第71話『後6日、初アタック?』

「誰のダンジョンからアタックする」

「俺からでもいいぜ」

「当然、僕からでもいいのです」


 名乗りを上げたのはタンガとレンサクの二人、意外だったのはサリが名乗り出なかったことだ、いつもならこの手のイベントには一番最初に名乗り出るのに。

 サリの挙動不審にはみんなが気が付いた。

 そもそも、部活の名前にダンジョンアタックと付けるほどのダンジョン好きが、どうして消極的なのか、とても気になります。


「ちょっと、普通のダンジョンの作りじゃなくなっちゃたから、他の人のダンジョンを見てからにしたいなーなんて」


 ますます気になってきた。

 俺の視線に気が付いたサリが明後日の方向をむく。

 いったいどんなダンジョンを作ったのか。


「サリのダンジョンが見てみたい」

「ちょっとホカッチ、どうしてあたしからなの」

「あ、やっぱり俺もサリからでいいぞ」

「僕も賛成なのです」

「どうしてあたしから!?」


 ホカゲの提案に、意見をひるがえすタンガとレンサク。


「サトッチー」


 サリが俺に助けを求めてくるが、すまん、俺もサリのダンジョンが気になります。


「ダメなのか」

「ダメじゃないけど、かなり趣味に走ちゃって、ダンジョンと関係なくなったと申しますか、できちゃったからやちゃった、みたいな作りで」

「サリ、ごめん、そこまで言われると私も気になってきちゃった」

「すみません、わたくしも」


 黙っていたヒカリとヨシカもサリのダンジョンが気になりだしてしまい、ケンジはこの場にいないので、サリ以外の全員がサリのダンジョンを見たいで意見が一致した。


「こうなってしまえばしかたがない、サリのダンジョンを最初にアタックします」

「そんな!?」

「部長権限を発動します」

「ぐぬぬー、わかったよ、でも、ダンジョンぽく無いとかで怒らないでよ」


 こうして最初のダンジョンアタックはサリのダンジョンと決定した。


「ダンジョンの名前とか付けたのか」

「一応、挑戦者ダンジョンって付けてるけど、まだ仮名だからね」


 洞窟の入り口が赤色に変わる。


「挑むダンジョンによって、製作者の魔力光と同じ色が出る仕組みにしてみました」

「芸が細かいな」


 わかりやすいけど、いったいいつ、こんなシステムを作る時間があったんだ。


「えーい、ここまできたら開き直ったぞ、絶対にサトッチたちには突破できないダンジョンになっているから、覚悟してよね」

「もう忘れたのかサリ、異世界で俺たちに攻略できなかったダンジョンは無かったんだぜ」

「忘れてたのはサトッチの方でしょ」


 その通りです。ナイスツッコミ。


「では、みなさんこれを付けてください」


 レンサクが、フットサルの大会に出るために用意したレベル調整リストバンドを全員に配る。


「レベルを調整するのか」

「当たり前なのです。これを付けなければ出来立てのダンジョンなんてヒカリ嬢一人で完全攻略されてしまうのです」

「だから、製作できる魔物もレベル20までって制限があったのか」


 このリストバンドはレベル15になるように設定されているらしい。

 レベル20の魔物がいるダンジョンにレベル15で挑むか、これはごり押しでは攻略不可能、知恵や戦略が必要になる。


「あたしのダンジョンに限れば、そのリストバンドが無くてもクリアできないかもね」

「そうとうな自信だな」


 サリは不敵な笑みを浮かべるとサブコントロールルームへと転移していった。





『ここが、ダンジョンの一層目になります』


 少し緊張と多くの自信を含んだサリのアナウンスが流れる。


「説明されても納得できないのです。隣の部室とつなげたのでは」


 レンサクの疑問はもっともだ。

 ダンジョンに入ったはずなのに、一層目はロッカールームとなっていた。


『だから言ったじゃん、普通のダンジョンじゃなくなっちゃったの、最初は、普通の魔物とか迷路とかを作ろうとしたんだよ、でも、DPがぜんぜん足りなくなっちゃって』


 うん。そうだね。

 最初のDPだと、うまい節約術を見つけ出さないと、どうしても足りなくなるよね。

 それをどうやって克服するかが、醍醐味だったけど。


 ロッカールーム。かなり作りこまれている。この部屋を作るだけでもけっこうなDPを使ったと思うんだけど、ロッカーの他にも本棚があり、そこにはサッカーに関する書物がたくさん並んでいた。サリらしい、ここはサッカー部の部室をイメージしているのか。


「一通り調べましたが、この部屋には罠は仕掛けられていないのです」

『うん、そこは完全にロッカールームとして作ったから罠なんてないよ、DPが足りなかったから』


 正直だな、つまりこの部屋を出れば、地下二階に進めるのか。


「では、さくっと攻略して、別の人のダンジョンをアタックしましょう」

『おっと、レンサッチ。普通のダンジョンじゃなくなったけど、レベルを落とした状態じゃ、あたしのダンジョンはクリアできないよ。あたしが自分のダンジョンをおススメしなかったのは、ダンジョンぽく無くなったってのもあったけど、クリア不可能なダンジョンを作ってしまったから、みんなに悪いと思っておススメしなかったの』

「ほう、すごい自信じゃないか」

「まったくなのです。僕たちの実力を知っているのに、そこまで豪語するとは、是非ともクリアしたくなりました」


 タンガとレンサクが本気モードになった。

 遊びだということだけは忘れないで欲しい。


『ホントにやるの、サトッチたちは』

「ここまで来たんだから、挑戦でいいんじゃないか、俺もクリア不可能なダンジョンって気になるし」

「結局はみんなのダンジョンを見せ合うことになるんだから、このままでいいんじゃない」

「そうですね」

「同感」


 女性陣にも反対者はいなかったので、このまま挑戦することとなった。


『ホントに後悔してもしらないよ、それじゃダンジョンアタックスタート』


 スタート宣言と同時に空中にタイマーが浮かび上がった。一時間三十分と表示されカウントダウンが開始された。


『説明するね、あたしのダンジョンは制限時間有り、九十分でクリアできないと失敗、入口に強制転移されるから、急いでね』

「時間制限付きか、DPでできたはずだけど、コストはかなり高かったよな」

「時間制限は8千DPなのです」

「マジかよ、それじゃサリは残り2千でダンジョンを作ったのか」

「DPを増やしたのでしょう。サリ嬢、さては階層を売却してDPを増やしましたね」

『さすがはレンサッチ、その通り、階層を壊してたら、たまたま売れるってわかって、換金したの、おかげでなんとかダンジョンを完成させられたよ』

「マジか、そんな方法でDPが増やせるなんて、最初に教えろよレンサク」

「ヘルプには書いておきました」


 ヘルプに書いてあったのか、実は俺もたまたま売却できることを知った口だ、見ただけで操作方法がわかったのでヘルプは読んでいない。


「説明書はちゃんと読まないと」

「階層を売却できないと、とてもDPはたりませんでしたね」

「知らなかった」


 真面目なヒカリとヨシカはヘルプを読んで知っていたようだ。


 気が付かなかったのはタンガとホカゲの二人だけ、ガックリと肩を落として崩れ落ちる。


『ちょっと、勝手にダメージ受けないでよ、あたしはまだないもしてないよ!』


 ごもっとも。


「うるせぇ、こうなったらさっさとクリアしてダンジョンを作り直す」

「罠が無いなら、このまま突破する」


 崩れ落ちた二人が立ち上がり、速攻のクリアを狙ったのだが、扉が開かなかった。


「カギを探すタイプの部屋ですね」


 開かないドアにレンサクがカギ付きと判断。


「ロッカーのどれかに入っているのか」


 タンガは手近なロッカーから漁りはじめる。

 ダンジョンの制作において、いくつかのルールがある。これはレンサクが作った仕様ではなく、どんなダンジョンであろうと絶対に守らなくてはならない不変のルール。


 その中の一つに、入口からダンジョンコア、この場合はサブコントロールルームまでの道を絶対に繋いでいなければならないこと、必ず攻略できるルートを設置しなければならない。完全に道をふさいで攻略不可能なダンジョンにすると、コアの力は急速に弱まりダンジョンが消滅してしまう。


 仮に扉やトラップで道を塞いだとしても、必ず解放できる方法を設けなければならない。


『タンガッチ、荒らさないでいいよ、ここの扉の開閉条件はクイズ。五問中三問正解すれば扉が開くから。クイズも絶対に答えられる問題しか出しません。失敗した場合もペナルティで五分の待機だけ、再チャレンジは何度でもOK』


 絶対に答えられない問題は、道を塞ぐのと一緒なので、それはできない。

 クイズをやるのは時間稼ぎか、制限時間を設けているダンジョンだから理にかなっている。


「さくっとクリアしてみせるのです」

『それじゃ問題ね。第一問、サッカーの試合中、ボールが外に出たり、反則でプレーが止まった時間を試合に追加するルールのことをなんと言うでしょう』


 クイズってサッカー関係なのか。

 俺たちの中でサッカー経験者はサリだけだぞ、専門用語じゃないか、サッカー漫画を読んだときに書いてあった気がするけど、覚えていない。


「レンサクわかるか」

「サッカー漫画を読んだときに、書いてありました。なんとかタイムだったかと」


 殆ど俺と同レベルの知識、いつも自慢しているオタク知識はどうした。


『ちょっと、六人もいて誰も知らないの、このくらいサッカーを知らなくても一般常識だと思ってた』


 サリにしたら、即回答できるお試し問題のつもりだったようだ。


「アディショナルタイムですか」

『おおーヨシカッチ正解』

「よくわかったなヨシカ」

「ここに書いてありましたから」


 いつの間にか、本棚からサッカーのルールブックを取り出していたヨシカ。回答できない問題は出してはいけないルール。


「もしかして、答えは全部あの本棚にあるのか」

『あるよ、せっかくフットサルの大会に出るんだから、サッカーやフットサルのことをもっとみんなに知ってもらおうと思って、ちなみにサッカーとフットサルは別の競技だって認識の方が混乱は少ないと思うよ』

「わざわざ本で調べないとダメなのですか」

『当然だよレンサッチ、スマホ検索は禁止だからね』


 まさかこんな所で、サッカーやフットサルの勉強をやらされるとは思わなかった。

 確かに知識は身に付いたけど、たった一階層をクリアするのに一時間もかかってしまい、残り時間は後三〇分。


 このダンジョンは予想よりもはるかに難易度が高かった。


「まさかここまで手こずるとは」

『あのさ、あたしはこの階層、十分くらいで突破されると思ってたんだけど』

「ぐぬぬ」


 悔しに歯噛みするレンサク。

 精神攻撃までしてくるとは、このダンジョンは予想よりも、はるかに高難易度だった。

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