕したようだ」


 騎士の小隊と互角だと評価されるデーモンが発泡スチロールの大岩にビビッて逃げる。


「レンサクは狙ったわけじゃないのに、コントになった」


 まさか仲間と遊ぶために作ったダンジョンでデーモンがコントやるなんて、製作者のレンサクも思うまい。

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