第67話『後7日、リストアップ』
「みんなでフットサルの大会に出たいです。部活の名前にもフットサルって入っているから、一度くらいやってみたいです」
フットサル。五人でやるサッカーに似た競技ってこと以外はまったくしらないんだけど。
「大会なんて、出れるものなのか」
俺の疑問、部活の名前には確かにフットサルと入っているが、申し込みなんて簡単にできるものなのか。
「公式の大会じゃなくて、フットサル場とかでも小さな大会を頻繁に開いているか
ら、そっちなら大丈夫」
「わたくしたちは素人ですが」
ヨシカの疑問。おそらくサリ以外はサッカー未経験者。体育の授業くらいでしかやったことがない。
「それも大丈夫、小さな大会なんて数人が経験者で残りは素人って普通によくある」
「逆に俺たちが一般人相手に競技していいのか」
タンガの疑問。俺以外はレベルカンスト、力を制御しているので普段の生活には問題は出ていないが、コンタクトスポーツなんてやったら相手をケガさせてしまいそうだ。
その疑問にはサリではなくレンサクが答えた。
「ヌフフ、それなら問題ないのです。こんなこともあろうかと、レベル10に戻ったルトサのデータを参考に作り出した。レベル調整リストバンドがあるのです」
ブラックカラーに黄色いラインが入ったリストバンド。
「これを装着すれば、レベル10にまで身体能力を下げることが出来ます。スキルの封印などはできませんので、身体強化系のスキルはオフにしてください。そうすればちょっと強い一般人の完成なのです」
「ああ、サリ基準で言うと、県大会では活躍できるけど、全国では通用しないレベルになるのか」
こっちはルールを知らない素人集団なのでちょどいいレベルかもしれない。
「男女別でチームを作ると、チームメンバーがたりないんじゃない」
ヒカリの疑問。そうだった、実戦では男女関係なく戦ってきたので、スポーツは男女別が当たり前なことをすっかり忘れていた。
「それも大丈夫、ミックスってジャンルがあって、男女混成チーム限定大会もあるから問題無し」
「そんな大会あるんだ」
「うん、あるの」
サリのやりたいことはフットサルの大会と決まった。
「ダンジョン制作にフットサル大会か、これが我が部活の活動内容からまったく外れていないのが恐ろしい」
「だよね」
思わずヒカリと苦笑いをしてしまった。
「あの、わたくしもやりたいことがあるのですが、部活動と関係無いことでもいいでしょうか」
「ぜんぜんいいぞ、最初からそのつもりだから、どんどん言って」
「では、わたくしは寄り道をしてみたいです」
「――はい?」
「カラオケやゲームセンターに行ってみたいです」
一気にスケールが小さくなったというか、そんなことなら、わざわざやりたいことに上げなくても、今日の帰りにでも寄り道をすれば。いや、ヨシカはお嬢様で家は厳しくて寄り道も禁止されていたんだった。
これまでは、勇者や外園のおかげで、穏やかな帰り道ではなかった。
だが落ち着いている今なら、寄り道をしても問題ない。
「前にお父さんから寄り道の許可をもらったって言っていたよな、もちろんOKだ」
「よかったです」
両手を合わせ、本気で喜ぶヨシカ、他の人には簡単にできる事でも、禁止されていた人間には寄り道でさえも憧れをいだくのか。
『だったら、俺も、その寄り道を希望する』
ヨシカだけではない、ケンジも芸能一家で相当なお坊ちゃまだった。
『ただし、私が行きたいのは、赤いカウンターのあるラーメン屋と食券があるカレー屋、立ち食いソバも経験してみたい、そして回転するお寿司屋に行くぞ!』
こいつ本当に体調不調で休んでいるのかと、忘れさせるくらいの熱量で、やりたいことを口にした。寄り道でもヨシカのレジャーと違う、食を求めているようだ。
「いいんじゃないか、カラオケに行った後にラーメン屋みたいなコースで動くこともできるし」
「いいですね、まさに憧れの寄り道です!」
『流石は親友、素晴らしいアイディアだ!!』
いやー、まさかカラオケの後にラーメン食べようって言っただけで、褒められる日がくるとは、人生何が起こるかわからないねー。
「フットサルの大会に優勝して、その祝賀会を回転寿司でやるのはどうかな」
「『なるほど』」
いつの間にか大会で優勝を目指しているサリさん。参加するだけではなかったのね。
あと意見を出してないのは。
ホカゲが小さく手を上げ、小さな声でやりたいことを教えてくれた。
「私もみんなで行ってみたい店がある。一人だと怖くて入ったことがないんだけど」
ホカゲが怖がるなんて、どんな店だ。ホラーハウスとかかな。
「ボードゲームカフェに行ってみたい」
違ったホラーハウスではなかった。
「ボードゲームカフェ?」
聞きなれないカフェだった。名前からボードゲームをするカフェだとは分かるけど、コーヒー飲みながら、人生ゲームでもやる店なのか。
「フフフ、ここは僕が説明しましょう。ボードゲームカフェ、通称ボドゲカフェ。海外のさまざまなボードゲーム、ボドゲを集めたカフェで、席料を払いドリンクを注文すれば、店内に置かれているボドゲで遊ぶことができるカフェなのです」
「そんな店があるんだ」
「日本ではスマホアプリやテレビに繋ぐゲーム機などが人気ですが、海外では友人や家族で電気を使わないアナログゲームも人気があり、数多くのボドゲが存在するのです」
「レンサクも詳しいだな」
「この僕がゲームと名の付く物に手を出さないわけがないのです。僕としてはホカゲがボドゲに興味を持っていたことに驚きでした」
「ボードゲームは昔から好き、でも一緒にやる相手がいなかったから、ファンサムで遊んでた」
「な、なるほど」
俺はボードゲームと聞くと人生ゲームくらいしか思い浮かばないけど、そんなにたくさんあって、店ができる位に人気があったのか、知らなかった。
「面白そうだから、ボドゲカフェもありでいいよな」
「異議なし」
反対する部員はいなかった。
「オススメの店があるのです」
「レンサクなら信じられるから、任せる」
「任されたのです」
これで残りはヒカリとタンガの二人だな。
「ヒカリとタンガは何かない」
「そうね、今までの意見で十分楽しめそうだから、これ以外でやりたいこと、やりたいこと、もうちょっと考えるから、タンガくんから先にどうぞ」
「タンガももう少し考えるか、慌てなくていいけど」
「いや、やりたいことは一つあるんだがな、ちょっと時期じゃねぇんだわ」
「海で遊びたいとか」
時期と聞いてパッと思いついたのが、海で海水浴か雪山でのウィンタースポーツ、タンガのイメージは海だったので、海と聞いてみたが違った。
「それもいいが、俺がやりたいことで、頭に浮かんだのは花火なんだよ、手で持ったり、自分たちで設置して火をつける個人用の花火をやってバカ騒ぎしたい」
花火か確かにあれは夏ってイメージが強いけど。
「別にいいんじゃないか」
「そうだね、でもこの辺りで花火できる場所ってあったっけ」
ヒカリの疑問に俺も考えてみた。日時計公園は花火類は禁止、角森と最初に戦った川もたしか花火とかバーベキューなんかも禁止だったはず。花火にバーベキューか、できたら楽しそうだ。異世界で旅していた頃は、屋外で調理する機会はたくさんあったけど、魔物の襲撃を警戒しながらだったから、豪快に肉を焼くことなんてできなかった。
「そうなんだよ、このあたりの広場は軒並み火を使った遊びは禁止されてるんだ」
すでに探した後なんですね。
「ちょっとでも火をつければ、通報されてパトが飛んできやがる」
「経験済みなのか」
「ノーコメント」
「私もやりたいこと思い付いた。花火から連想したんだけど、みんなで材料を買い出しするところからを含めて、バーベキューがやりたい」
たぶん俺と同じ想像をしたな。
「どこかに日帰りできるキャンプ場でも探してみるか」
「放課後にできるかな、狙うとしたら明日の日曜日だけど、前日に予約って取れるの」
サリに現実的な指摘をされた。キャンプ場なら花火もできるって、テレビで見た気がするだけで、基本インドア派だった俺にその手の知識はない。説明魔のレンサクも今回は黙っているのでアウトドアの知識は持っていないのだろう。
「でしたら、わたくしの家の庭でやりましょう」
「はい?」
「花火とバーベキュー、できる場所が無いなら、わたくしの家の庭でやりましょう」
あのヨシカさんの家の庭はバーベキューや花火をやるほど広いのですか、豪邸だとは聞いたことがあるけど。
「三百人規模のパーティーを前にやったことがあるので、多分大丈夫だと思います」
「それは多分じゃなく、絶対に大丈夫な広さなのです」
あまりの驚きにレンサクのツッコミにも力が無い。
「でしたら決まりですね、材料からみんなで選ぶ、これはとても心躍る企画です」
ヨシカが乗り気になったので大丈夫なのだろう。
「これでみんな意見は出たな」
「サトルくんの意見がまだだよ」
「俺はこのリストを作ることがやりたいことだったから大丈夫」
まとめると。
ヒカリ。材料選びからやるバーベキューinヨシカの家。
ヨシカ。寄り道、カラオケやゲームセンター。
サリ。フットサルの大会(優勝?)。
ホカゲ。ボードゲームカフェ。
タンガ。花火inヨシカの家。
レンサク。部室でダンジョン製作。
ケンジ。寄り道パートⅡ、ラーメン、カレー、そば、回転寿司。
うん。面白い。
こうして、やりたいことリストが完成した。
「ではルトサ、最初に水晶を見つけた人から、やりたいことができるのですね」
あ、そういう主旨だったことをすっかり忘れていた。
「忘れてたねサトルくん」
さすがヒカリ、鋭い。
「さぁみんな今日中に水晶を見つけだろう」
俺は勢いでごまかした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます