第68話『後7日、ダンジョン生成』
「水晶を探す必要はないのです。作る方法を見つけました」
手分けして水晶を探そうとした矢先にレンサクが自信たっぷりに宣言した。
「その方法とはダンジョンなのです」
『なるほど、ダンジョンは魔力により成長する。我々の手にかかれば』
「その通りなのです。気が付きましたかケンジ」
『もちろんだ、その場にいない私では協力できないが、頼むぞ』
「任されたのです」
二人だけで話を進めないで欲しい、会話にまったく付いていけない。
「あのよ、俺たちにもわかるように説明してくれないか」
こういう時にすぐに知らないことを、聞けるタンガは地味にすごいと思う。
「ヌフフ、それでは説明しましょう。ダンジョンコアに魔力さえ流せれば誰でもダンジョンマスターになれます。そしてダンジョンは魔力を吸って成長、その成長方向はダンジョンマスターによって自由に決められます」
「つまり、水晶を生み出すダンジョンを作るってこと」
「その通り、ヒカリ嬢は呑み込みが早い」
「けど、そんなに簡単にダンジョンって成長するのか」
「ここにいるメンバーがどんな存在か忘れましたかルトサ、あの悪魔王すら討伐したレベルカンスト集団ですよ、保有魔力量は異世界でもナンバーワンでした。自然発生のダンジョンは大気中の魔素を吸収して成長しますので、時間がかかりますが、このメンバーが全力で魔力を流し込めば、水晶の産出など半日もかかりません」
なるほど、説得力のある説明だ。
「調べたところ、ダンジョンマスターの他にもサブマスターが登録できるようなので、マスターを僕が、みんなをサブマスターにすれば、どんなに狂暴なダンジョンに成長しても襲われる心配はありません」
『いざというときのための、訓練場としても使えるだろう。異世界から干渉が続いている現状、この世界でも私たちが全力で訓練できる場所は必要だ』
サッカーのグラウンドが狭いって表現していたもんな、周囲を気にしないでヒカリたちが全力を出せる場所なんて、確かに日本には存在しないかも。
「ダンジョン内部は広く作れるのか、サッカーのグラウンドよりも」
「もちろんなのです。それこそ込める魔力しだいでは、無限に広げられるはずです。理論上は地球よりも大きく作ることも可能ですが、それほどの広さを作るには、悪魔王が千人いても足りないのです」
ヒカリの全力攻撃でバラバラに吹き飛ばされても、魔力のごり押しで再生した悪魔王が千人いても足りないか、スケールが大きすぎるな。
もっとも地球と同じ広さのダンジョンなんて管理もできないから、欲しいとも思わないけど。
「説明は以上です。質問があれば受け付けるのです」
「ここにダンジョンを作るつもりなのか」
「はい、正確には異空間に作るので、入口だけ部室に設置されるが正しいのです。ですから、ダンジョンが巨大な建物型だとしても、部室棟には影響はでません」
「ダンジョンは建物型にするの」
俺に続いてヒカリが質問をした。ダンジョンには大きく分けて二つのタイプがある。洞窟などの形をした地下に伸びる洞窟型と、上に伸びる塔などが代表の建物型。
どっちも異世界には存在していたダンジョン。
「建物型も悪くありませんが、初回ですので、王道の洞窟型ダンジョンがいいかなと思っています」
初回って二つ目も作るつもりなんですか。
「いいねいいね、洞窟探検部だからね」
ノリノリのサリさん。思い返せば部活名を命名したのはサリだった。
「レンサッチ、私もサブマスターになれるなら、ダンジョンの仕掛けとか作っていいんだよね」
「もちろんなのです。僕の予想では七十階層以上のダンジョンができるのは確実なので、一人、十階層は好きにレイアウトができるのです」
「やったー、ダンジョン制作って前からやってみたかったんだよね、完成したら、それぞれのダンジョンを攻略勝負とかしてみよう」
本当に勝負事が好きですね。でも、心躍らされる提案だな。
「それはたいへん、面白そうなのです」
「でしょ!」
とても盛り上がるレンサクとサリ、だがその気持ちはよくわかる。二人がはしゃぎ出したので乗り遅れたが、俺もダンジョン制作と聞いて少し興奮していた。
「男の子だね」
「男の子ですね」
ヒカリさん、ヨシカさん、その温かい目は何ですか、ダンジョン制作がリアルにできるとなれば、興奮するでしょ、オタクなら誰だって一度は自分がダンジョンマスターになったら、こんな仕掛けを作ってやるって考えているはず。
「大丈夫サム、私もダンジョン制作、燃えてる」
隠れゲーマーのホカゲは俺の味方をしてくれた。
「私がサムと仲良くダンジョンを作る。二人は見学でもいい」
「ちょっと、誰もやらないなんて言ってないよ、サトルくんがやるなら、絶対に私もやるから」
「そうです。絶対に参加します。サトルさん、ぜひアドバイスをお願いします」
余裕だった二人がホカゲに挑発されて、やる気に火が付いた。
オタク知識はないが、数多くのダンジョンを攻略してきた二人だ、サブカルチャーを知らない分、効率だけを求めてダンジョンを作られたら、想像もしない罠が設置されるかもしれない。
想像したら、ちょっとだけ怖くなった。
「みなさんがやる気を出してくれて、なによりなのです。それではダンジョン制作に取り掛かりましょう」
レンサクがダンジョンコアを棚などが置かれていない、壁の前に置いた。
「ここをダンジョンの入口にしましょう。さぁみなさん、全力の魔力をお願いするのです。トップバッターは当然この僕が務めます」
レンサクは置かれたダンジョンコアに手をかざす、中腰になり自身の魔力、黄金色の魔力を練り上げ、全力でコアへと流し込んだ。
「さぁダンジョンコアよ、僕たちのダンジョンを生み出すのです」
黄金の魔力を吸い取ったコアは浮かび上がり壁に飲み込まれていく、空間が歪み白かった部室の壁に、先が見えない洞窟が姿を現した。
「ふー、久しぶりに全力を出しました。やっぱり力を押さえて生活していると、体がなまってきているのですね」
とてつもない魔力だったが、レンサクは満足できなかったようだ。
「ダンジョンが完成したら、中でなまらない程度の運動は定期的にやった方がよさそうです。さて、ダンジョンの様子は。みなさん、ダンジョンステータスオープンでダンジョンの様子が見える仕様にしておきました。確認をお願いするのです」
まったくレンサクはワクワクする使用を追加してくれるな。さっそく。
「ダンジョンステータスオープン」
目の前に青いディスプレイが浮かび上がった。
「いきなり21階層までできたのかよ」
「25階層はいけると思ったのですが後は頼んだのです。目標は人数×10階層プラス採集用に10階層、合計80階層を目指しましょう」
「OK、次は俺がやるぜ」
レンサクの次に名乗りを上げたのはタンガだ。盛り上がりに乗ってこないと思ったら、ずっと魔力を練って集中していたようだ。
タンガもやはり男子、ダンジョン製作に興奮を覚えた一人だった。
「いくぜッ!!」
気合の掛け声と共に、緑色の魔力をダンジョンに流し込む、いつの間にか洞窟の入り口に浮かび上がったダンジョンコアが残さず緑の魔力を吸収してダンジョンの中へと潜っていく。
おお、青いディスプレイに表示されているダンジョンがみるみる成長して階層が伸びる。
「はー、なんとか目標の10階層は作れたな」
前衛タイプで、魔力ではなくスキルで戦ってきたタンガは、メンバーの中では魔力をあまりもっていない。それでも10階層は作った。
俺はタンガよりも魔法は得意で、それなりに使用していた。
できれば、タンガ以上の記録をだしたいけど。
「次は俺にやらせてくれ」
再び入り口に浮かび上がるダンジョンコア。
記憶が戻り、魔力の扱い方も思い出している。
俺はぶっ倒れる直前まで、魔力を振り絞る。俺の黒い魔力を全て吸い取り、ダンジョンへ潜っていくコア。
伸びた階層はたったの2階層であった。
そうですよね、魔力の使い方を思い出しても、まだレベルが20にもなっていないので、絶対的に総数が少ないんだ。
がっくりと崩れ落ちた。その原因が魔力の枯渇からくるのか、たったの二階層しか伸びずにガックリときたのかは俺にもわからない。多分両方だろうな。
「サトルくん、いくらなんでも絞り出しすぎ、早くこれ飲んで」
立ち上がることすらできなくなった俺の口にヒカリが魔力回復ポーションを流し込んでくれて、復活できた。まだすこしクラクラするけど。
「気にするなよ、助け合ってこその仲間だろ兄弟、俺たちの階数を合計すれば一人10階層のノルマは達成しているんだから、あとは強力な女性陣に任せようぜ」
そうですね。忘れてはいない、いつも前衛で暴れているけど、ジョブは魔法のエキスパートで楽しいこと大好き女子が、やる気で燃え上がっていることを。
「まっかせなさーい、サトッチの敵はあたしが取る!」
「死んでないぞ」
「勝負だ、ダンジョンコア。新記録はあたしが出す。ファイヤー!!」
「間違ってダンジョンコアをシュートしないでくれよ」
人の話を全く聞いていない、サリからあふれ出す、炎よりも真っ赤な魔力。
間違いなく、俺たち三人よりも高濃度の魔力を吸い取ったダンジョンコアは猛スピードでダンジョンを拡張していく、その結果は。
「35層も伸びたのです」
俺たち三人の合計よりもサリ一人の方がすごかった。
「やっぱりあいつは、存在が詐欺だ」
「ちょっとちょっと、誰の存在が詐欺よ」
魔法使いなのに前衛で格闘家みたいなことをしている人のことだ。きっかけは俺なんだけどね。
その後、ヒカリは30階層、ヨシカは27階層、最後に魔法職ではない忍者のホカゲでも13階層と合計で138階層と目標の約2倍のダンジョンが完成した。
「さすがに今日は疲れたのです。水晶の生成ができるようにだけ設定して、続きは明日にしませんか」
レンサクの提案に反対する者はいなかった。
部活は終了、解散となり――自室のベッドで目覚めたんだけど、違和感がある。
ここは間違いなく俺の部屋だけど、昨日はいつ寝たんだっけ。
「おはようサトルくん」
これは夢の続きなのか、どうしてヒカリが俺の部屋にいるのでしょう。
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